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あじろ けい

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花嫁の父 あらすじ

致死率90パーセントの伝染病に果敢に立ち向かった槙原医師の心残りは、娘の花嫁姿をみることだった。娘・裕子には婚約者がいたが……。






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テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 プロローグ:槙原慎太郎の日記

5月8日
球里(きゅうり)熱の発生地域、F県N町入り。陸路はすでに封鎖されているため、自衛隊の輸送ヘリで空路現地に入る。
現地の様子は比較的落ち着いていて、予想されていたパニックもあまりないよう。物資も、今日スーパーを見て回った限りでは、日用品に関しては足りている。我々医療チームとともに輸送ヘリが運んだ物資でしばらくはもつか。野菜や肉、魚などの生鮮食料品などは、感染を恐れてか、店頭ではみかけなかった。

5月9日
治療開始。とはいえ、致死率が非常に高く、これといった治療法のない球里熱に治療も何もないのだが……。球里熱に感染すると、高熱を発症、体中の水分がなくなろうかというほどの嘔吐と下痢を繰り返すので、対処療法として、解熱剤投与、栄養剤の点滴のみ。あとは人間の体力にまかせるほかない。医者として、人間として、無力な自分が悔しい。

5月10日
N町での死亡患者数が3桁に。2月におそらく最初の球里熱感染者とおもわれる患者が死亡して以来、感染はおとろえるところをしらない。
戦後すぐに球里博士によって発見された球里熱は、ウイルスが原因とされる。感染力の非常に強い球里熱だが、空気感染はしないことが確認されている。患者の体液、排泄物に触れなければ感染しないのだが、巷ではいろいろな噂がささやかれているようだ。マスコミはきちんとした情報を伝えて欲しいものだ。

5月11日
死亡者数がN町人口の半数となる。死亡者のほとんどが60代以上のお年寄り。しかしなかには小学生の患者もいて、高熱にうなされているのに、何もしてやれないのは辛い。

5月13日
持ってきた医薬品がすべて盗難にあう。すぐに、薬品を送ってくれとの連絡をする。
犯人の見当はついている。激しく怒りを覚えるが、私が彼の立場であったなら、同じような行動に出たかもしれない。かわいい盛りの子どもがいたら、他人はどうでも自分の子どもだけは救いたいと思うだろう。かなしいかな、それが人間のエゴというものだ。

5月20日
医薬品いまだ届かず。死者は増える一方。このままでは、戦後のN県、H県と同じ状況、町ひとつがまるまる消えてなくなるということになりかねない。ここ一週間ばかり天候が悪く、陸路も空路も遮断されているとのことだが。本当に手段はないのか。国は我々を見捨てるつもりか。

5月23日
トラックにて陸路、薬が運ばれる。助かった!
ニュースで我々の状況を知り、トラックを走らせてきたのだそう。ここのところの激しい雨で、地盤がゆるんでいて、悪路だったのではないかと聞くと、それほどでもなかったと言う。金髪で、腕には彫り物(いまどきはタトゥーというのだそうだ)がある、いかにもな今どきの若者だが、人はみかけによらないもので、意外の気のいい青年だ。

5月25日
タッチャンから、私のことが話題になっていると聞く。
N町への医療チーム派遣が決まったとき、では誰が行くかという話になったのだが、致死率の高い球里熱の治療とあって、なかなか手をあげるものがいないなか、私は、若いものを行かせるよりは、と立候補したのだった。子どもたちはみな成人しているので、私に万が一のことがあったとしても困ることはないだろうとおもったのだが、その話がどこからか漏れたもので、マスコミは私を英雄視しているのだとか。こちらでは、テレビも新聞もみないようにしているので知らなかったのだが。
トラックの運転手をしているタッチャンは、その報道に影響されたらしい。自分には嫁も子どももいないから、死んでも困る人間はいないし、どうせ死ぬのなら人様の役にたって死にたいと、誰もが二の足を踏んだN町への物資輸送を敢行したのだとか。
年寄りの私は、あとのお勤めは死ぬだけだが、タッチャンのような若い者は生きて人の役に立つべきだ。薬を運んでくれたのはありがたいが、死んでも困る人間はいないからなどと考えるのはやめろと説教しておいた。

5月26日
朝から体がだるい。起きたときには微熱のようなものが、さきほどはかったら9度近くまではねあがっている。食欲がなく、倦怠感と疲労感、吐き気がひどい。

5月27日
熱40度。おそらく球里熱に感染。タッチャンが、トラックでN町から連れ出すと息巻いているが、おそらく難しいだろう。タッチャンが感染していないことを祈る。若者は生きなければならない。死ぬのは年寄りだけで沢山だ―

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 1-1

 梅雨入り間近をおもわせる生ぬるい朝を、皇(すめらぎ)拓也と美月龍之介は富士見台総合病院でむかえた。
 ちょうど2時間前の午前6時、スメラギは美月からの電話でたたき起こされた。
「スギさん、大変だ、姉さんが病院に運ばれたっ!」
 感情の乱れなど滅多にみせない美月のいつになく慌てた様子に、スメラギはハリネズミのような白髪頭の寝グセもそのままに、富士見台総合病院にかけつけた。
「スギさんっ」
 手術室の前のひとだかりから、美月がスメラギのもとにかけよってきた。
 美月の姉、岡崎奈美子が病院に運ばれたとあって、美月の父親、奈美子の夫の岡崎と、男ばかりがそろって手術室の前を行ったり来たりしている。
「姉さん、死んだりしないよな?」
 スメラギは素早くあたりを見回した。手術室に来る途中でもさっと目を走らせたが、死神の姿はなかった。
「死にやしないわよ。ちょっとお産の予定が狂っただけ」
 死んだはずの美月の母親がスメラギに話しかけた。
 霊感体質に生まれついたスメラギにだけ、美月の母親の姿がみえ、声が聞こえた。
「あっと、お前のお袋さんが、おたおたすんなって言ってんぜ」
 正確には、美月の母親は、「男なんてこんな時何の役にもたたない」と言ったのだが、スメラギは言葉を濁した。
 妊娠9か月の奈美子は、突然の破水により、急きょ病院へ運ばれた。予定日までまだ日があったが、妊婦の状態から医者は帝王切開に踏み切った。美月の母親が言うように、お産の予定が少し早まっただけなのだが、結婚もしていなければ身近に妊婦のいたことのない美月は、手術と聞いただけで慌てて、幼なじみのスメラギを呼び出してしまっていた。
「母さんが来てるのか! じゃあ、安心だ」
 美月は、糸引く長いため息をついて、やっと笑顔をみせた。
 2時間にわたる手術の後、奈美子は無事、長女を出産した。
「お前もとうとう“おじさん”ってか」
 あくびをかみ殺しながら、スメラギは病院を後にした。
 病院の廊下を歩く人々がスメラギと美月をふりかえる。ふたりとも長身なうえ、人より抜きん出たスメラギの頭は見事な白髪だ。生まれながらの白髪だが、他人からみれば、今時の若者が銀髪に染めているとしかうつらず、そのうえ紫色の丸メガネをかけていて、スメラギはその見た目だけで、どこにいても目だってしまう。
「おじさん、ねえ。実感がわかないけどなあ」
 病院の玄関を出た先の車寄せに、人だかりがあった。ところどころにテレビカメラがみえ、マイクを手にしたリポーターが目立っている。
「なんだー?」
 スメラギが足をとめると、美月もとまってリポーターの群れに目をむけた。
「ああ、今日記者会見をやるとか何とか言ってたから」
「記者会見?」
「ここの病院の医者が亡くなったんだよ。それで―」
「医者だって死ぬだろ? そんなことでいちいち記者会見なんてすんのか?」
「球里(きゅうり)熱と闘ったヒーローだからだよ。何だい、スギさん、何も知らないんだな」

