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あじろ けい

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【雑記】2014年の抱負

あけましておめでとうございます。

2014年がよい年になりますように。

さて、早速ですが、新年の抱負とやらをさくさくと。

一年の計は元旦にあり(うん、もう元旦じゃないんだけどさ)

ま、1月中に今後1年の計画をたてておこうかと。

というわけで、以下思いつくままに。

1.スメラギのシリーズ4を公開する

2.ホラー作品を公開する

3.詩を公開する

4.ショートショートもちょっと書いてみたい

5.恋愛ものを書く

6.今書いている三部作+番外編なのを完結させる

こんなところでしょうか。

勉強、就職活動、家や家族のことなどもいろいろやりくりしながらなので、全部は無理かもしれないけど、とりあえず目標としてかかげておこうっと。

この目標は半年後に見直します。さて、半年後、どれだけ達成できてるかな?
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テーマ:物書きのひとりごと
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 5-1

 あれだけ泣けば翌日は腫れるかと覚悟していたが、目が覚めた瞬間のまぶたのあまりの重さに裕子はさすがに落ち込んだ。幸い、土曜日で出勤しなくていいのが唯一の救いだった。
「おはよう。朝ごはんできてるわよ」
 母はすでに起きていて、朝食の後片付けをしていた。妹の典子は外出してしまった後らしい。
 昨晩は泣きつかれて遅くに帰宅し、今朝は腫れぼったい目をした裕子の顔をみても、母は何も聞かなかった。だが、そこは母親、何かあったのだと察しはついているのだろうが、何も聞かないでいる母の優しさが今の裕子にはありがたかった。
「あら、やだ」
 台所で母が素っ頓狂な声をあげた。
「どうしたの?」
「トースターの場所がまた変わってる」
「トースターがどうかしたの?」
「ここにあると邪魔なのよ。だからこっちに移したのに、また元に戻ってるの」
 対面型キッチンのシンク横のスペースには、壁のコンセントを利用するように炊飯器やジューサーが置かれている。トースターは、ダイニングへの通り道側にひとり置かれてあった。
「自分で戻し忘れたんじゃないの? ぼけてきた?」
「ぼけてきたって、失礼ね。お母さんはここには絶対置かないもの。だって、ここにトースターがあると邪魔でしょ」
 トースターのせいで、シンク脇の洗い物を置いておくスペースは狭まってしまっていた。
「焼いたらすぐにテーブルに持っていけるからって、延長コードを使ってでも、お父さんはこっちに置きたがったけどね。男の人は家事の動きってものがわからないから、自分の使いたいものをその時都合のいい場所に置いて、それきりなのよ」
「ふうん」
 父と母がトースターの置き場所でもめていたとは、裕子の知らない夫婦の事柄だった。
「お父さんに朝の挨拶はしたの?」
「あ、まだ」
「食べる前にしてらっしゃい」
「はーい」

 庭に面した六畳の和室は、母親が趣味の書道をたしなむ場所として使用していたが、今はすっかり片付けられ、亡くなった父の四十九日の間の仮住まいとなっている。父の遺影の飾られた中陰壇には、庭の紫陽花と父の好きだったリンゴが供えられていた。
 線香のすがすがしい香りに目の覚める思いで、鐘を鳴らすと、裕子は父にむかって手を合わせた。
 遺影の父は何か言いたげだった。遺影は、去年母と旅行に行ったときの写真で、背景に紅葉の美しい山が写っている。医者を引退したらお母さんと旅行三昧だと話していた父の老後の計画を、裕子は思い出していた。
「花嫁姿、お父さんにみてもらいたかったなあ……」
 ふと口に出してしまうと、枯れたとばかり思っていた涙がじわりとにじみで、頬を伝って畳の上に染みをつくった。
「ごめんね、お父さん。私、隆也さんのプロポーズ、断っちゃった。本当は結婚したかった。『はい』って返事したかったけど、隆也さんのお母様が反対してて…。理由がバカバカしいの。お母さんが球里熱の発生したN県出身だからって、まるでお母さんが球里熱の原因みたいな言い方で、めちゃくちゃなの。医者の家の人間なのに、非科学的でまいっちゃった……。あんな人のいる家にはお嫁にいけないよね……」
 遺影の父は、口をへの字に曲げて何も言わない。これでも本人は笑っているつもりで、まぶしげに細めた目の端は下がっていた。物言わぬ父に、裕子はすべてをぶちまけてしまいたくなった。
「でもね、本当は私もあの人と同じことを思ってるの。お母さんの出身地のことで隆也さんの将来に傷がつくんじゃないかって。球里熱のウイルスがお母さんから私に移されているんじゃないかって。バカバカしいってわかっていても、そう思ってしまうの。そんな自分がイヤでしょうがないの」
 その時だった。
 閉めたはずの障子が静かに開いたかとおもうと、見知らぬ若い男が立っていた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 5-2

