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あじろ けい

Author:あじろ けい

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ご挨拶

あじろ圭と申します。

小説以外にいろいろな物、書いています。

まずは別名義にて公開していた作品をこちらへ移していきます。

そちらでお世話になった方も、こちらでよろしくお願いします。
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テーマ:更新報告・お知らせ
ジャンル:小説・文学

渡せなかった手紙 あらすじ

霊の心残りを解消し、あの世へ送り出している皇(スメラギ)拓也。ある日、亡くなったばかりの老人から一通の手紙を渡してほしいと頼まれる。手紙を渡すだけの簡単な依頼のはずだったが、スメラギの優しさが事態を思わぬ方向へとむかわせてしまう。




テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

渡せなかった手紙 1-1

 外はうだるような暑さ、部屋の中でじっとしているだけでも玉の汗が吹きだしてくるというのに、スメラギ探偵事務所では、この夏、一日もクーラーをつけたことがない。
 事務所にクーラーがないわけではない。古いビルとはいえ、以前のテナントが残していった立派なクーラーがあるのだが、スメラギ探偵事務所では使う必要がないのである。
 窓をぴたりと閉めた事務所内で、ひとりきりの事務員、山口京子は、慣れたものか、額に汗もにじませず、黙々と机にむかっている。スメラギ探偵事務所所長にして唯一の探偵、皇(すめらぎ)拓也は、客用の革のソファーに体を投げ出し、昼寝をきめこんでいる。リズミカルな寝息が白い煙となって舞い上がり、天井めがけてのぼりつめては途中でかき消えていく。窓の外は陽炎がゆらめいているというのに、スメラギ事務所内は暖房でもいれたいほどの冷気がくぐもっていた。
 午後2時の時報を告げ、ラジオはニュースに切りかわった。連日の暑さと、昨日から始まった甲子園のこれまでの結果と現在行われている試合の途中経過、戦前から親しまれていた映画館が惜しまれつつこの夏で閉館するという短いニュースを伝え、ラジオは再び甲子園の実況に切りかわった。
「おい、ハリネズミ、仕事だ」
 と聞こえた声はラジオからにしては近すぎた。
 いつのまに入ってきたのか、男がソファーに寝転がるスメラギを見下ろしていた。この暑いのに、黒のスーツに黒いタイをきっちり締め、汗ひとつかいていない。
「だれがハリネズミだよっ!」
 震えながら起き上がったスメラギの頭部は、なるほど客の男の言うとおり、ハリネズミにちがいない。
 短く刈り込まれた髪の毛先はツンと尖って、今にも針となって飛び出しそうな勢いだ。毛先から根元まで見事な白髪、毛根まで白いのは染めたのではなく地毛であることを物語っている。 
「じゃ、ハリセンボンだ」
「っるせー」
 ウソついたら針千本飲ーます、と、男は低い声で調子をつけた。
「何だ、ソレ」
「指きりげんまん、ウソついたら~、だ。知らないのか」
「知らねー」
 男は、針を一度に千本飲まされるのか、それとも一本ずつ、合計千本飲まされるのか、どっちなんだと、つぶやいていた。
「…おい、死神。ハリセンボンの話をしにきたわけじゃないだろ」
 せっかくの昼寝を邪魔されてスメラギは機嫌が悪かった。そうでなくても寝起きは悪いほうで、てっとりばやく血糖値をあげるために、毎朝、起きがけには、砂糖たっぷりのコーヒーを飲むのが習慣だ。
 指きりげんまん、約束の仕草の小指をたてて男が言った。
「依頼人だ」