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 1-2

 2月なかば、東北のM県の病院にひとりの患者がかつぎこまれた。40度を超える高熱を発症し、救急車で運び込まれたときにはすでに意識は混濁していた。何より人々を驚愕させたのがその外見だった。患者の体は水風船のように膨れあがり、その表面は体から漏れ出た体液でぬらぬらとしている。目は眼窩に落ちくぼみ、鼻はこそげてもはや二つ穴を残すのみ、手足の指はひとつに溶けあって、もはや人の形をとどめていなかった。
 その患者、男性27歳は病院に搬送された直後に死亡、2日後には同様の患者、こちらは女性55歳が同じ症状で同病院に運びこまれ、やはり死亡した。2人の患者の死亡直後に行われた解剖から、死因は、戦後直後、N県とH県の村々を壊滅させたウイルス性伝染病、球里(きゅうり)熱と判明。2人を収容した病院はもちろん、M県全体はおろか、日本中が感染の恐怖におびえるなか、感染源探しが始まった。
 原因となるウイルスを特定した博士の名をとって球里熱と名づけられたこの病気は、致死率が非常に高く、これといった治療法もまだない。初期症状は風邪に似ているが、やがて40度を超える高熱を発し、下痢と嘔吐を繰り返す。ウイルスが体中のあらゆる細胞を破壊し続けるため、患者の体は体液で膨れ上がり、やがてその機能を破壊され、死亡する。
 感染力が非常に強いため、N県、H県では村そのものが消滅したが、不思議なことに空気感染はしない。感染地域はN県、H県の限られた場所に留まり、いくつかの村では数名の生存者も確認されている。とどまるところを知らないかのようにおもわれた球里熱の猛威だが、ある日を境に次第に収束にむかった。罹患患者の回復が相次ぎ、新たに感染するものはいなくなった。まるで風にさらわれたかのようにある日突然ウイルスが姿を消したのだった。
 日本で初めて球里熱の発症が認められてから半世紀以上経っての再発、初めて確認されたN県、H県から地理的にも遠いM県での発生。最初の患者2人は、N県、H県どちらにも住んだことはおろか旅行で訪れたことすらなく、感染源の特定は困難を極めた。唯一、2人に共通していたのが、M県近隣のF県の温泉地へ同じ時期に旅行したことがあったぐらいだった。
 すぐに該当する温泉地が調査され、新たな死者と患者が発見された。
 治療法もなく、致死率が高く感染力の非常に強い球里熱が相手では、とにかく感染を未然に防ぐほか手はない。他への感染を防ぐという目的で、F県下の一部地域はただちに封鎖された。封鎖された地域での医療支援にむかったのが、富士見台総合病院の医者、槙原慎太郎だった。
 槙原は、自分は成人した子どものある身でもう若くはないから、と医療チームへの参加を志願した。
 マスコミはたちまち槙原の態度を讃え、死をも厭わない立派な医者だと、槙原を英雄にまつりあげた。球里熱は空気感染はしないのだから、患者の体液や排泄物に触れないなどの適切な処置を行っていれば感染しないと言い、槙原は現地へむかった。

「感染の危険を顧みずに患者の治療にあたるヒーロー、マスコミはそう言って騒いでいるんだ。毎日テレビやニュースで話題になってるのに、スギさん、何も知らないんだな」
 美月は事情をかいつまんで語った。
「騒いでいるのって、そのおっさんが死んじまったからだろ」
「あれ、知ってた?」
「そのおっさんなら、いま俺の目の前にいる」

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 1-3

 4階建てのおんぼろビルの最上階が、スメラギが所長兼事務員兼調査員兼…要するにひとりでやっているスメラギ探偵事務所のオフィスだ。
 仕事は、迷い猫探し、浮気調査、その他何でも引き受けるというのがスタンスで、探偵というよりは便利な何でも屋といったところだ。
 というのは表向きの顔で、スメラギの本業は、この世にとどまり続ける霊の心残りを本人(霊)にかわって解消、霊にあの世へ気持ちよく逝ってもらおうというものである。
 依頼人、槙原慎太郎は、事務所のテレビをくいいるように見つめていた。
 時代がかった箱型テレビのうつりは悪く、ときどき画面中央を稲妻のような光が横に走っていく。画面はちょうど、槙原が勤務していた富士見台総合病院の院長と、槙原の家族らしい喪服姿の3人の女性が記者会見を行っているところだった。
「いまどきは薄型テレビだろうに」
 うつりの悪いテレビに槙原は文句を言い、テレビの横っ面を叩いた。だが、槙原の手はテレビ本体を触れるだけで、するはずのパチンと乾いた音はしない。実体のない霊にたたかれてもテレビはびくともせず、スメラギの目にはサイレント映画の一場面のような光景がうつっていた。
「薄いと叩きにくいだろ」
 スメラギが二、三度叩くと、箱型テレビは息を吹き返した。
「これ、うちの奥さんと娘2人。上が29で、下が24。親がいうのも何だが、美人だろう」
「あんたに似なくてよかったな」
 3人並んだ女性はそれぞれの年代での美しさをたたえていた。槙原の妻、好江は皺すらも美しい紋様をおもわせる60代の落ち着きが、長女の裕子は29歳というわりには老けて見えるのはしっかりものの長女らしい。妹の典子は、髪を明るい色に染め、甘ったるい印象で、年より若くみえる。年こそちがうものの、彼女たちの表情は、夫や父親を喪った悲しみに曇っていた。
「私はヒーローなんかではないのだが……」
 テレビの向こうでは、記者の質問にこたえる形で、院長が、槙原が志願したときの様子を語り、その人柄をたたえていた。
「私は医者としての務めをまっとうしただけなのだ。タッチャンのような人物を、本当のヒーローというのだよ」
「タッチャン?」
「トラックの運転手だ。封鎖されたN町へ、悪路、トラックを運転して薬を運んでくれたんだ。彼のおかげで助かった人間が何人いることか。マスコミはきちんとその事実を伝えてほしいものだよ。球里熱は確かに感染率が高く、致死率も高い。だが、高いというだけで、必ず死ぬとは限らないのだ。タッチャンのおかげで死なないですんだ人間がいる。彼こそがヒーローなのだ」
 記者の質問は、槙原の妻、そして2人の娘にむけられた。槙原の妻にかわって長女の裕子が、父親を誇りに思うという優等生な回答をしていた。
「で、あんたの心残りってのは何だい?」
「心残り?」
「あんた、この世に未練があるから成仏できないでいるんだろ?」
「…やっぱり、死んだのか…。医者として死がどういうのものか知りたかったが、実際死んでみると何てことはない、生きているのと変わらないんだが。何より、君とこうやって話をしているんだし」
「俺は霊が見える特異体質だからな」
 霊視防止用にかけている紫水晶のメガネをはずしたスメラギには、灰色の髪を豊かにたたえた槙原の姿が見えている。眉間と額には深い皺が刻まれ、きりっと結ばれたへの字の口元だが、小さな瞳は柔らかく微笑んでいる。その目元が少し長女に似ていた。次女はどうやら少しあぐらをかき気味の鼻を父親から受け渡されたようだ。
「医療チームの参加を決めたときから、もしかしたらと覚悟していたつもりだったんだがねえ。やりたいことは全部やったつもりだったし、やり残したこともない。そうおもっていたんだが……」
 槙原の視線は、画面に映った長女、裕子に向けられていた。
「裕子の花嫁姿を見損なったなあ……」

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 2-1

 死神との交渉は簡単にはいかなかった。
 人間は死ぬと生前の行いに応じて、天上界行き、地獄落ち、人間界への生まれ変わりのいずれかが決定する。不満があれば、死後49日の間であれば閻魔王に訴えでることができる。
 死んだばかりの人間の心残りはたいていこの49日の間に解消できる。地獄を逃げ出したり、死神の手を49日以上にわたって逃れ続けているものは、どのみち49日の期限は関係ない。
 死んだばかりの槙原は、49日以内に閻魔王に引き渡さなければならない。ということは49日以内に彼の心残りを解消しなければならないのだが、問題は「娘の花嫁姿をみたい」というその心残りそのものだった。49日以内に、槙原の長女、裕子を結婚させることは不可能だ。スメラギは死神に、槙原を引き渡す時間を延長してもらえないかと話をもちかけた。
 だが、死神は一週間と期限を決めた。
「一週間?! 一週間で花嫁姿をみせられるわけねえだろーが」
「一週間でも多すぎるぐらいだ。花嫁姿なんか、1日もあれば十分みせてやれるだろう」
「あのなあ、『花嫁姿が見たい』ってのは、もののたとえで、実際の意味は、娘が結婚するところを見届けたいってことなんだよ」
「意味がわからない。さっさと娘にドレスでも白無垢でも着せてしまえ」
 黒いスーツ姿に黒いネクタイと、見かけは葬儀屋のような死神だが、豊かな情感をもたない彼はしょせん人を模っただけのものでしかない。言葉を額面どおりにしか受け取れない死神に、「花嫁姿をみたい」という言い方で槙原の心残りを伝えたのはまずかった。
「ああ、もうさぁ……」
 スメラギは天井を見上げた。閻魔王庁、閻魔王室の天井は真紅に塗り込められ、豪勢なシャンデリアが垂れ下がっている。水晶のシャンデリアに映りこんでいる金髪の美女こそが、泣く子も黙る閻魔王こと夜摩だった。
人間の皮をなめして生血で染め抜いたボディースーツに豊満な体を包み、黒革のソファーに深く腰掛け、さっきから手元に気を取られている。真っ赤に染まった長い爪に弄ばれているのは、人間界でもなかなか手に入らない人気のスマートフォンだった。
「ほな、1年でどや」
 ゲームにでも夢中になってスメラギと死神のやりとりなど聞いていないだろうとおもわれた夜摩が口を開いた。口は開いたが、視線は手元にむけられたまま、よほど楽しいのか、滴る血の色の唇にぞっとする微笑を浮かべている。
「まあ、時間かけたとこで、結婚させられるゆうもンでもないやろけどな」
「一週間よりはマシだろ」
 一週間では少なすぎる、かといって、今回の依頼解決にどれだけの時間がかかるのかまったく見当がつかないスメラギだが、1年もあればどうにかなるとほっと胸をなでおろした。それにしても一週間が1年になるとは、さすが地獄の閻魔王の夜摩だけに、時間間隔が人間とは異なりすぎている。死神をみると、特に異論はないようだった。もっとも、表情のない死神の顔から、彼の真意を探るのは不可能ではあったが。
「ほな、1年ってことで。篁にも連絡しとかんとな」
 と、夜摩はスマートフォンで篁に電話をかけた。人間の生前の業や死後の行き先など、ありとあらゆる情報はいまやデータ管理されている。その管理責任者が篁という男だった。
 わざわざ電話しなくてもメールで連絡してくれたらいいじゃないですか、とでも篁に言われたのか、夜摩は「ええやん。せっかく買うたンやし、使こうてみたいンや」と、見事なプロポーションの腰をくねらせて甘えた声を出している。ふるいつきたくなるほどの美女だが、豊かな胸はとある女の罪人から切り取ったもので、女装は夜摩の趣味だった。
 槙原慎太郎の魂回収期限を1年に引き延ばすように告げている夜摩を背に、スメラギは閻魔王執務室を後にしようとした。
 すると、野太い声がスメラギを追いかけた。
「49日以上かかったら、金もらうで」
「はあ? お前、さっき1年延長するって言ったじゃねえかよ」
「タダとは言うてないで。49日の間やったら、規則期限内やさかいタダやけど、49日過ぎたら金払ってもらわンと。地獄の沙汰は金次第や」
「鬼ぃ!」
「鬼違います、閻魔王や。ほな、そういうことで、49日過ぎたら1千万な」
「1千万?! そんな大金払えるわけねーだろ?! 俺のどこにそんな金があるってんだよっ!」
 表家業の探偵とは名ばかりの便利屋の稼ぎでは生活していくのでせいいっぱいだった。知り合いの不動産屋からタダ同然で借りているとはいえ、事務所とアパートの家賃を払ってしまえば、1日わずか1食、それもコンビニのもので食いつないでいくほどの金額しか残らない。電気やガス、めったにとめられないという水道までとめられたこともある。そんなスメラギに貯金などあるわけもなく、1千万という大金はどうやっても払えない。
「49日以内に依頼を片付けたらエエだけの話やン」
 長い舌を出して唇を舐めたかとおもうと、夜摩はニヤリと笑ってみせた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 2-2

