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あじろ けい

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綿帽子と丸メガネ あらすじ

心霊探偵スメラギシリーズで活躍する、主人公スメラギと幼ななじみ美月龍之介が出会ったばかりのころのストーリー。

中学入学以来、生まれつきの白髪をからかわれてはケンカする日々を過ごしていたスメラギ。美月は彼の存在が気になりながらも声をかけられずにいた。そんなある日、スメラギがかわいがっていたウサギが殺され……。

sumeragi1.1

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テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

綿帽子と丸メガネ 1-1

 「スメラギぃッ!」
 美月龍之介が職員室に入るなり耳に飛び込んできたのは、生徒を怒鳴りつけている生徒指導の角田の大声だった。唾を撒き散らす勢いの角田の前に、後ろ手に直立不動の姿勢を保つ少年がいた。
ブレザーの制服の袖は取れかけ、肩口からほつれ糸が垂れ下がっている。ネクタイなどはどこかへいってしまって行方不明、ボタンの弾け飛んだシャツの襟もとは、血とおぼしき赤茶けた染みで汚れている。
その視線は角田を通りこし、まっすぐに窓の外に向けられている。空はオレンジと水色の縞模様に染まっている。夕焼けの柔らかい光が差しこんで、その頭がオレンジ色に燃えている。
 富士見坂中学1年2組、皇(すめらぎ)拓也が職員室に呼び出される風景はもうおなじみだ。連日のようにどこかで喧嘩しては角田に呼び出され、説教されている。入学して1か月、ほぼ毎日のように続いて、スメラギと角田の日課と化していた。
 喧嘩の原因はスメラギにあった。生まれつきの白い髪、紫色の丸メガネを鼻先にかけ、睨むような目つきで誰とも口をきこうとしない。大人びてみえるのは何も背の高さのせいだけではない。邪気とはいわないまでも、何か得体のしれない冴えた空気をその身にまとって、他の子どもたちにはそれが怖くてたまらない。
 鬼の毛だの、妖怪だのと、スメラギは、その白い髪やメガメをからかわれ、からかわれては相手につかみかかっていき、毎日のように誰かと諍い事を起こしていた。
 中学に入学してすぐ、美月龍之介は、スメラギがあの時の少年だと思い出した。
 あれは2年前。父親同士が知り合いだというスメラギの父が美月家をたずねてきた。その時、父親の背中に恥ずかしそうに身を隠していたのが、11歳のスメラギだった。当時からくらべたら今は背もだいぶ伸び、顔も大人びてきていたが、見事な白髪だけは今もかわらず、銀色に光り輝いている。
 美月の家は、代々にわたって富士野宮神社の神主をつとめている。スメラギの父がたずねてきたその日、美月の父は、神社裏の洞穴で採れる紫水晶を削り出し、丸く磨いてメガネをつくった。興味深そうに父親の手元を覗きこむ美月にむかって父親は
「これはね、あの子にとってとても大事なものなんだよ。いつかはお前がこのメガネをあの子のために作ってやることになるだろうからね。よく見ておくんだよ」
 と言った。
 父の大きな手のなかで、メガネはキラキラと紫色の美しい光を放った。子ども心にもキレイだなあとおもったのを美月は覚えている。
 その時に父によって作られたものかどうか、紫水晶のメガネをスメラギは、入学以来かけ続けている。
 美月の方はその出会いを思い出したが、スメラギは覚えているのかどうか、同じクラスだというのに、目があっても声をかけるわけでもない。入学してから1か月がたとうとしているというのに、美月はスメラギと口をきいたことがなかった。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

綿帽子と丸メガネ 1-2

 帰り支度を済ませ、校舎を出ると、校庭の隅に光るものがあった。
 スメラギの白髪が夕映えに照り輝いている。しゃがみこんで抱えた格好の腕のなかに、もぞもぞと動くものがあった。
 富士見坂中学では、ウサギを飼っていた。生徒が交替で世話をすることになっていたが、特に誰がという決まりはなかった。誰が面倒みるというわけでもなく、見捨てられた格好のウサギだったが、飼育小屋内の地面を掘って外に出てエサをとっているらしく、たくましく生き延びている。
 スメラギが抱いているのは、ウサギだった。慣れたもので、スメラギの手から野菜の切れ端をもらい、鼻をひくつかせながら葉をむしり取って食べている。その様子を、スメラギは目を細めて見入っている。