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

渡せなかった手紙 1-2

 黒いスーツに黒いタイとまるで葬儀屋のような出で立ち、夕暮れ時の影のようにひょろりとした男の背後には、白髪の小柄な老人が死人のような青ざめた顔色で立っていた。
 スメラギが男を‘死神’と呼んだのは、憎まれ口ではない。
全身黒ずくめ、無表情でたたずんでいる男は、人がこの世を去るときに訪れる死神、その後ろで深々と腰を折っている老人は、ついさきほど死んだばかりの人間の魂、霊魂である。
 表向きは、浮気調査に迷いネコ探しの看板を掲げるスメラギ探偵事務所は、死人の最期の頼みをきくのが本業である。死神は時々こうしてこの世に思い残すことのある死人の魂を連れてきてはスメラギに心残りの解消を依頼する。
 この世に思いを残して死んだ人間は、時に死神の手を逃れ、幽鬼となってこの世に留まり続ける。時たま人の目に幽霊とみえるのはこの幽鬼である。人の魂をこの世からあの世へ送り届けるのが死神の仕事、この世での心残りを取り払っておとなしくあの世へ行ってもらおうと、死神はこの世に執着する霊体をスメラギのもとへと連れてくる。この世に未練のあるものの魂の引き取りほど面倒なものはない。逃げ出すものは多く、追うのは難しい。死神とて楽に仕事がしたいのだ。
 霊感の強い血筋に生まれたスメラギは、霊体が見え、言葉を交わすことができる。彼のもとには、死神に連れられたもの、死神のもとを逃げ出したもの、そうでなくてもこの世に心残りを残してさまよい続ける幽鬼たちがやってきては、あれやこれやといろいろな事を依頼していくので、スメラギ自身は、幽鬼たちの何でも屋だと認識している。実際スメラギは、恨みをはらす以外のことなら何でも引き受ける。一番多い依頼は人間関係、特に恋愛関係と家族関係が目立ち、変わったものではどうしてもどこそこのあれというラーメンが食べたいというものがあった。

 宮崎と名乗った老人の依頼、心残りは、生前渡しそびれた手紙を老人にかわって渡して欲しいというものだった。
 宮崎老人は、左前の懐から大事そうに一通の手紙を取り出してみせた。長方形の封筒の四隅はかすかに黄ばんで年月をうかがわせたが、保存状態はきわめて良く、宛名の墨もいまだ黒々としていた。
 よほど宮崎老人が大切に保管しておいたのだろう。表書きには住所と宛名が楷書で書かれてあった。点やハネははっきりと、払いの先まで筆先がのびている。のびやかな大きな字で、宛名は「宮内小夜子様」と読めた。手紙は恋文(ラブレター)で、相手は初恋の人だろうか。裏書には柏木孝雄とあった。
 「戦友から渡してくれと頼まれた手紙です。いまはの際に頼まれたのですが、どうにも渡すことができませんで。あの世に柏木にあわせる顔がなく、どうも手紙のことが気がかりでおちおち死んでもいられないと思っていましたら、こちらのお迎えの方が、それなら、と、あなた様をご紹介くださいまして」
 宮崎老人と柏木孝雄はインドシナ戦線を共に戦った。お互い学生であったこと、趣味が映画鑑賞と同じだったことから二人は意気投合した。戦線にあって映画などおおっぴらにできるはずものなく、二人は上官に隠れて互いのこれまで観た映画のあれこれを語りあい、そのうちに個人的なことまで打ち明ける仲になっていった。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