 降りしきる細かい雨に、美月が禰宜を務める富士野宮神社の境内の紫陽花は、ほんのりと色づきはじめていた。
「よく降るなあ」とひとりごち、美月は社務所の窓を閉めた。

「あーなんも浮かばねー」
 働かない脳みそを活性化させるかのように、スメラギは白髪頭を両手で掻いたかとおもうと、畳の上に体を投げ出して見せた。
槙原慎太郎の依頼は、娘、裕子の花嫁姿をみること。期限は、槙原の死後から数えて49日以内。槙原はすでに死後1週間以上を霊として過ごしているので、スメラギに与えられた時間は1か月あまり。1か月で、どうやって裕子を結婚させるのか、スメラギは頭を悩ませていた。1か月以内に裕子を結婚させ、槙原のこの世での心残りである「娘の花嫁姿をひとめ見る」を解消、槙原をあの世へ送り届けないと、スメラギは1千万を閻魔王こと夜摩に支払わなければならないはめになる。
 1千万払って1年期限を延長するか……。
 裕子には恋人がいる。1年何もせず、黙ってふたりを見守り、結婚するのを待つか……。
だが、金を払って時間を買ったところで、裕子が必ず1年以内に結婚するとは限らない。時間を買うにしろ買わないにしろ、スメラギが動いて、裕子を結婚させなければならない。
 すっかり頭を抱えてしまったスメラギは美月に相談を持ちかけた。
「要は花嫁姿を見せればいいんだよね?」
 と、美月までが死神と同じようなことを言い出した。
「娘さんと彼氏に頼んで、結婚式の真似事をしてもらったら?」
「何て言って、ふたりに結婚式の真似事をしてもらうんだよ? 死んだあんたの親父がひとめあんたの花嫁姿をみたいと言ってるから、ってか」
「ブライダルフェアとか、模擬結婚式ですとか何とか、ごまかしてさ」
「うーん……」
 スメラギは黙り込んでしまった。
 花嫁衣裳を着せてしまえと言った死神を笑えない。あの手この手で、裕子と恋人に結婚式の真似事をしてもらったとしても、結局は真似事でしかなく、それで果たして槙原の依頼を解決したことになるのか。槙原が本当にみたいと望んでいるのは、幸せな娘の笑顔なのではないのか。
「やっぱり、裕子さんには正直に打ち明けて、協力してもらうしかないんじゃないのかなあ……」
「信じるとおもうか?」
「お父さんに、僕にのってもらって、直接話してもらえば?」
 スメラギの幼なじみ、美月龍之介は霊媒体質に生まれついた。左手首の水晶の数珠をはずせば、たちまち霊たちにその体をのっとられる。肉体をもたない霊たちの現実的な心残り、たとえば人と話をしたいといった願いを叶えるときには、スメラギは美月の霊媒体質を利用させてもらうことがあった。
「俺が直接話すにしろ、親父さんがのっかったお前が話すにしろ、本人が霊の存在を信じていなかったら、『なんだ、こいつ』で終わる話だろ。まあ、お前は女受けがいいから、話に付き合ってくれるだろうけど」
 白髪に目つきの鋭いスメラギよりは、仏の美月と言われるほど微笑みのたえない美月の方が、あやしげな話でも聞いてもらえる確率は高いだろう。
(そうか、そういう手も、あるか……)
 美月の顔をしげしげとみつめるスメラギにはある考えが浮かんだ。
美月は女にもてる。中学以来、スメラギが知る限り、女が絶えていなかったことがない。長身で、優しげなまなざしはどちらかといえば女顔なのだが、ほどよい肉付きのおかげでひ弱な印象がない。神社の跡取り息子ながら、その笑顔から仏の美月と言われるほど、性格は穏やかで、感情を荒げたところをみたことがない。これで女にもてないはずがない。
 美月に裕子を誘惑してもらい、彼女の恋人に危機感をもたせ、一気に結婚に結びつける。スメラギの頭には、安っぽい恋愛ストーリーのシナリオが浮かんでいた。
 スメラギはあらためて幼なじみの顔をみつめた。
 顔立ちのよさはいうまでもなく、人当たりもいい美月なら、その気になれば女のひとりふたりを誘惑するのは簡単そうだ。
 だが、裕子が本気で美月を好きになってしまったら、どうしようか……。スメラギが思いついた妙案を口に出せない理由はそこにあった。
 まさか、依頼人のために、好きでもない人間と結婚してくれとまでは、さすがにスメラギも言い出せない。考えすぎだともおもうが、美月のもてっぷりを知っているだけに、ありえない話でもない。
(ナシだな)
 スメラギは美月をおとりとする作戦をそっと自分の胸のうちにしまった。
「この人に乗りうつれば、生きている人間と話ができるのか?」
 それまでおとなしく2人の話を聞いているだけだった槙原が口をきいた。スメラギは美月の霊媒体質について簡単に説明した。ひとりでしゃべり始めたスメラギに、美月は不思議そうな顔をした。
「おっさんが、お前にのれば人と話ができるのかってきくから説明してやってんだ」
「娘さんと直接話したいって?」
「おい、おっさん」
 と、スメラギが口をひらきかけたのを、槙原がさえぎった。
「娘の恋人と話がしたい」

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 2-3

 娘、裕子には付き合って10年の、水島隆也という恋人がいた。裕子は29歳、水島は35歳と、いつ結婚してもおかしくない年頃だが、水島はいつまでたっても挨拶にこない。
 今時の若い人間はそんなものかと思っていたが、女を待たせるのは男としていかがなものかと思う、まして娘をもつ父親ならなおさらだ。結婚するならする、しないならしないで、別れるなり何なり、男が決めるべきだ。何をぐずぐずしているのだと、槙原は生きていたときから、水島とは一度じっくり話がしたいとおもっていた。
 裕子は、アイドルのような媚びた可愛らしさはないが、春の野に咲くレンゲのように、あふれんばかりの生命力そのものが美しい娘だ。母親がのんびりしている分、しっかりしたところがあって、多少気も言葉も強いところがあるが、それも若さゆえとおもえばいい。我が娘ながらいい女なのだ。結婚をためらわれるようなところはないはずだ―

 水島隆也は、都内の病院に内科医として勤務している。美月の体を借りた槙原は、患者のふりをして水島に近づくことを計画した。
「美月さーん、美月龍之介さーん」
 待たされること数時間、ようやく美月の名前が呼ばれたが、槙原は待合室のソファーに腰掛けたまま、動こうとしない。死んだ身で、体は美月のものを借りているという自覚がないらしく、「槙原」という名前が呼ばれるものだと思い込んでいるようだ。
「おい、おっさん」
付き添いのスメラギに肘をつかれ、「お、そうか」と、槙原の霊の乗りうつった美月の体は診察室へとむかった。