―笑えるんだ

 そういえば、この1か月、スメラギの笑顔というものをみたことがない。いつも怒っているような、泣き出しそうな顔をしているだけに、その笑顔は美月にとって新鮮な驚きだった。
 その笑顔は、まるで誰かに向けられているようだった。スメラギの周りには誰もいない。にもかかわらず、まるでそこに誰かがいるかのようにスメラギは空にむかって笑いかけ、時々、しゃべりかけてもいるようにみえた。

 ―この風景、どこかで―

 同じ風景を遠い昔に目にしている。
 思い出した、あれは3歳ぐらいの頃だ。
 公園で、ひとりでに揺れているブランコを見たのだ。今と同じような夕暮れ時、誰も揺らしていないのに宙を舞うブランコ―そしてかたわらには白い髪の小さな男の子。男の子は、まるで誰かが乗っているかのように、揺れるブランコにむかって笑いかけていた。
 あの男の子はスメラギだ。
 2年前が初めてだったわけじゃなかったのか。

 両親が離婚するまではこの街に住んでいたという話だから、幼い頃どこかで出会っていたとしてもおかしくない。
 子ども心に、あれは夕焼けがみせた幻だとばかり思っていたが、現実の光景だったとは。
 沈みかけの太陽が投げかける最後の光に、スメラギの白髪が照り輝いている。
それにしても、キレイなもんだ―他の子どもたちはスメラギの白髪を忌み嫌うが、美月は美しいと思っている。
 風に揺れるタンポポの綿帽子だな―そういったらスメラギは怒るだろうか。
 怒るだろうな―スメラギに喧嘩を売られる場面を想像し、苦笑いを浮かべながら美月は校庭を後にした。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

綿帽子と丸メガネ 2-1

 その日の朝、授業開始のベルが鳴ったと同時に、スメラギが教室に入ってきた。遅刻は当たり前のスメラギが珍しいもんだと美月が不思議におもっていると、スメラギは吹き抜ける風のように静かに机の間をぬい、教室の片隅にむかった。その手に形の定まらない何かを持っている。
いつも自分をからかっていじめているグループがたむろしている一角にたどりつくと、スメラギは、手にしていた物体をそばにあった机の上に叩きつけた。
 ぬちゃり―水風船を落としたときのような重く湿った音がした。
 それは、皮を剥がされたウサギの肉塊だった。
 たちまち血が机の上に滲み出し、グループの連中が机や椅子にけつまずきながら、あたりに散った。
 スメラギはウサギの肉を片手に、逃げ遅れた生徒の襟首をつかまえ、その口に肉の塊を押し付けた。
「喰えよ! 殺したんだったら喰ってやれよ!」
 生徒はスメラギをはじけとばし、その口をぬぐった。袖口に血がついたのをみて腰を抜かし、だらしない悲鳴をあげている。スメラギは次の獲物を探しにかかっていた。
「何だよ、喰わねぇのかよ! 喰わねぇのに殺したのかよっ! ざっけんじゃねーぞっ!」
 スメラギはウサギを床に叩きつけた。とたんに肉片が飛び散り、女子は悲鳴をあげて教室の外へと逃げ出した。
「命なんだぞ! 誰かの命を支える命だ! それを奪っていいのは、生きようとする時だけだ! 生きるの死ぬの瀬戸際に立ったこともないくせに、命だけ奪ってんじゃねーよ!」
 そう叫びながら、机や椅子をかき分け、スメラギは手当たり次第にあたりの人間に殴りかかっていった。
 スメラギの行く手には悲鳴があがり、床には点々と血が滴った。あたりに充満する血と死臭のすえた臭い。教室はさながら地獄と化していた。
 床にへたりこんで泣き出すもの、悲鳴なのか助けを呼んでいるのか、わけのわからないことを叫んでいるもの ― 正気でいるのは誰ひとりいなかった。美月を除いては。
 美月は、馬乗りになって狂ったように殴りつけている生徒のもとからスメラギをひきはがそうとした。人並外れて体格のいい、そして力のあるスメラギを押さえつけるのには力がいった。だが、体格だけでいったら美月も負けてはいない。
「おい、やめろったら!」
 美月の制止の声は届いていない。スメラギは我を失っていた。
「よさないかっ!」
 ふりあげる両腕を羽交い絞めにしようとしたその瞬間、スメラギの肘が美月の左目に入った。
「っ!」
 美月が思わず声をあげると、一瞬、スメラギの力が弱まった。その隙に、美月はスメラギを取り押さえた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