渡せなかった手紙 1-3

 もともとひんやりとした空気に包まれていた事務所だったが、霊体の宮崎老人が来たせいで、さらに冷え込みはきつくなった。
 死人といると冷える。熱いコーヒーでも飲みたいぐらいだが、事務員の山口京子は相変わらず机にかじりついたまま、動こうともしない。依頼人にお茶のひとつも出さないなど気が利かないのだが、出したところで霊体は飲み食いはできないので、無駄になるだけではあったが。
「終戦の少し前でしたか。柏木が病に倒れたのです。マラリアでした。薬もろくにない戦地でしたから、彼は覚悟を決めたんでしょう。恋人の小夜子さんあてに手紙を書き、私に渡して欲しいと頼みました。二人は結婚の約束をしていました。柏木は手紙を私に託して安心したのか、気が抜けたようにあっという間に亡くなりました」
終戦後、復員した宮崎老人はその足で手紙の住所を訪ねたが、東京はどこも焦土と化し、あったはずの家も人もなく、それきり何の手がかりもなく、宮内小夜子の行方も知れず、60年もの歳月が流れてしまった。
「小夜子さんも、柏木の最期の思いを知りたいだろうと、どうにも気になりますので。どうぞ小夜子さんに手紙を渡してさしあげてください」
 老人は何度も頭を下げ腰を折りして、死神とともに事務所を後にした。スメラギに手紙を託したからには心置きなくあの世に行くことができるだろう。地獄へ落ちるか、天上界にのぼるか、はたまた再び人の世に生を受けるかは、生前の行い次第、閻魔大王の裁き次第だ。
 スメラギは、老人が残していった手紙を手に取った。60年の歳月を経たとは思えない状態の良いものだ。柏木孝雄の思いがこもり、誠実な友人、宮崎老人によって大切に今の今まで保管されていた手紙。
「生きてはいないか……」
 手紙を大切に持ち続けていた宮崎老人もこの世の人ではない。生きていれば80過ぎ、宛名の主もまた、この世にはいない可能性のほうが高い。それならそれで、この依頼は案外簡単に片付きそうだ。
 スメラギにとっては、生きた人間より死人たち相手の探偵業のほうがずっと簡単だ。生きた人間を捜索するにはいろいろとうるさい法の縛りがあるが、死人の捜索は閻魔大王のいる閻魔庁を訪れるだけで済む。
 黒電話の受話器を取りダイヤルに手をかけたところで、スメラギは思いなおして受話器をおろし、事務所を出て行った。かと思うと、ものの1分もたたないうちに戻ってき、机の上に投げ出されてあった紫色のレンズの丸メガネをつかみとると再び事務所のドアを閉め、出て行った。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

渡せなかった手紙 2-1

 東京駅地下構内。地下の奥底へと貪欲に張り巡らされたエスカレーターを降りていった先に、閻魔庁のある地獄への入口がある。
 霊視を妨げる紫水晶のレンズの丸メガネをかけていなかったら、スメラギの目には地獄への入口からエスカレーターをさかのぼって地上まで延々と伸びる死者たちの霊が見えただろう。
 死者は生前の行いによって、地獄行き、天上界行き、輪廻転生と3つの行く末が決まっている。死後の行き先を決定するのは閻魔大王だが、その裁定に不服のあるものは最大49日まで不服申し立てができる。死者の列は何とかして地獄行きを回避しようと閻魔大王に訴え出ているものたちの行列だった。
 エスカレーターをひたすら降りていくと、一番深い場所にあるプラットホームにたどりつく。スメラギはエスカレーターを降り、くるりと身をひるがえし、エスカレーターのちょうど真下にあたる窪みに身を寄せた。エスカレーター下のスペースを利用したその場所はドアを備えつけて何かの部屋があつらえてあった。
 ドアには艶やかな赤いペンキで「関係者以外立入禁止」とあり、カードリーダー式のドアノブで固く閉じられている。ためらうことなくスメラギはドアノブに手をかけ、下におろした。ドアは少し力を入れると簡単に開き、スメラギは壁とドアの隙間に体を滑りこませた。カードリーダーなど見せかけに過ぎない。カードを持っていなければ入れないとあれば、誰も入ろうとしないし、職員ですら入ってこようとはしない。もっとも、地獄のほうでは誰でも歓迎ではあったが。
 ここが閻魔庁のある地獄への入口だった。
 ドアの向こうには一本の長い廊下があるきり、壁にかかげられた篝火が等間隔に光を投げかけるだけの仄暗い廊下の両脇にはドアが立ち並んでいる。
 それぞれのドアの上には、「康広王」「変成王」「泰山王」などと十王たちの名前が掲げられてあり、中では、十王たちが死者の生前の行いを吟味している。十王たちの部屋の前を通り過ぎ、スメラギはひたすら廊下の突き当たりの部屋を目指した。ドアの上には「閻魔王」とあった。
 泣く子も黙る閻魔王の部屋は、天井から壁から絨毯に至るまで、目が散りそうな赤一色で、机などの家具は黒で統一されている。その上で殺人が行われ、床に染み出した血が階下に染み出したような天井の中央からは、水晶の豪奢なシャンデリアが吊り下がって妖しげな光を部屋に乱れ飛ばしている。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