「今日はどうしましたか?」
 回転椅子をくるりと90度回転させ、水島は槙原に向き合う格好になった。消毒薬のにおいが鼻をつく。医者のにおいだ。自分では気付かなかったが、娘たちがお父さんのにおいだという、白衣の下にまでしみついた医者の体臭が、水島からもたちのぼる。
 小柄だが、学生時代にスポーツをやっていたとかで、がっしりとした体格の持ち主の水島は、一目見たら忘れられない立派な眉の持ち主だった。毛虫でも張り付いているのかとおもわれる太い眉で、おせじにもいい男とはいえない顔立ちだが、愛嬌があってどこか憎めない。
「槙原裕子という女性をご存知ですね」
「え? ええ、槙原さんなら知人ですが」
 患者ではないのかと、水島は太い眉をしかめ、腕時計に目をやった。すでに昼近くだというのに、診察室の外ではまだ多くの患者が待っている。
「あの、患者さんでないのでしたら…」
「裕子のことで話がある」
「どなたか存知あげませんが、そういうことはここでは…」
「あんた、水島さん、裕子と付き合っているんだろう。もう10年だ。10年も付き合っていれば、結婚の話があったっていいはずだ。それなのに裕子はいまだに独身、年だって30近い。
 このまま、ずるずると付き合っていくつもりかね。女にとってそれは残酷なのじゃないかな。結婚するつもりがないなら、いっそ別れてやったほうが、男として潔くはないかね?」
 水島は何も言い返せずに、美月の顔を穴のあくほど見つめていた。どこか仏像を彷彿とさせる穏やかで端正な顔立ちだというのに、繰り出される言葉は時々毒を含んで、いちいち水島の勘にさわった。
「あなたこそ、何だっていうんです。裕子とどういう関係なんです? いきなり病院まできて、何を言い出すかとおもったら。結婚、結婚って。見ず知らずのあなたに何でそんなことを言われなくちゃならないんです?」
 診察室であることも忘れ、水島はおもわず声を荒げた。看護師が何ごとかと顔をのぞかせ、水島ははっとして声をおとした。
「裕子さんとは確かにお付き合いさせてもらってます。お付き合いのことは…僕なりにきちんと考えてもいるんです。ただ、結婚とかそういうことは、他人のあなたには関係のないことだ。えっと…」
 水島は問診票をさぐって、珍客の名前を探した。
「美月さん、でしたね。ここは病院です。患者でないのなら出ていってもらえませんか。他の患者さんが待っていますので」
 美月は、いや槙原は黙って診察室を出た。
 診察室を出てきた美月のしてやったりの笑顔に、スメラギは、花嫁の父となる予感に興奮隠しきれないでいる槙原の笑顔をみた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 2-4

 「プロポーズの言葉って何だろな、やっぱ、『味噌汁作ってくれ』とかか?」
「いつの時代の話だよ、それ。そんなこと言おうものなら、『私は家政婦じゃない』って言われて断られるよ」
 スメラギと美月は事務所の近所の焼き鳥屋で一足早い祝杯をあげていた。
美月の体を借りた槙原の霊が、娘、裕子をどうするつもりかと怒鳴り込んでから一週間後の今夜、裕子の恋人である水島は、裕子を食事に誘った。誕生日でも何でもない日に夜景の美しい展望レストランを予約したとあって、水島はいよいよプロポーズをするのだとスメラギたちは浮き足だち、自分たちは焼酎で一杯やることにした。
「じゃあ、お前なら何てプロポーズすんだよ」
「何も。結婚しないつもりだから」
「あー? んだとぉー? ま、オメーはモテるから結婚しねーほうがいいかもな。浮気ばっかで、女も気が楽じゃねえだろーし」
 スメラギは早くも酔いがまわってきたようで、目の周りがほんのり赤らんでいる。酒の強い美月は白い顔で淡々と焼酎を飲み続けている。
「で、おっさんは何て言ったんだ?」
 スメラギはカウンター席の隣に座っている槙原に尋ねた。誰もいないはずの場所にむかって話しかけるスメラギを客が不思議そうな目で見たが、すかさず美月が「酔ってるんで」と言ってごまかした。
「私? 私らは見合いだったから、プロポーズも何も、結婚するのが前提の付き合いでね。お互い気に入ってそれなりに時間が経てば、結婚するのが当然だったからねえ」
「でもさ、なんか言っただろ?」
「何を?」
「だからさ、プロポーズ。結婚してくれとか、しましょうとか」
「言った、かなあ……覚えてないねえ」
 照れ隠しに、槙原は灰色の頭を掻いてみせた。
 娘は今頃どんな顔で、水島のプロポーズを受けているのか。槙原は、結婚の意志を伝えた時の妻、好江を思い出していた。好江は「はい」と語尾が聞き取れないようなか細い声で答え、小さくうなずいたのだった。もう30年も前のことだ。
「何だよ、スギさん。やけにプロポーズにこだわるんだな。結婚したい相手でもいるのかい?」
「“いた”が正しいな。あれだよ、家に帰ったら飯が出てきて、風呂が沸いてて、服は洗濯してあるは、布団は干してあるは、ってサイコーじゃね?」
「だからさ、それじゃ奥さんじゃなくて、家政婦扱いじゃないか」
 スメラギが寝起きするアパートの六畳一間は菌類の天国となっていそうな万年床が占領、冷蔵庫には飲み物ぐらいしかなく、食事はコンビニかインスタント、よくて近くの食堂といった具合で、美月の母親が生きていたころは何かと手料理を持っていかされたものだった。
 スメラギの母親は、スメラギが11歳の時に亡くなった。以来、離婚した父に引き取られての男だけの生活で、二十歳のときに父親はスメラギを置いて家を出て行ってしまった。
今のアパートをみつけるまで、スメラギは一時美月の家に居候していた。その頃には美月の母もまだ生きており、朝昼晩、あたたかいものはあたたかいままで、冷たいものは冷やされた手料理が食卓にのぼったものだった。おもえば、スメラギが家庭らしい場にいたのはあの一時だけだったのかもしれない。
 それにしても、結婚したいと思った相手が“いた”とは何だ。
 美月は、すっかり酔っ払って横にいるのであろう槙原相手にくだを巻いているスメラギの真っ赤な横顔をみつめた。
 中学時代、スメラギが2つ年上の先輩と付き合っていたことは美月も知っている。実は彼女は美月が好きで、美月と仲のいいスメラギを利用していたというお粗末な結末が待っていて、少しの間、スメラギと美月は気まずかったのだが、あれ以来、美月はスメラギが誰かと付き合っているだとかそういう浮いた話を聞かない。
 もともと、その手の話は2人の間であまり交わされず、スメラギは絶対に自分の女性関係については語らないのに、美月の派手な女性関係については、どこからか情報を仕入れては、美月をからかった。
「味噌汁ぐらい、僕が作ってやる。その調子じゃ、スギさん、明日は味噌汁がいるだろうから! 知ってるか、味噌汁は二日酔いに効くんだ。えっと、たしか、シジミの味噌汁だったっけか?」
 自分も酔ってきたと、美月は回らなくなってきた頭で考えていた。

 ― 酔っ払ったスメラギを脇にかかえ、美月がアパート近くのコンビニでシジミのインスタント味噌汁をさがしていたその頃、水島と裕子の間には一波乱がわき起こっていた―

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 3-1

 突然、診察室におしかけてきた見知らぬ青年に言われるまでもなく、水島隆也は槙原裕子との結婚を真剣に考えていた。
 裕子が女子大に通う学生の時に、知人を通して知り合ってから10年、裕子は29歳、水島は35歳になった。初対面の印象は、可憐な人だなあというものだった。薄化粧の下の肌は頬紅をささなくても赤味を帯び、はつらつとして生命力にあふれていた。それから10年、風に静かにそよぐだけだった花は、今が盛りと咲き誇る。
 4年前、結婚をほのめかすような裕子の態度に、当時身を固める覚悟ができていなかった水島は、別れを決意した。だが、はっきりと別れたわけでもなく、2か月ほど疎遠になっただけで、結局また元の鞘に戻り、以来、だらだらとした付き合いが続いていた。
 病院の勤めが決まり、自分の行く道が見えてきたところで、ようやく結婚しようかという気になった。その気になってみて、はじめて水島は自分の気持ちに気付いた。初めて会った日から、心のどこかで人生を共にする女性は裕子のような女性がいいとおもっていた。華やかな人に心奪われたことは否定しない。だが、地味な1日を重ねていく生活をともにするのは、平凡な裕子のような女性がいい。
にも関わらず、結婚が遅れたのは順番にこだわったからだった。生活基盤を築いてからでないと結婚してはいけないような思いにとらわれ、そんな男としてのプライドを裕子に打ち明けられるはずもなく、気持ちがすれ違った時期もある。
結婚しようと決めたその日のうちに、水島は指輪を買った。クリスマスに渡そうとしたが、水島の都合で当日のデートはキャンセルになり、指輪は渡しそびれ、当然プロポーズもし損ねてしまった。
 7月の裕子の誕生日にでもと思っていた矢先、父親の槙原のF県行き、そして死去という不幸が重なってしまった。次のクリスマスを待つか、と思っていたところに、あの青年が現れた。
 年は23、4ぐらいだろうか。水島より年下なのは間違いなく、裕子よりも若いだろう。目鼻立ちの整った好青年で、モデルでもできそうな背の高い男だった。裕子の知り合いらしい口のきき方をして、水島は裕子と青年の関係を疑問に思った。
 青年は、裕子をどうするつもりだと迫った。自問してきたことを他人の口から聞かされ、正直腹がたった。と同時に、まるで裕子の父親にでも説教されたかのような気分にもなった。
 もし槙原が生きていたら、同じことを言っただろうと水島は思った。槙原は行動力の人だった。10年も付き合っておきながら結婚するのかしないのか、はっきりしない娘の恋人―自分が槙原の立場だったら、職場でもどこへでも怒鳴り込んでいくかもしれない。青年は裕子の身内か、ひょっとしたら裕子に頼まれたのかもしれない。だが、そんなことは水島にはどうでもよかった。気持ちは半年以上前に固まっている。水島はプロポーズを決心した。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 3-2