綿帽子と丸メガネ 2-2

 その日は授業どころではなくなり、騒ぎを起こした張本人のスメラギは当然として、スメラギに殴られ続けて病院送りとなったひとりを除いたいじめグループ全員と美月までが生徒指導の角田と担任とに呼び出された。
 校長室脇にある来客用の応接室は、別名「仕置き部屋」と呼ばれていた。呼び出された親ともども、校長から説教される場所だからついた名だったが、美月たちは今その応接室に、校長、担任、角田の3人の大人を前にしていた。
 応接室というだけあって、ソファーは革張り、壁には学校行事を撮った写真が飾られている。飾り戸棚には、部活動か何かで獲ったとおもわれるトロフィーがいくつも並べられていた。
 校長、担任、角田に続いて応接室に入った一行は、何も考えずにソファーに座ろうとして、角田に「何座ろうとしてんだ、お前ら、客じゃねえんだぞ」とたしなめられ、その場に立たされた。
「で、何があったんだ」
 角田が口を開くなり、スメラギと美月を除いた他の生徒たちが一斉にしゃべりだす。
「おい、一人ずつ」
 最初にスメラギにウサギの肉をおしつけられた生徒が、スメラギがいきなり殴りかかってきたのだと言った。
「そうなのか」
 角田はスメラギにたずねたというのに、他の生徒たちが仲間の口車にのって、そうだとわめきたてる。
「うるさい、ちょっと黙ってろ! 俺はスメラギに聞いているんだ!」
 角田に怒鳴られて、しぶしぶグループの連中は口をつぐんだ。スメラギに追いかけまわされていたときには、泣きじゃくっていたくせに今はにやけた笑いを浮かべている生徒もいる。
「で、どうなんだ、スメラギ」
角田の声がうってかわって柔らかくなった。職員室では耳が割れるばかりの大声でスメラギを説教しているのに、今日に限って、まるで物心つかない幼い子どもに話しかけるような態度だった。
「なあ、スメラギ。俺はいつもいっているだろう。からかわれたからって殴るのはダメだって」
「……」
「力に訴えるな、ぐっとこらえろと言ってるだろ?」
「……」
「こらえられないほどのことがあったのか?」
「……」
 スメラギは黙ったまま、直立不動の姿勢を崩そうとしなかった。その視線は窓の外に向けられている。その光景は、放課後の職員室でのものとまったく同じだった。鬼と恐れられ、角田(かどた)という本名だが、鬼になぞらえてひそかに角(つの)田とよばれている角田が、淡々と諭す口調だけがいつもと異なった。
「ウサギを殺したっていう話は本当? 殺したのはスメラギくんなの?」
 若い女の担任が問いただす。実際には30を過ぎているらしいが、見た目は教育実習生かとおもうほど若い。入学以来、問題ばかり起こしているスメラギに手をこまねいていたが、今日は角田も校長もいることだし、ここは担任らしいところをみせつけないといけないとでもおもっているらしい。キンキンした甲高い声が耳にうるさい。
 スメラギが黙っているのをいいことに、いじめグループの生徒たちはウサギ殺しもスメラギのせいにし始めた。
 ウソだ、スメラギはみんなに見捨てられたウサギをひとりで面倒をみていた。殺すはずがない。殺したのはいじめグループの連中だ。スメラギの大事にしているものをめちゃくちゃにしてやりたかったんだ。まったく、命を何だとおもっているんだ ― 美月の喉元が熱くなった。
「先生っ!」
 こいつらウソをついていると言おうとしたそのそばで、後ろ手にしたはずのスメラギの手が美月の手首をきつく握っていた。まっすぐに窓の外のキンモクセイの青い葉だけをうつすその目は、何も言うなと美月に命令していた。 
「何、美月くん?」
「いえ……」
「お前、何か知ってるのか」
 身を乗り出した角田に問いかけられても美月は首を横に振るしかなかった。手首を握るスメラギの力がだんだんと強くなっていた。この先一言でも口をきいたら、スメラギに手首を捻り折られそうだった。
「美月くん、あなた、学級委員でしょう」
 それなのにこんな騒ぎを起こして……担任はそう言いたかったらしい。だが、はっきりとは言わず、「どうしたの」「何があったの」を繰り返すばかりだった。
 美月は何も言えなくなってしまった。あらいざらい、何もかもしゃべってしまいたい。だが、何から話せばいいのか。スメラギがウサギの面倒をみていたことか、いじめグループがスメラギの白髪をからかっていたことか、母親を亡くした複雑な家庭事情のことか。言葉がみつからず、文脈がうまくまとまらない。そのまま口をきけば、ただただ叫びだしてしまいそうだった。
「何だ、美月、お前までだんまりか……」
 角田は深いため息をついてあきれていた。
 結局、親たちが呼び出されるまで、美月とスメラギはだんまりを決めこみ続けた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