渡せなかった手紙 2-2

 スメラギを迎えた閻魔王こと夜摩もまた、その体を真紅のボディスーツに包んでいた。豊満な胸を強調し、ほっそりした腰をあらわにする光沢のある素材は人の皮をなめしたもの、高く鋭く尖った踵のハイヒールブーツもまた同じ素材のものだ。豪華な黄金(ブロンド)の巻き毛に覆われた顔の化粧は濃く、燃え立つ炎の瞳は紫色のアイシャドーで彩られ、ふっくらと色っぽい唇は艶やかに赤めいている。
「地獄(こっち)来んなら、連絡ぐらいせーや」
 妖艶な姿を裏切る低い声だ。夜摩は男である。豊満な胸はある女の罪人から切り取ったもので、以来おもしろがって夜摩は女装を続けている。女装した夜摩は双子の妹、夜美にそっくりだという噂だった。夜美は地獄にはめったに姿を現さないのでスメラギは事の真偽を確かめようがないが、噂が本当であれば美男美女の兄妹ということになる。
「調べてもらいたいことがあってな」
 スメラギは、宮崎老人から預かった手紙を取り出してみせた。夜摩は人差し指をのばし、真っ赤に染めた爪先で手紙を手元に引き寄せた。
「ずいぶん念のこもった手紙やな」
「60年分の思いだからな」
「年数の問題ではないわ。念のこもったものなんぞ、やっかいやで」
「その手紙を渡してくれと頼まれただけだ」
「ふん」
 夜摩は爪先で手紙を弾き飛ばした。
「彼女、宮内小夜子のデータが欲しい」
すべての生命、虫ケラから人間、生きたものも死んだものもすべて閻魔庁のデータベース、鬼籍(きせき)に記載されている。すべての過去世から現在のステータス、カルマ、それによって死後、地獄へ落ちるか、天上界へ行くか、はたまた生まれ変わるか――地獄の行き先も細かく分かれてその行き先や生まれ変わりの来世まで、何もかもが記録されている。
 この鬼籍上で宮内小夜子を探せば、うるさい役所の戸籍よりよっぽど手っ取り早く行方が知れる。死んだのならその先、地獄か天上界か、何に生まれ変わっているのかも知ることができる。
「死んでんおもうとんのか」
「少なくとも80は超えている」
「わからんぞ。女はしぶといんや。生きとるかもしれん」
 と言いながら、夜摩は、長い爪先を器用に操ってキーボードを叩いた。
 天井から壁から絨毯まで赤一色、天井からは水晶の巨大なシャンデリアが吊り下がるという地獄趣味をのぞけば、閻魔王の部屋は、地上のオフィスとさほど変わらない設備を整えている。フラットスクリーンのPCモニター、かたわらにはラップトップPC、黒塗りのデスクに無造作に置かれたスマートフォン、電話…機械らしいものといったら、ダイヤル式の黒電話しかないスメラギの事務所とは、まるで違う。
「あかん」
 夜摩が素っ頓狂な声をあげた。
「何が“あかん”なんだ」
「宮内小夜子なんておらんで」
「そんなはずないだろ?」
「せやから、“あかん”のや」
 すべての生命のすべての記録が記載されているはずの鬼籍に載っていないはずはないと言い、夜摩は、はっと口をつぐんだ。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