 金曜日の夜とあって、夜景が美しいと評判の展望レストランはカップルで混みあっていた。約束の時間は7時。待ち合わせにはいつも時間通りに来る裕子より先にレストランに到着した水島は、席に案内されるなり、水を注文した。
 やがて運ばれてきたグラスの水をあおると、やっと人心地ついた気がした。裕子に会う前からこんなに緊張していてどうすると、水島は自分を叱りつけた。
プロポーズはデザートの後にする予定だ。何かしゃれたセリフでも言ったほうがいいのだろうかとも思ったが、結局、ストレートに“結婚したい”という意志を伝えることに決めた。
水島はジャケットの内ポケットをさぐって、指輪の存在を確かめた。腕時計をみると7時を少しまわったところだった。顔をあげると、案内されてくる裕子と目があった。萌黄色のワンピースに白いカーディガンを羽織っていた。派手さはないが、楚々とした美しい裕子の姿に、水島は照れてしまって思わず顔を背けてしまった。
前菜もメインも、何を食べても水島は味わってなどいなかった。意識はデザート後のプロポーズに集中していて、やたらとワインを飲み、裕子に飲みすぎるなと注意される始末だった。
 誕生日でもないのにレストランで食事をしようと誘ったのだから、何か勘付いていやしないだろうかと、水島は裕子の顔色を伺うが、裕子はいつものデートと変わらず、食事や窓からの美しい夜景を楽しんでいた。食事の間、裕子はしゃべり続け、水島は上の空で裕子のおしゃべりを聞き、ワイン片手に相槌を打つばかりだった。
 デザートのコーヒーが運ばれ、水島の緊張は頂点に達した。手をつけないままに冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干してしまうと、一瞬、裕子のおしゃべりが止まって不思議な間が空いた。すかさず、水島はポケットから指輪を取り出した。
「結婚しよう」
 言葉は息をするようにすんなりと吐き出せた。店内の薄暗い照明のせいで裕子の表情はよくみてとれない。その美しい瞳がキャンドルの明かりに照らされて煌いていた。
「ごめんなさい、私、隆也さんとは結婚できません」
 と言ったなり、裕子は席を立ち、水島を残してその場を走り去った。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 3-3

 裕子はレストランのトイレに駆け込み、個室のドアを勢いよく閉めた。とたんに吐き気がたまらずこみ上げてきて、食べたものをすべて吐き出してしまっていた。
 せっかくのディナーだったが、はじめから味わってなどいなかったし、食べた気もしていなかった。
 誕生日でも何でもないのに、いきなりレストランで食事をしようと誘われた時から、裕子はプロポーズされるのだと勘付いていた。
 行ってみれば、水島はそわそわと落ち着きがなく、いつもはあまり飲まないようにしているワインにやたらと口をつける。相槌を打って裕子の話を聞いているようで、聞いてはいなかった。裕子は、水島はプロポーズをする気なのだと確信した。
 水島とは付き合って10年、学生時代にサークル仲間を通して、当時医大生だった水島と知り合い、はじめのうちは紹介してくれた知人をまじえての友人としての付き合いが、いつの間にか恋人同士になっていた。
 水島は派手な人間ではなかった。見た目も、裕子が作り物みたいねとからかう太い眉のせいもあって、今時のイイ男というわけではない。勉強が忙しいということもあってか、あまり遊び歩かず、裕子としては物足りなく感じることもなくはなかったが、何より一緒にいて安心するし、物事に対する価値観が一致した。好きなものはそれぞれ別にあるが、嫌いなものや事柄が共通していた。
 疎遠になった時期もあったにしろ、付き合って10年。結婚の話が出るには、遅すぎたくらいだ。付き合いが長くなりすぎて、お互い真剣に将来について話をするきっかけをつかめないでいた。
 だからこそ、何でもない機会にレストランでの食事を誘われた時はやっとその気になったのかと、裕子は小躍りしそうなくらいに喜んだのだった。
 だが……
(隆也さんとは結婚できないの……)
 女子トイレの個室に閉じこもり、裕子は泣いた。声をあげ、子どものように泣いて泣きつくした。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 4-1

 水島から食事の誘いを受ける少し前、裕子は水島の母親に呼び出された。
 裕子は、水島の母親が苦手だった。医者の夫をもち、自分の両親、親戚も医者の家に育ち、物腰は上品だが、世間知らずなのか、受け取る相手の気持ちなど考えずに物事をはっきりと言いすぎてしまうきらいがあった。水島と正反対な性格で、裕子と水島が最も嫌う、物事をあまり深刻に考えないという性質が彼女にはあり、女はあまり頭を使わないほうがかわいらしくていいと考える、よく言えば無邪気な人であった。
「このたびは」
 水色の絽の着物に目をひく花火の帯を締めた夫人は、先だって亡くなった裕子の父のお悔やみを述べた。
 平日の午後の喫茶店に、客の姿はまばらだった。そうでなくても、高級店として知られるその店で、時間を食いつぶすことができる人種は限られている。
 父親の知り合いの会社で役員秘書を務める裕子は、30分だけという時間をもらって仕事を抜け出し、マダム御用達という高い敷居を重い足で乗り越えた。 
 一杯2000円の紅茶とケーキが運ばれ、夫人はようやく話の本題に入った。
「裕子さん、あなた、隆也と結婚するつもり?」
「え?」
 本人とさえ結婚の話などしてもいないのに、母親からその意思を聞かれるのは筋違いな気がし、裕子は返事をしなかった。
「お付き合いも、もう10年よね。あなたももう30近いのだし、そろそろ結婚を焦るころだわね。あの子もいい年だし、結婚について考えていないこともないと思うの」
 考えていて欲しいと思うと言いたかったが、裕子は言葉をぐっと飲み込んだ。
「でもね、あの子が結婚しようなんていいだしてもね、裕子さん、結婚はしないでね」
 夫人はさらりと言ってのけた。
 その後の夫人の話を聞きながら、裕子は手足が冷たくなっていくのを感じていた。
「あなたに問題があるとかそういうことではないの。あなたのことは好きだわ。でもねえ、今度のことがあってね……」
 今度のこととは、暗に球里(きゅうり)熱の発生と、裕子の父が球里熱で死亡したことを意味していた。
「あなたのお母様、N県のご出身なんですってね。N県といえば、球里熱が最初に発生したところよね」
 球里熱が戦後の長い時を経て再び姿を現したのは、N県出身の人間がF県にいたからだという巷の噂があった。球里熱の原因となるウイルスはN県の人間の体内に潜み、再び猛威をふるう日を静かに待っていたのではないか。根拠のないバカげた噂だったが、球里熱の恐怖に怯える人々にとっては真実となり、N県およびH県出身者を忌み嫌う風潮が蔓延しつつあった。
 差別がバカバカしいのは言うまでもないが、差別の原因となった噂は医学的根拠のないもので、よく考えればバカげたことだとわかるはずだ。医者の家に生まれ、医者に嫁いだというのに、何という無知ぶりなのかと、裕子は腹がたった。
「あの子には立派な将来があるのよ。それをあなたとの結婚で…」
「失礼します」
 煮えくり返る胸にこみあげる別の言葉を押さえ、挨拶だけはして、裕子は喫茶店を後にした。
 小雨が降りしきるなか、傘もささずに裕子は街を歩いた。顔を濡らしているのは雨のしずくだけではなかった。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 4-2

 誕生日でも何でもない日に、レストランであらたまって食事―待ち望んでいたプロポーズを受けるのかと軽く心が弾む一方で、夫人の言葉が重くのしかかっていた。
 そして、裕子が出した結論は、水島とは結婚できない、だった。
 水島に伝えなければならない。裕子はそう覚悟し、別れとなるなら一番きれいな自分の姿を覚えていて欲しいと、お気に入りのワンピースを選んで着飾った。化粧もいつもより念入りにし、しかし派手になりすぎないようにした。
 水島と過ごす時が最後になるなら、楽しい思い出にしたいし、水島にも楽しい時であって欲しい。裕子はつとめて明るく、話し続けた。黙ってしまうと、水島がプロポーズの言葉を言ってしまいそうで、そうなると断るしかない裕子の楽しい時間は終わってしまう。
 最後通告を先延ばしにしようと、裕子はひたすらしゃべり続けた。そしてとうとう、デザートの一瞬の隙をついて、水島がプロポーズした。
(嬉しかったの―)
 涙でせっかくの化粧は落ちてしまっていた。
(でも、ダメなの……)
 あの夫人が姑になると考えただけでも結婚生活への自信がなくなった。
 というのは裕子が心についたウソだと、裕子自身にもよくわかっていた。
(違う、本当は―)
 裕子もまた、夫人と同じことを考えてしまっていた。
 N県出身の人間を親族にむかえることで水島の将来にどれほどの打撃を与えてしまうのか、ひょっとして母から自分に球里熱のウイルスが伝えられているのではないか。絶対にそんなことはないのだと頭でわかっていながら、心がくだらない噂を受け入れようとしている。
(医者の娘のくせにっ!……)
 夫人は、医者の娘で妻だというのに、まったく医学的根拠のない噂を信じていた。裕子はそんな夫人を軽蔑しながら、自分もまた彼女と同じレベルの人間だった。
 そんな自分に、気分が悪くなって、食べたものを吐き出してしまった。だが、気分はすっきりしない。体のどこかにまだどす黒いものが凝り固まって残っていた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 5-1