綿帽子と丸メガネ 2-3

 昼休みになってようやく、呼び出された親たちが次々と子どもたちを引き取りにやってきた。
 スメラギも美月も黙ったまま、いじめグループはそれぞれが勝手なことをわめきたてるだけで、何故、誰が騒ぎを引き起こしたのかということは、その場にいなかった担任や角田には何ひとつわからなかった。教師ですらそうなのだから、学校から連絡を受けてかけつけた親には、何が何だかさっぱり事情がのみこめていない。どうやら子どもたちがケンカしたらしいとだけ聞かされた親たちは、スメラギをちらりと見て、眉をしかめた。その視線はあきらかにスメラギの白髪へと向いていた。
「ウサギ、大事に面倒みてただろ?」
「……」
「ウサギを殺したの、あいつらだろ」
「……」
「いいのかよ、勝手なこと言わせておいて」
 母親たちに連れられて帰っていく生徒たちは、口々にスメラギの悪口を言っているだろう。アイツ、銀髪に染めててさ、いっつも紫色の変なメガネかけてて、目つき悪いし、気持ち悪いんだよ、今日はウサギを殺して、食べろって言ってきてさぁ、そんなの食べるわけないじゃん、そしたらいきなり殴りかかってきてさ―
 何だか気にくわないヤツだから、そいつが大事にしていたウサギを殺してやったんだという真実を口にする生徒は、誰ひとりいない。白髪、紫色のメガネをかけたスメラギの外見を目にした親たちは、あんな格好の子だから問題を起こすんだと、スメラギを色眼鏡で見てしまっていた。
 スメラギの凄みに負けて、担任と角田に何を聞かれようと一切口を開かなかった美月だったが、今になって悔しさがこみあげてきた。黙っているスメラギにも腹がたった。黙っていたら、言いたい放題言われるばかりではないか。どうしてスメラギは、いじめられていたこと、かわいがっていたウサギを殺されてカっとなってしまったことを言わないのか。
「黙ってないで―」
 何とか言ったらどうだ、と続けようとしたのを、スメラギがさえぎった。 
「ウソつきは閻魔に舌抜かれるんだぜ」
「エン…マ?」
「地獄の閻魔王。だから、あいつらには言いたい放題言わせておくさ」
 ウソつくと閻魔様に舌を抜かれるわよ ― たしか、母親が幼い頃にそう言ってウソをつく美月をたしなめた。怖がらせてウソをつかないようにしようという躾の一環だと今はわかっているが、スメラギはどうやら閻魔王の存在を本気で信じているらしい。くやしまぎれとも冗談ともとれない口ぶりで、ネコやイヌのように珍しくもないもののように閻魔王の名をさらりと口にした。
 応接室に並んで立たされたまま、親の迎えを待つ美月の隣に立つスメラギは、中学1年生にしては背が高く、身長だけでいったら高校生に見られなくもない。いつもどこか宙をみすえる遠い目をしているせいで大人びてみえたスメラギの横顔が、今日に限っていたいけな子どもにみえた。閻魔王がいるなんていう話をするからだ。今時の子どもだって信じていない閻魔王の存在を信じているスメラギが、美月にはどことなく愛おしく感じられた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