渡せなかった手紙 2-3

 もしかしたらと連れて行かれた先は、地獄のデータ管理室だった。
 ドアの中央には、居並ぶ鋭い歯がむき出しになった歯型が埋め込まれていた。人間のものにしては大きすぎ、奥歯から前歯まで、すべて犬歯のように尖っている。動物のものにしても、犬歯だらけの動物などいただろうか。
「鬼の歯型や」
 夜摩はそういうと、長く伸ばした爪の右手を歯型に突き入れた。
 とたんに、鋭い歯が夜摩の手首に噛みつき、その真紅のボディスーツと同じ色の血が流れ、歯の隙間から滴り落ちた。
「せきゅりてぃー、ゆうやっちゃ」
 誰も地獄には落ちたくないし、天上界にいきたいと思う。死後にむかう世界は、生前の行いによって決められ、生前の行いと死後の行く先は、鬼籍に記載されている。この鬼籍のデータを書き変えて、地獄行きをなしにしようという悪い輩がいるため、管理室は夜摩の血でしか開かないようになっていた。
管理室には、3メートル以上はあるだろうという天井まで届く書架が立ち並び、その間を地獄の罪人や鬼たちが行き来していた。彼らは書架から分厚い冊子を取り出しては個々の机へと運び、黙々とコンピュータにデータを入力していた。
「たかむらぁ~」
 鬼や罪人たちの間でせわしく指示を出している男に目をとめると、夜摩は甘ったるい声を出した。
「変な声出さないでくださいよ、気持ち悪っ!」
 “たかむら”と呼ばれた男は、小野篁(おのの たかむら)、地獄のデータ管理室室長である。
 “気持ち悪い”と言われたにもかかわらず、それどころか調子にのって、夜摩は猫なで声で、体をくねくねさせながら、
「検索にひっからんデータがあんねん」
スメラギをデータ管理室まで連れてきた夜摩の考えでは、宮内小夜子のデータはまだコンピュータ化されておらず、古い冊子に記録が残っているのではないかということだった。
「検索にひっかからない? そんなはずありませんよ。新しいものから作業してますから、最近のものならもうデータベースに入っているはずですけど」
 小野篁は“宮内小夜子”と入力した。すると瞬時に検索結果が画面に出、その数はスクロールして何ページにもわたった。
「さっきは何も出なかったんやで。ほんまやて」
「何か変なことしたんでしょう」
「しとらんて」
「はいはい」
「ほんまに、ちゃんとやったって」
 夜摩の必死の言い分を小野篁は取り合わない。メガネをかけて見た目はどこにでもひとりはいる優等生風、それでいてくるりとした目と丸い顔の輪郭の童顔のせいで、どこか抜けているような印象を与えている。見た目だけなら、22、3、スメラギよりも若くみえるが、実年齢は何百歳とずっと年上である。閻魔王をはじめとして、鬼や死者の霊など異形のものががうごめく地獄にあって、篁だけが生身の人間である。

「多すぎるなあ……」
 数千件にものぼるだろう検索結果に、スメラギは言葉もなかった。夜摩は柏木の手紙をコピーしまくって全員に送りつければいいと乱暴なことを言った。数打ちゃ当たる、誰かが柏木の恋人の宮内小夜子だろうということだったが、もちろんスメラギも小野篁も、夜摩の案など本気にしなかった。
「生きていればいくつの人なんです?」
「戦後60年以上はたっているから…少なくとも80は超えている、かなあ…」
「それなら、1945年ごろに19~25ぐらいで絞り込んでみましょう」
 その他にも死に場所を検索条件に追加、東京の住所だが、戦時中は地方に疎開する家もあったので、いくつか候補をたてて再び検索すると、結果は一気に3人にまでしぼりこまれた。一人はすでに死亡、地獄に落ちている。二人目は一週間後に死亡する予定、三人目は85歳で、まだ生きていた。
「地獄やて。何したんやろ。窃盗に、放火に殺人、こらまた、たいした女やな」
 夜摩は業(カルマ)の欄を見ながらケラケラと笑った。スメラギも、彼女、宮内小夜子の生前の行いに目を通したが、とても彼女が柏木の手紙を渡す相手には思えなかった。柏木ののびやかな字がまっすぐな彼の性格を表しているようで、そんな彼が愛した人が殺人を犯すような人であるとは思えなかった。だが、60年以上の月日は人を変える。彼女が宮内小夜子かもしれない。
「ついでやから寄ってくか? この女がその宮内小夜子やったら、手紙を渡してそれでこの仕事はおしまいやろ」
 死人が行く場所、しかも地獄を、生きた身でめぐるのは正直いって気分のいいものではない。地獄を脱け出した幽鬼たちの捜索を条件に、夜摩との取り決めでスメラギは何をしても地獄に落ちないことになっていたが、それなら一生遠ざかっておきたい場所なのである。
 だが、スメラギは結局、夜摩に案内を頼んだ。夜摩の言うとおり、彼女が宮内小夜子であれば、スメラギは手紙を渡さないといけないのだ。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