 あれだけ泣けば翌日は腫れるかと覚悟していたが、目が覚めた瞬間のまぶたのあまりの重さに裕子はさすがに落ち込んだ。幸い、土曜日で出勤しなくていいのが唯一の救いだった。
「おはよう。朝ごはんできてるわよ」
 母はすでに起きていて、朝食の後片付けをしていた。妹の典子は外出してしまった後らしい。
 昨晩は泣きつかれて遅くに帰宅し、今朝は腫れぼったい目をした裕子の顔をみても、母は何も聞かなかった。だが、そこは母親、何かあったのだと察しはついているのだろうが、何も聞かないでいる母の優しさが今の裕子にはありがたかった。
「あら、やだ」
 台所で母が素っ頓狂な声をあげた。
「どうしたの?」
「トースターの場所がまた変わってる」
「トースターがどうかしたの?」
「ここにあると邪魔なのよ。だからこっちに移したのに、また元に戻ってるの」
 対面型キッチンのシンク横のスペースには、壁のコンセントを利用するように炊飯器やジューサーが置かれている。トースターは、ダイニングへの通り道側にひとり置かれてあった。
「自分で戻し忘れたんじゃないの? ぼけてきた?」
「ぼけてきたって、失礼ね。お母さんはここには絶対置かないもの。だって、ここにトースターがあると邪魔でしょ」
 トースターのせいで、シンク脇の洗い物を置いておくスペースは狭まってしまっていた。
「焼いたらすぐにテーブルに持っていけるからって、延長コードを使ってでも、お父さんはこっちに置きたがったけどね。男の人は家事の動きってものがわからないから、自分の使いたいものをその時都合のいい場所に置いて、それきりなのよ」
「ふうん」
 父と母がトースターの置き場所でもめていたとは、裕子の知らない夫婦の事柄だった。
「お父さんに朝の挨拶はしたの?」
「あ、まだ」
「食べる前にしてらっしゃい」
「はーい」

 庭に面した六畳の和室は、母親が趣味の書道をたしなむ場所として使用していたが、今はすっかり片付けられ、亡くなった父の四十九日の間の仮住まいとなっている。父の遺影の飾られた中陰壇には、庭の紫陽花と父の好きだったリンゴが供えられていた。
 線香のすがすがしい香りに目の覚める思いで、鐘を鳴らすと、裕子は父にむかって手を合わせた。
 遺影の父は何か言いたげだった。遺影は、去年母と旅行に行ったときの写真で、背景に紅葉の美しい山が写っている。医者を引退したらお母さんと旅行三昧だと話していた父の老後の計画を、裕子は思い出していた。
「花嫁姿、お父さんにみてもらいたかったなあ……」
 ふと口に出してしまうと、枯れたとばかり思っていた涙がじわりとにじみで、頬を伝って畳の上に染みをつくった。
「ごめんね、お父さん。私、隆也さんのプロポーズ、断っちゃった。本当は結婚したかった。『はい』って返事したかったけど、隆也さんのお母様が反対してて…。理由がバカバカしいの。お母さんが球里熱の発生したN県出身だからって、まるでお母さんが球里熱の原因みたいな言い方で、めちゃくちゃなの。医者の家の人間なのに、非科学的でまいっちゃった……。あんな人のいる家にはお嫁にいけないよね……」
 遺影の父は、口をへの字に曲げて何も言わない。これでも本人は笑っているつもりで、まぶしげに細めた目の端は下がっていた。物言わぬ父に、裕子はすべてをぶちまけてしまいたくなった。
「でもね、本当は私もあの人と同じことを思ってるの。お母さんの出身地のことで隆也さんの将来に傷がつくんじゃないかって。球里熱のウイルスがお母さんから私に移されているんじゃないかって。バカバカしいってわかっていても、そう思ってしまうの。そんな自分がイヤでしょうがないの」
 その時だった。
 閉めたはずの障子が静かに開いたかとおもうと、見知らぬ若い男が立っていた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 5-2

 上下ジャージ姿の若者は、川上達矢と名乗った。生前父に世話になったとかで、線香のひとつでもあげさせてもらおうと立ち寄ったもので、まさか裕子がいるとはおもわず、突然障子を開けてしまってすいませんでしたと謝った。
川上は、線香をあげにきたついでに、ちゃっかり裕子と遅い朝食をともにしていた。線香をあげている最中に川上の腹が鳴ったので、母が何か食べていきますかと誘ったら、川上は満面の笑みでいたのだった。
 ひとり言を聞かれたかしら、そう思い、自分もトーストをかじりながら裕子は川上をそれとなくさぐったが、川上の裕子に対する態度に特に変わったところはなかった。
「うわっ苦っ」
「あら、マーマレードはちょっと苦味があるくらいがおいしいのよ」
「俺はこっちがいいです」
 川上はイチゴジャムをたっぷりとトーストに乗せ、大きな一口でかぶりついた。
「ん、うまいっす」
「そう? お父さんもマーマレードは苦手で、イチゴジャム一辺倒だったわ」
 イチゴジャムもマーマレードも、母の手作りだ。父はマーマレードには決して手をつけず、消費するのはもっぱら母と裕子、妹の典子だけだった。
「N町にいたとき、お父さん、何を食べていたのかしら」
 母は川上に、父のF県滞在時の様子を聞いていた。
 天候不順のため、救援物資などが空輸できず、かわりに陸路で薬を運んだドラックの運転手がいるとは、裕子も知っていた。テレビや新聞でも報道され、一部ワイドショーでは顔も紹介されていた。それが川上達矢だった。金髪で、腕には花をあしらったかのようなカラフルなタトゥーがほどこされている。見た目はとっつきにくそうな川上だったが、母の用意した朝食にかぶりつく姿は、小学生の男の子が母親に甘やかされているようにもみえた。
 父の日記に登場する“タッチャン”こと川上達矢に、母は自分が知らない父の最後の様子をたずねていた。
「コンビニのパンとか、インスタントとかかな。センセー、毎日患者さんに付きっ切りで、ろくに食事なんかしてなかったです」
「いやね、だから男の人はひとりにできないのよ。ついていけばよかったかしら」
「お母さんが一緒にいったって、何の役にもたたなかったわよ」
 と裕子は吐き捨てた。看護師でもない母がついていったって病人の面倒がみれるわけでもないし、父の足手まといになっただけだとおもったが、さすがにそうは言わずにおいた。
「そんなことないっスよ。奥さんには奥さんにできたことがあったとおもうっス」
 それまで無邪気な顔でトーストをほおばっていた川上が、神妙な顔つきで言った。
「槙原のセンセーみたいに直接病人の世話ができたわけじゃねえ。けど、俺、あそこにいって、すっげえ感謝された。俺はただのトラック運転手で、トラックの運転しかできねえけど、トラック運転して、薬運んだってだけで、人の役にたてたっス」
 球里熱の発生地域であるF県へ足を踏み入れるのを、誰もが二の足を踏んだ。父は自らそこへ赴き、川上も飛び込んでいった。
 父や川上を英雄視する一方で世間は非情だ。父は英雄のまま死んでいったが、感染しなかった川上だというのに、感染地域にいたというだけで彼は今、ウイルスをF県外に撒き散らしている人間のように扱われている。その証拠に、テレビのインタビューはすべて電話で行われていた。直接彼と対面しようという人間はいないのである。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 5-3