綿帽子と丸メガネ 2-4

「このクソがきっ!」
 頭の上で雷が落ちたような怒鳴り声がしたかとおもうと、ゴツンと鈍い音がした。鉄球のような拳骨がスメラギの白髪の頭におちて、スメラギは声もあげられないでいる。
「どうも、先生方、こいつがご迷惑かけまして」
 とたんに声が裏返って、角田や校長、女担任にペコペコ頭を下げているのは、スメラギの父親だった。
 派手な柄の解禁シャツの胸元にはスメラギと同じ紫色の丸メガネがかかっている。てっきりスメラギ同様、白髪だとばかり思いこんでいた頭は黒々として、背はこれはスメラギの父親らしく、高い。少しばかり酒と香水の甘い香りを漂わせていた。
「クソおやじ、また飲んでんのかよ」
「おめぇみたいなクソガキがいたんじゃ、飲まなきゃやってられねぇんだよ」
「なんだとっ」
 親子ゲンカが始まって、スメラギの怪我がまた増えそうになるのを、角田が割って止めに入った。その様子に、まわりでヒソヒソ言葉がたった。
“やっぱりねえ”“この親にしてこの子ありよねえ”
 スメラギの実家は代々の旧家で、このあたりの土地はほとんどを皇家が所有し、働かなくても食べていくのには困らない。スメラギの父は、昔はサラリーマンをしていたが、今は自由の身らしく、ふらりと街を出ていき、出ていったときと同じようにふらりと帰ってきては、必ず美月の父親のもとをたずねる。そのたびに、「大きくなったなあ」と目を細めて美月の頭をなでた。
 スメラギの父が変わったと感じたのは、スメラギが美月の住む街に戻ってきた時だから、2年前だ。スメラギの両親はスメラギが幼い頃に離婚し、スメラギは母親に引き取られた。その母親が事故死し、スメラギが父親である慎也と暮らし始めたころだ。不幸な事故直後より、1年ほど時間が流れたあとのほうが慎也の荒れ様がひどかった。浴びるように酒を飲み始め、酔っ払って暴れたり、夜遅くまで遊び歩いては、美月の父親にたしなめられるが、夜遊びも酒も一向にやめる気配がない。
 美月は、口もとをおさえてコソコソ噂話に花を咲かせている母親たちを睨みつけた。昼間から酒を飲んでいるような親の子だから、手がつけられない問題児なんだとでも? スメラギの何を知っているというんだ。誰も面倒みなかったウサギを可愛がっていたのはスメラギだったんだ、それを簡単に殺したのは、髪が真っ黒で“普通です”って顔して平気でウソつくあんたたちの子どものほうじゃないか。
 何もかもぶちまけてやりたい。だが、スメラギに握り締められた手首の痛みが残って“何も言うな”と言う。
「悪かったな、その目」
 父親に引き摺られていこうとするスメラギがつぶやいた。暴れるスメラギを羽交い絞めにしようとした時にスメラギの肘があたった左目は、青あざに縁取られていた。
「2、3日したら腫れもひくさ」
 氷で冷やしながら、美月は懸命の笑顔をつくった。
「うん……」
 父親の背中について、スメラギは廊下の先に消えていった。その姿が、2年前、父親の背中に隠れて美月家を訪れた時の幼いスメラギと重なった。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