渡せなかった手紙 2-4

 「地獄へ寄っていくか?」
 ―たしか、閻魔王こと夜摩はそう言った。
 だが、閻魔王が死んだ人間の罪業を吟味する閻魔庁を出て、連れて行かれた場所は、東京駅の最深部に横たわるプラットホームだった。
 プラットホーム中央のエスカレーター下には、長身のスメラギが背をかがめるとすっぽり嵌りこんでしまう窪みがあり、禍々しい赤いペンキで「関係者以外立入禁止」と書かれたドアがある。カードリーダーが備え付けてあるが、飾りものに過ぎず、ドアノブをひねって扉を向こう側に押せば誰でも地獄へ行くことができる地上との連絡口だ。
 地獄へ行くものだとばかりおもっていたスメラギが着いた場所は、来たときと同じ、東京駅の地下構内プラットホームだった。
 煮え立つ大釜も、血の池も、針山もなければ、罪人を苛む獄卒の鬼たちの姿も見当たらない。阿鼻叫喚、血しぶきの舞う光景を覚悟してきたスメラギは、拍子抜けしてしまった。
「おい、ほんとにここが地獄なのか?」
「せや」
 真紅のハイヒールブーツの踵をカツカツ鳴らしながら、夜摩は先にたってホームを歩き始めた。
 ホームで電車を待つ人々が夜摩を振り返る。
 豪華な黄金(ブロンド)の巻き毛を揺らし、血の色を彷彿とさせる真っ赤なボディースーツに身を包んだ夜摩は、どうしたって人目をひく。突き出した豊満な胸に、ほっそりとした腰、長い長い脚は、スーパーモデル並みのスタイルの良さだ。
 誰が、地獄の閻魔王だなどとおもうだろう。
 その身を包む真紅のボディースーツは、人の皮を剥いで縫いあわせたもの、赤はまさに人の生血で染めた色、豊満な胸はとある女の罪人から切り取ったものである。
 誰が、そこ行く人が男だなどとおもうだろう。

 通りすがりの視線をその身にまとわりつかせ、夜摩とスメラギは、スメラギがたどってきた道をそのまま逆に、エスカレーターを何層にもわたってのぼっていき、やがて地上へと出た。
 サラリーマンやOLでごったがえす東京駅は、日常の光景だ。
 間違って地上へ戻ってきたのかと思っているスメラギの目の前で、突然、男が悲鳴をあげて倒れた。
 男の胸にはナイフが刺さり、血が噴き出している。とっさに駆け出して助けようとするスメラギを夜摩が止めた。男の胸からは、みるみる血が流れだし、あっという間に広がった血溜まりに男の死体がぽっかり浮かんだ。
 すると、死んだとばかり思われた男が何事もなかったかのように起き上がり、歩き出したではないか。
 傷口も塞がっている。だが、数メートルも歩かないうちに、再び男は悲鳴をあげて倒れた。先ほどと同じ男にまたしても刺されて倒れたのである。そして同じ光景が繰り返された。男は起き上がり、歩き始める。そして刺され、殺される。血黙りに体を横たえたかとおもうと、また起き上がり……。
 気付けば、ビルの谷間で、通りの角で、残虐な行為が繰り広げられていた。
「あの男、通り魔か何かやったんやな」
 やはり、ここは地獄だった。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