「何でN町なんかに行ったの?」
「なんでって、トラックの運転ができるからッス。荷物を運ぶ場所があったらどこへでもいくッス」
 川上は、むしろ自分が裕子に、何でトラック運転手として当たり前の行動をとった理由を知りたいのかと聞きたそうな表情を浮かべていた。
 普段なら、裕子も、トラックの運転手をしている人間に「何で物を運ぶのだ?」というバカげた質問はしない。だが、川上がむかった先は、怖ろしい伝染病の発生している地域で、いくら仕事があるとはいえ、普通は行きたがらない場所である。
 医者の父が感染地域へ赴いたのは職業柄そうせざるを得なかったのだが、行かなくてもいい場所に、なぜ川上はわざわざむかったというのか。
「怖いとか思わなかったの?」
「思ったッスよ。でも、テレビで、『若いモンに行かせられない』、『自分は子どもが成人しているくらいの年だから死んでも誰が困るわけじゃない』、ってセンセーが言って医療チームに志願したって聞いてさ。それじゃ、俺も行くかって。俺、ヨメさんもガキもいねーし、センセーとおんなじで、別に俺が死んで困る人間はいねえから。どうせ死ぬなら、人さまの役にたって死にたいって思ったんスよね」
 川上は肩をすくめて笑った。笑うと右頬にえくぼが出来る。二十歳は超えているのだろうが、笑顔は子どものように幼かった。
 川上が不足していた薬などを運びこんだおかげで死なないですんだ人たちがいるとは、裕子も知っている。自分の命を顧みない立派な行動だとおもう一方で、あまりにも軽はずみすぎやしないかと、裕子は腹がたった。と同時に、川上に軽はずみな行動をさせたという父の言動にも腹がたった。
「死んで誰も困らないって、どうして言えるのよ。親とか、友だちとか、悲しむ人がいるって考えなかったの? お父さんもお父さんよ。確かに私も典子も、自分の力で生きていけるけど、お母さんはどうなの? お母さんが悲しむって思わなかったのかしら! お母さんと旅行三昧の老後をおくるんだって言ってたくせに、かっこつけて医療チームに志願したりして、あげくに死んじゃって。ひとり残されるお母さんのことは何も考えないで、ほんと、お父さん、バカっ! お父さんの言うことを間に受けるなんて、どうかしてるわよ!」
 母にたしなめられなかったら、裕子は拭いきれない不満を、いつまででも川上にぶつけ続けていただろう。だが、当の川上はトースト片手に「俺、友だち、いないっスから」と、裕子の“口撃”を相手にしていなかった。
「今日は、お仕事は?」
 その場のまずい空気をとりつくろうと、母がすかさず話題を変えた。
「休みッス。もうずーっと休み」
 川上はケタケタと笑った。
「会社に黙って行ったんで、クビになったッス」
 というのは建前で、本当は感染地帯にいた川上が職場に戻ってくるのが怖くてクビにしたんだろう ― そう推測するだけで、裕子の気分は悪くなった。
「これからどうなさるの?」
「仕事さがします」
「運転手のお仕事?」
「それしかできないッス」
「そんな簡単に仕事なんかみつかんないわよっ!」
 それまで黙って、母と川上のやりとりを聞いていた裕子が突然叫んだ。クビになったのと同じ理由で川上を迎えようという会社などありはしない。楽観的な川上にも、そして世間知らずで能天気な母にも腹がたった。
「そうッスかね」
 裕子の失礼な物の言い方にも、川上は笑顔でいた。
 なんでそんなに明るい未来を信じられるのか ― バカじゃないの。
 腹立たしいのと同時に、裕子は自分もバカになれたらいいのにと、今度は自分に腹がたった。
 球里熱のことも、球里熱をとりまくすべての事柄も何もかも外において、水島と一緒になろうと行動できたなら……
「そうよ!」
 こみ上げてくる涙を見られまいと、裕子は席をたち、自分の部屋へとかけこんだ。

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ジャンル:小説・文学

花嫁の父 6-1

 ―「娘と直接話しがしたい」
 槙原はスメラギに頭を下げた。灰色の頭頂部をみつめながら、スメラギは黙ったままだった。
 梅雨の時期だというのに、じんわりと湿っているはずのスメラギ探偵事務所にはひんやりと乾いた空気が漂っている。槙原のせいだ。霊が存在していると空気が凍りつく。スメラギは慣れたものだが、袴姿の美月は両手に息を吹きかけて暖をとるほど震えている。
「花嫁姿はもういい。それより、娘の笑顔をみて成仏したい」
 槙原は自分が見てきたことの一部始終をスメラギに語った。
 裕子が水島のプロポーズを断ったこと、その理由、水島の母親とのこと…。
「このままでは、娘は死んだも同然だ。あの子は昔からそうなんだ。自分の気持ちは抑えて、人にあわせてばかりだ。
水島くんの母親に言い返したいこともあったろうに、水島くんに言ってしまいたいこともあっただろうに、言えずにいて……。そんな娘をおいて、とてもじゃないが、あの世には逝けないよ……」
 自分がまだこの世にとどまり、家族のそばにいるのだと気づいてもらおうと、トースターを動かしたりしたことを、槙原はスメラギに打ち明けた。妻の好江は何かを感じているようだが、槙原の霊の存在を確信するまでには至っていない。
「俺が、あんたはまだ家族のそばにいるって言っても、美月にのって娘と話をしたとしても、娘さんたちは信じてくれないぜ」
 ようやく開いたスメラギの口から、白い息がたなびいた。
「人は目にみえないものを信じない。見たいものだけを見、聞きたいことだけに耳を傾ける。霊の存在を信じない人間には、何を言おうと、その心には何も届かない。それでも、おっさん、話をするかい、話をしたいかい?」
 スメラギの鋭い目が槙原に選択を迫った。槙原もまた、この世で唯一言葉を交わすことのできる人間、スメラギを射るように見据えた。
 槙原よりずっと若いスメラギだが、まるで人生の荒波を潜り抜けてきた老人のようにみえるときがある。人外のものを見てしまうというのは並大抵の精神力では耐えられようもなく、生まれついてから霊をみてきたという彼は、本人の意思に関わらず、強い精神の持ち主にならざるを得なかったのかもしれない。霊と人との間(はざま)で生きるスメラギという男は、人間の目には見えないものを見てしまうせいか、人の本質そのものを見抜いてしまっているようなところがある。
 死んで自分自身が霊となったからこそ、槙原も霊の存在を信じ、スメラギの霊視能力を信じることができるが、生きていたときにスメラギに出会っていたとして、はたして彼の言う能力を信じただろうか。
 裕子は、父の霊がそばにいるのだと信じてくれるだろうか……。
「…今のままでは…」
 槙原は不安ながらも、裕子と直接話してみようと決心した。

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花嫁の父 6-2

 「また……」
 好江は小さく呟いて、玄関先で脱ぎ捨てられている夫の靴を靴箱に閉まった。
 夫が亡くなって以来、1か月が経とうとしているが、好江には夫が亡くなったという実感がわかない。夫が生きていた頃のように、便座があがったままのときがあり、今朝も夫がそうしていたように靴が玄関先で脱ぎ捨てられていた。帰宅した夫はいつも靴は脱ぎっぱなしで、好江が揃えていたのだ。そんなはずはないのだが、夫の気配をすぐそばに感じるため、つい夫の箸や茶碗をそろえてしまって、裕子にたしなめられてしまう。
 夫が生きているかのような不思議な出来事があまりに頻繁に起きるため、はじめは訝しくおもっていた好江だが、今では夫が生きていた頃のように、便座をさげ、靴をそろえるのを楽しみにしていた。
 今日はトイレの便座をさげたかしらとおもってトイレへむかうと、玄関先で人の声がした。
「ただいまー」
 高い声の主は、待ちわびていた次女の典子だった。
 会わせたい人がいるから、ママもお姉ちゃんも今週の土曜日には家にいてといわれ、裕子とふたりで、朝はやく出かけた典子の戻りを待っていたのだった。
「いらっしゃ…い」
 玄関先で好江が目にしたのは、典子を中央に、銀髪の目つきの鋭い若者と、和服姿の青年だった。
「こんにちは」
 和服姿の青年は人懐っこい笑顔で会釈したが、銀髪の若者は黙って頭を軽く下げただけだった。
 てっきり恋人でも連れてくるのかとおもったら、どうやら典子の友人らしい。一人は感じのいい青年だが、もうひとりは愛想のない若者だ。
「ああ、うん、いるね」
 和服姿の青年はそう言って、典子に何か耳打ちした。
「やっぱりねー」
 靴を脱ぐのもそこそこに、典子は和服姿の青年を好江に紹介した。
「ママ、この人、美月さんていうの。霊が見えるっていうから、パパがいるかどうかみてもらおうとおもって連れてきたー。そしたら、今ね、パパがママの横で挨拶してるって」
「美月と付き合っているんじゃねえだろうなって心配してるぜ」
 銀髪の男、スメラギという若者は無愛想に言った。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 6-3

 案内されないうちに、スメラギと美月のふたりは槙原家のリビングへむかい、美月はリビングを占領しているダークブラウンのマッサージチェアを指し示した。
「お父さんのお気に入りの場所だったでしょう、ここ。家族の誰も座らせないで、誰も座ろうとしなかったし。
 このマッサージチェアは二代目でしょう。最初のものは藤色で布張り、槙原さんが座っているときに急に二つに折れて、お父さん、サンドイッチみたいに挟まれたんだ」
 当時を思い出したのか、好江が妙な笑い声をたて、次には目に涙を浮かべてこみあげてくるものを抑えるように口元を抑えていた。
 マッサージチェア云々の話は、スメラギが槙原から聞いたことを美月に伝えたのである。霊が見えないはずの美月が見えるふりをするのには理由があった。
 槙原から、妹の典子のほうが占いなどに興味があると聞いたスメラギは、まず典子に近づくことにした。といっても実際に典子に声をかけたのは美月であった。
 街中を歩く典子に、父親の霊がみえるといって美月は典子に近づく。父親のあれこれについて美月が語って聞かせる内容は、スメラギが槙原から聞いた又聞きだ。典子はもちろん気味悪がるだろうが、あやしげなナンパでないと証明するのが美月のいかにも人のいい笑顔だった。ただの笑顔ではない。穏やかながらも、知らず知らずのうちに美月の思い通りに動かされてしまう不思議な力のこもった笑顔だ。
 そして実際、典子は美月の話を素直に信じた。そしてこれもスメラギの計画通り、家に来て父親の霊がいるかどうか見てもらえないかと言わせることに成功した。
「ママがね、パパの霊がいるって信じてるみたいだから」
 便座があがっていたり、物が移動していたりする家のなかで起きる不思議な出来事を典子は美月に語った。それはもちろん、槙原が本当に便座をあげたり、物を動かしていたからで、すべて美月を槙原家に呼び入れるために槙原とスメラギとが練った計画だった。