綿帽子と丸メガネ 3-1

 むかえにきた母親は、美月の左目の痣をみて、ひっくり返りそうになった。だが、何があったのかとか誰にやられたんだとか、余計なことは一切聞かず、家に連れて帰えるなり湿布を施してくれた。父親は美月の顔をみて「派手にやったな」と言って苦笑いを浮かべるだけだった。
「父さん、これ」
 夕食のあと、父の書斎を訪れ、美月は紫水晶のレンズを差し出した。教室で暴れまわっているうちにスメラギが落としてしまったとおもわれるメガネを、騒動のあと、拾っておいたものだった。
 レンズは傷がついているだけだったが、メガネのフレームはたとえ形状記憶合金だったとしても完璧な元の姿に戻るのは難しいだろうとおもわれるほどの歪みようだった。
「少し磨かないとダメだね、これは」
 父はフレームから外したレンズを磨き始めた。
「拓也くんと何かあったのかい?」
「……」
 ためらったものの、美月は学校であったことをすっかり話してしまった。スメラギが可愛がっていたウサギを殺されて逆上して暴れまわったこと、以前からのスメラギに対する嫌がらせやいじめのこと。
 父はレンズを磨く手を動かし続けながら、しかし一切の口をはさまずに美月の話を聞いた。
「あの子はねえ、少し変わってる。外見のことじゃないよ」
 父は、スメラギの白髪は生まれつきだと続けた。
「普通の人間とは違う。言ってる意味はわかるね?」
 正座する足首にあたる水晶の数珠を、美月はぐっと押さえた。
 富士野宮神社の宮司をつとめる美月家の女は、代々、霊媒体質に生まれつく。だが美月の代には、姉を通りこし、美月に出た。その前は父の姉、美月の叔母が霊媒体質に生まれついている。小さな妹たちがその体質を受け継いでいるかどうかはまだわからない。
 美月の霊媒体質に最初に気付いたのは姉だった。物心つきはじめてからの美月の様子がどうもおかしい。変なことを口走ったり、人が変わったようになったり、感情が一定しない。姉はすぐに両親に訴えたが、子どもには情緒不安定な部分もあるからと見過ごされてしまっていた。そうしてようやく事の重大さに気付いたのは、美月が6歳になったころだった。
 霊をその身に取り込んでしまわないよう、美月のために水晶の数珠が作られた。肌身離さず数珠をつけておくようにと言われ、美月は普段は左手にしている。だが、中学にあがってバスケ部に入ったため、今は左足首につけて、靴下で隠している。
 バスケの練習の邪魔になるからというのが理由だが、人目につかないようにというのが本当のところだ。スメラギの白髪やメガネと同じだ。少しでも人と変わったところは隠して、普通の人間にみえるようにしておかなければならない。“普通”でない人間は、忌み嫌われ、迫害の憂き目をみるのだから……。
 スメラギが何を聞かれても黙っていた理由がわかった気がした。何を言っても信じてもらえないと、スメラギは知っているのだ。ウサギを殺したのは、一見真面目そうにみえるいじめグループだと言ったところで、銀髪に染めているような(スメラギの白髪は生まれつきであるが、知らなければ“染めている”という誤解される)不良がウソを言っているとしか思われないと、見透かしているのだ。
 昼間、スメラギの白髪頭をみて眉をしかめた親たちの顔が浮かんだ。スメラギの何を知っているというわけでもないのに、すでに彼らは、スメラギを問題児として見ていた。校長も担任もだった。騒ぎを引き起こしたのはスメラギだと決め付けていた。話を聞くふりをして、その口ぶりには、スメラギを悪者にして、さっさと騒ぎを収拾してしまいたいという大人の狡さが見え隠れしていた。それがわかっているスメラギは、黙ることで、無言の抵抗を貫いたのだ。
 だが、学級委員の美月が事情を説明すれば、校長も担任も、スメラギのほうがいじめられていたと信じたかもしれない。少なくとも、何かを勘付いていたような角田は、美月が何か言えば、その言葉を信じてくれただろう。それなのに、スメラギはなぜ、美月にもだんまりを強要したのだろうか……。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

綿帽子と丸メガネ 3-2

「このメガネはね、あの子の生命線なんだよ」
 表面の細かい傷を磨き取ったあと、父は柔らかい布を持ち出して最後の仕上げに取りかかった。
「このメガネがないと、あの子は気が狂ってしまう。人には見えないものを、あの子は見てしまうんだ。見えすぎると、あの世とこの世の境がはっきりしないで、あの子の頭がおかしくなる。だから、このメガネをかけてこの世のものだけが見えるようにしているんだよ」
「見えるのは…幽霊?」
「人はそう言う。でも、彼らに見えているものが何かはわからない。何しろ、こっちには何もみえないからね」
 夕暮れの公園で、美月の目にはひとりでに揺れるとしか見えなかったブランコには誰かが乗っていた。校庭の隅の飼育小屋で、スメラギは誰かにむかって笑いかけていた。どちらの場合も、スメラギは笑っていた。
 美月の体にとり憑くもの、得体の知れないものにむかって、スメラギは笑顔をむけていた。美月の周囲の大人がその存在を恐れ、美月自身も、その正体に興味を抱きつつも恐れていたものにむかって、スメラギは笑顔をみせていた。
 そう悪いものでもないらしい ― くるぶしを締めつける数珠の存在感が少し軽くなった気がした。
「…閻魔王も見えるのかな?」
「あの子がそう言った?」
 美月はこくりとうなづいた。
 「じゃあ、見えるんだろう」
 子ども騙しのお話なんかではなかった、閻魔王は存在するのだ。急に背筋がピンとのびた。
 昼間、スメラギを悪者に仕立てようとあることないことウソをつきまくっていた連中は舌を抜かれるのか ― そうおもった瞬間、美月はあっと声をあげそうになった。
 スメラギに、握りつぶされそうなくらいに手首を掴まれていなければ、美月が同じことをしていた。自分ではウソと意識していなかった(意識しないようにしていた、というのが正しい)が、スメラギが日頃どれだけ、いじめられ、生まれつきの白髪をからかわれていたか、少し大げさに話してやろう、何だったら、話を作ってもいい。頭に血がのぼっていた美月はそう考えていた。
 スメラギを庇うにしても何にしても、作り話をすれば、それはウソをついたということになる。スメラギが目で圧していなければ、美月もまた、いじめグループの連中と同じ、ウソつきになりさがっていた。
 守ってくれたってわけだ ― 二度とウソはつくまい、美月は幼心に固く誓った。