渡せなかった手紙 2-5

 地獄では自分が犯した行いと同じことが、決められた年数の間、くりかえしくりかえしその身に起こる。殺人を犯せば自らが獄卒たちに殺され(しかも自分が行ったのと同じ方法で!)、火を放って人を殺めたのであれば自らも焼き尽くされる。焼き尽くされた後にはまた元通り生身の体に戻って再び灰になるまで焼き尽くされる。しかも死ぬことなく、灰になるその瞬間まで苦痛を味わうのだ。
 それはまさに地獄だった。
 血の池も針の山も、煮えたぎる大釜もないが、まさしく地獄に違いない。
ありふれた都会の街角で、殺人、強盗、放火…日常の世界では犯罪とされる行為がいたるところで行われている。警察がかけつける様子もなく、獄卒が際限なく罪人を苛む陰惨な光景だけが延々と続いている。
 ひっきりなしにあがる悲鳴と、すえた血の臭いにスメラギは吐き気をもよおし、近くのビルの陰に駆け込んだ。
「あんた、大丈夫かいな?」
 柔らかな女の声だった。
「しっかりしいや」
 情けなくも女の肩につかまって起き上がろうとした瞬間、女はスメラギを突き飛ばし、スプリンター顔負けのスピードでビルの谷間へと消えていった。
「なっ…! 」
 尻もちついた瞬間、ジーパンのポケットに入れてあったはずの財布がないのに気付いた。シャツの胸ポケットに入れておいた手紙もなくなっている。
 さっきの女だ! やられた、スリだ!
 追いかけようと腰を浮かせた瞬間、2、3メートル先で女の悲鳴があがった。
 夜摩が女の髪を引き摺って戻ってきた。
「盗(と)ったもの、返しいや」
 夜摩は女をスメラギの目の前に、雑巾でも叩きつけるように投げ出した。
女は財布をしっかり抱えたまま
「私のもんじゃが」
 と言い張った。
 年は40ぐらいだろうか、血走った目を見開き、額にはトタン板の波のような皺がより、乾いてひび割れた唇はかすかに震えている。
 女は鬼籍データベースでその写真を確認した宮内小夜子だった。
 喉元から胸にかけて茶色の沁みのあるブラウスの胸に抱えた財布の陰に手紙の角がのぞいている。財布は彼女のものではないが、手紙は彼女、宮内小夜子宛のものだ。スメラギが自分宛の手紙を持っていると知ってとっさに抜き取っただけで、財布はついでに盗られたものかもしれない。
「なあ、財布は返してくれないか。手紙は持っててくれてかまわないから」
 と言い終わるか終わらないうちに、夜摩が財布ごと手紙を女から取り上げた。女は金きり声をあげ、手足をじたばたさせ、「わしのもんじゃ、返せ」と何度も叫びながら夜摩に飛び掛っていった。
「手紙は皇拓也という男から宮内小夜子という女あてのもんや」
「わしが、その宮内小夜子や」
「皇拓也という男を知っとるんか」
「知っとる、知っとる」
「柏木孝雄の知り合いの男やなあ」
「そやそや」
 手紙はもちろんスメラギからのものではない。スメラギは宮内小夜子を知らないし、宮内小夜子がスメラギを知っているはずもない。柏木孝雄の名前にも、夜摩の話に合わせているだけで、特に目立った反応はない。恋人だった男の名前に無反応でいられるものだろうか。
「この嘘つきがっ!」
 夜摩の怒号が飛び、女はひっくり返った。
「嘘つきがどうなるか、わかっとるやろな」
 夜摩に呼びつけられた獄卒は、泣き喚く女の口を裂き、素手で女の舌を引き抜いた。たちまち鮮血がブラウスに散り、新たな沁みを作った。

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