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花嫁の父 6-4

 「あんた、信じてねぇだろ」
 スメラギは裕子に近寄っていった。リビングでひとしきり父の話をしている母と典子、“霊がみえる”美月という青年を遠目に、裕子はひとりダイニングテーブルの椅子に腰掛けていた。
「霊なんて、信じるわけないでしょ。マッサージチェアの話なんて、どうせ典子から聞いたんだろうし。父の霊がみえるって言ってって、典子に頼まれたの?」
 父が亡くなった直後より、1か月経ったここ数週間ほどで、母の様子がおかしくなってきた。父に話しかけているようなひとり言が増え、生きていたときのように父の靴をそろえ、膳を整えてしまう。注意すると我にかえるのだが、母は父が死んだと知らないようにふるまっているようにみえて仕方がない。
「お父さんがいなくなったショックでおかしくなったのかしら」
 喪失感から人は心のバランスを崩すと聞いたことがある。裕子は、大学で心理学を専攻していた妹に相談した。
「パパが死んだってこと、ママは受け入れられないみたいね。幽霊でも何でもいいからパパに会いたいって気持ちがママに幻覚をみせているのかも。幽霊の正体って、自分の心なのよ」
 妹の典子とそんな話をしたのがつい2週間前だった。考えがあるといった典子に任せておいたら、霊がみえるという男を家に連れ込み、母だけがみている幻の父に付き合っている。
「典子も、あなたたちもどういうつもりなの。母は父の死を受け入れられずにいて幻覚か何かを見ているんでしょうけど、それを父の霊が本当にいるみたいな話をして。時間が経てば、母も父の死を受け入れるはずなんだから、変な話をして母を混乱させないで」
 スメラギは裕子のむかいの椅子を引いたが、座ろうとはせず、立ったままでいた。
「確かに、あっちは芝居だけどな。でも、おやじさんは本当にここにいるぜ」
 誰も座っていないはずの椅子を、スメラギは顎で指し示した。
 裕子の目の前には、銀髪の若者が立っているだけだ。引かれたままになった椅子には誰も座っていない。椅子の背もたれ越しには、父の話をしている母と典子、美月という青年がみえるだけだった。
「そういう話なら、やめてよね」
 気味悪そうに眉をしかめ、寒気を感じたのか、裕子は肩を震わせた。
「あんた、変な人だなあ。おふくろさんがN県出身だから、もしかしたら球里熱のウイルスを持ってるかもしれないとか、自分にも受け継がれているのかもしれないなんてバカげた話は信じるのに、霊の存在は信じられないってか」
 裕子の心臓が一気に血を放出し始めた。喉元まで感じる鼓動を抑え、裕子はやっとのことで言葉を絞りだした。
「なん…の話?」
「とぼけんなよ。彼氏のおふくろにいろいろ言われたんだろ? あんたのおふくろさんが、かつて球里熱の感染地域だった場所の出身だったからって、あんたも、あんたの彼氏も球里熱にかかるなんてわけねえし。あんた、知ってるはずだ。ウイルスは遺伝なんかしやしねーし、第一半世紀以上も長生きするウイルスなんてありえねえだろ。めちゃくちゃな理論なのに、あんた、彼氏のおふくろの言うとおりにして彼氏と別れやがって。それって、あんたも、そのおふくろの話を信じたってこったろ?」
 水島の母とのいきさつは、水島はもちろん、家族の誰にも話をしていない。それなのに、なぜ見ず知らずの男が知っているのだろうか。裕子がグチめいた話をしたのは、仏前の父にむかってだ。
「人間、目にみえないものは信じない。見たいものだけを見る。あんたが何を見たがろうと、何から目を背けようと、俺の知ったこっちゃねえ。なあ、聞けよ」
 反論したげな裕子をさえぎり、スメラギは続けた。
「信じようと信じまいと、俺にはあんたのおやじさんが見える。あんたのことはおやじさんから全部聞いた。……おやじさん、あんたのこと心配してるぜ。このままだと、あんたのほうが死んだも同然だってな」
「……」
「彼氏と、あれきり話してないんだろ? ケータイの番号も変えて、家の電話にも出ない。一方的すぎないか?」
 水島のプロポーズを断った翌日には、裕子はケータイの番号を変えてしまった。家の電話や会社にまで電話がかかってくるが、裕子は出ようとはしないでいた。
「あんたの気持ちだけを彼氏に押し付けてるだろ。ちゃんと、彼氏と話をしたほうがいいぜ」
「…話って、お母さんのこと、話せるわけないじゃない……」
「おふくろさんのことは言い訳だろ? 本当は、自分が球里熱の原因のように言われるのが怖いんだ」
 図星だった。心の底で気付いていながら、気付かないふりをしていた。バカバカしい理屈だとわかっていながら、その理屈を振りかざす人間に立ち向かえない弱さ、それは裕子が見たくないものだった。見たくないものから目をそらしてしまえば見えない。見えないものは存在しない。存在しないものを恐れる必要はない……。
「おやじと話したいか?」
 裕子は銀髪の男をみつめた。近くでみると根元まで見事な白髪で、染めているわけではないらしい。裕子よりも若いはずだが、もう白髪が生えてきているのだろうか。挨拶もろくにできない無愛想な男で、三白眼の目を鋭いと感じたが、今はその瞳が底のない澄み切ったものに見える。
「やつは霊媒体質だ。直接話をしたければ、おやじさんの魂をやつにのっけて―」
 スメラギの視線を感じたように、美月が裕子たちを振り返り、にっこりと笑った。
「あんなイケメンじゃあ、お父さんと話してるって実感わかないかもしれない……」

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花嫁の父 エピローグ

 6月のとある週末、梅雨の晴れ間の青空のもと、水島隆也と槙原裕子は都内式場で結婚式を挙げた。
 披露宴では、槙原夫人の横に紋付袴姿の美月が、“父親”代役として座っている。見かけは美月だが、中身はまさしく本物の父親、槙原慎太郎だった。
 宴は滞りなく進み、花嫁の裕子が父にあてたメッセージを読み上げ、花束をおくると、美月の姿を借りた父、槙原はたまらず涙を流していた。
 表向きには、“父親のように世話になった人”という美月が感動している光景に、招待客もおもわず目頭をおさえていた。
「全員泣いているじゃないか。葬式かと思ったぞ」
 式場の片隅で、スメラギとともに披露宴を見守る死神がぼやいた。披露宴が終わったら槙原を連れていくという取り決めだった。
「なにが悲しいのだ」
「悲しくなくても泣くんだ、人間は。血も涙もねえ死神にはわかんねーだろーが」
 死神が人の目にみえない存在でよかった、スメラギは今日ほど心からそう思ったことはなかった。男性招待客たちと似たような黒いスーツ姿だが、死神は常に死臭をまとい、華やかさに欠ける。
「お前は自分の結婚式でも泣きそうだな」
「バーカ、泣かねえよ。つーか、結婚しねえし」
「なんだ、まだあの女のことを引き摺っているのか」
 死神の視線が美月の姿をとらえていた。
「それ以上なんか言ったらブッ殺すぞ」
 いつになく鋭く光ったスメラギの視線が死神を突き刺していた。
「死神を殺れるもんなら、殺ってみな」
「てめー」
 スメラギの渾身の右ブローを軽く受け止め
「夜摩から言づけだ。1千万今日中に振り込んでおけだと」
「1千万?」
 スメラギの裏返った声に、近くにいた招待客が数人振り返った。
「何の話だよ、1千万て」
「49日過ぎたら1千万という話だっただろうが」
 もともとの槙原の依頼は娘の花嫁姿をみることだった。49日以内に依頼を解決できればいいが、49日すぎたら1千万支払えというのが、閻魔王こと夜摩との約束になっていた。人ひとりを49日以内で結婚させることなんてできるかとふてくされたものの、どうにか49日以内に槙原の娘の裕子と恋人、水島は結婚の約束をするに至った。娘が結婚すると知った槙原はその事実だけに満足して、おとなしくその身を死神に引き渡された。ちょうど1年前の6月のことである。
「ちゃんと49日以内におめーにおっさんを引き渡しただろーが」
「今日の結婚式出席をもって、依頼完了とみなすそうだ」
「は?」
 槙原を結婚式に出席させてやったらとスメラギに言ってきたのは夜摩だった。めずらしく人情味があるじゃないかとおもったら、下心があったのだ。
「んっとに血も涙もねぇー」

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花嫁の父 あとがき

幽霊よりも妖怪よりも何よりも恐ろしいのは人間だと私は思っています。

人の悪意ほど恐ろしいものはない。それは時として美しい外見をともなうことがあるけれど、そういうものほど私は恐ろしくて仕方ありません。

霊や妖怪はそういった目には見えぬ人の悪意を具現化したものかもしれない。

そういう人の醜ささえも、それが人間であると受け入れられるようになれば悟りを開いた境地なのでしょう。私には到底たどりつけそうもない高みであります。

今作は、そんな悪意を書いてみたくて筆をとった作品です。

異形のものよりも恐ろしいものとは何なのか。スメラギシリーズでは少し変わった形をとったエピソードとなりました。

読んでいただきまして、ありがとうございました。

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