 翌日、美月は、父親に直してもらったメガネをそっとスメラギの机のなかにしのばせた。

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ジャンル:小説・文学

綿帽子と丸メガネ 最終話

 目の腫れがようやくひいたので、美月はバスケ部の練習に復帰した。少し気になる痣は、母親のファンデーションを借りて、塗り隠した。
 スメラギの事件は学校中に知れわたっていて、練習に出れば周囲の雑音がうるさいだろうとわかっていたが、美月はあえて部活に参加した。
 おもったとおり、先輩たちが口々に美月に話しかけてきた。銀髪のヤツとケンカしたんだって? 殴られたんだろ、乱暴なヤツだよな、生意気な一年だ……。スメラギに何も言うなと無言で約束させられた以上、美月の口から事情を説明するようなことは何も言えない。そのかわり、普段と変わらない姿をみせることで、たいした怪我ではないと無言ながら強く主張し、一人歩きしているスメラギに関する噂を否定してみせるつもりでいた。

 その日の放課後、美月は体育館裏でのびているスメラギを発見した。
 地面の大の字になって寝ころび、シャツのボタンがはじけとんではだけた胸には青あざがいくつも浮かんでいる。シャツには自分の血だか相手の血だかわかったものではない血の飛沫が点々とついていた。
「派手にやったね」
「返り討ちにしてやった」
 スメラギの傷めつけられようからだと、相手はその3倍の傷を負っているだろう。
 美月は、スメラギのかたわらに落ちているメガネを拾って手に取った。フレームは四方八方に折れ曲がり、レンズは抜け落ちてしまっている。幸い、レンズは傷がついただけで、割れてはいなかった。
「父さんに頼んで直してもらうから、当分はこれで。僕があつらえたメガネなんだけど」
 美月はカバンの中から新しいメガネを取り出した。事件の後、父親に磨き方を習って作ったレンズをはめこんだものだった。
 寝ころんだままの姿勢で新しいメガネをかけ、スメラギは具合を確かめるかのように、しばらく瞬きを繰り返していた。
「なあ、バスケ部に入らないか?」
 入部を誘う言葉がふいに口をついて出た。スメラギはいつもひとりでいる。だから、その心の内が誰にも理解されずに、外見の異様さだけで誤解されたり妙な噂がたつ。部活動でもすれば、仲間ができる。苦楽を共にしていくうちに、複雑なスメラギという人間を理解してもらえるようになるかもしれない。本当は、見捨てられたウサギの面倒をみるような優しいところのある人間なんだ。学校のみんなにもっとよくスメラギを知ってもらえたらと、美月は熱くなった。
「うん、悪かぁない」
 入部の誘いが聞こえていなかったはずはない。しかし返事はなく、スメラギはメガネをかけたり外したりする行為を落ち着きなく繰り返すばかりだった。
「お前、バスケ部なのか」
 新しいメガネがようやく顔になじんできたようで、スメラギはメガネをいじっていた両手を再び地面に大の字に広げた。
「ああ」
「背、でけぇもんな」
「うん」
 背が高いのはお互いさまだと、美月は笑った。
「バスケかー」
 反動をつけて起き上がったスメラギは、何かをつかみとろうとするかのように大きく両手を空にむかって掲げた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

綿帽子と丸メガネ あとがき

「心霊探偵スメラギ」の主人公、スメラギが幼い日々をどう過ごしていたのか。

その様子を、おさななじみ、美月龍之介の視点から描いてみようとおもい、筆をとったのが本作品です。

命を粗末にするなという私自身の主張もまぜこみました。

少々グロい表現もありますが、ご容赦ください。そういうものから目を背けてはいけない場合もあるとおもいます。

今作ではどうしても描かなければならない場面でした。

読んでいただきまして、ありがとうございました。

テーマ:オリジナル小説
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