 上下ジャージ姿の若者は、川上達矢と名乗った。生前父に世話になったとかで、線香のひとつでもあげさせてもらおうと立ち寄ったもので、まさか裕子がいるとはおもわず、突然障子を開けてしまってすいませんでしたと謝った。
川上は、線香をあげにきたついでに、ちゃっかり裕子と遅い朝食をともにしていた。線香をあげている最中に川上の腹が鳴ったので、母が何か食べていきますかと誘ったら、川上は満面の笑みでいたのだった。
 ひとり言を聞かれたかしら、そう思い、自分もトーストをかじりながら裕子は川上をそれとなくさぐったが、川上の裕子に対する態度に特に変わったところはなかった。
「うわっ苦っ」
「あら、マーマレードはちょっと苦味があるくらいがおいしいのよ」
「俺はこっちがいいです」
 川上はイチゴジャムをたっぷりとトーストに乗せ、大きな一口でかぶりついた。
「ん、うまいっす」
「そう? お父さんもマーマレードは苦手で、イチゴジャム一辺倒だったわ」
 イチゴジャムもマーマレードも、母の手作りだ。父はマーマレードには決して手をつけず、消費するのはもっぱら母と裕子、妹の典子だけだった。
「N町にいたとき、お父さん、何を食べていたのかしら」
 母は川上に、父のF県滞在時の様子を聞いていた。
 天候不順のため、救援物資などが空輸できず、かわりに陸路で薬を運んだドラックの運転手がいるとは、裕子も知っていた。テレビや新聞でも報道され、一部ワイドショーでは顔も紹介されていた。それが川上達矢だった。金髪で、腕には花をあしらったかのようなカラフルなタトゥーがほどこされている。見た目はとっつきにくそうな川上だったが、母の用意した朝食にかぶりつく姿は、小学生の男の子が母親に甘やかされているようにもみえた。
 父の日記に登場する“タッチャン”こと川上達矢に、母は自分が知らない父の最後の様子をたずねていた。
「コンビニのパンとか、インスタントとかかな。センセー、毎日患者さんに付きっ切りで、ろくに食事なんかしてなかったです」
「いやね、だから男の人はひとりにできないのよ。ついていけばよかったかしら」
「お母さんが一緒にいったって、何の役にもたたなかったわよ」
 と裕子は吐き捨てた。看護師でもない母がついていったって病人の面倒がみれるわけでもないし、父の足手まといになっただけだとおもったが、さすがにそうは言わずにおいた。
「そんなことないっスよ。奥さんには奥さんにできたことがあったとおもうっス」
 それまで無邪気な顔でトーストをほおばっていた川上が、神妙な顔つきで言った。
「槙原のセンセーみたいに直接病人の世話ができたわけじゃねえ。けど、俺、あそこにいって、すっげえ感謝された。俺はただのトラック運転手で、トラックの運転しかできねえけど、トラック運転して、薬運んだってだけで、人の役にたてたっス」
 球里熱の発生地域であるF県へ足を踏み入れるのを、誰もが二の足を踏んだ。父は自らそこへ赴き、川上も飛び込んでいった。
 父や川上を英雄視する一方で世間は非情だ。父は英雄のまま死んでいったが、感染しなかった川上だというのに、感染地域にいたというだけで彼は今、ウイルスをF県外に撒き散らしている人間のように扱われている。その証拠に、テレビのインタビューはすべて電話で行われていた。直接彼と対面しようという人間はいないのである。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 5-3

「何でN町なんかに行ったの?」
「なんでって、トラックの運転ができるからッス。荷物を運ぶ場所があったらどこへでもいくッス」
 川上は、むしろ自分が裕子に、何でトラック運転手として当たり前の行動をとった理由を知りたいのかと聞きたそうな表情を浮かべていた。
 普段なら、裕子も、トラックの運転手をしている人間に「何で物を運ぶのだ?」というバカげた質問はしない。だが、川上がむかった先は、怖ろしい伝染病の発生している地域で、いくら仕事があるとはいえ、普通は行きたがらない場所である。
 医者の父が感染地域へ赴いたのは職業柄そうせざるを得なかったのだが、行かなくてもいい場所に、なぜ川上はわざわざむかったというのか。
「怖いとか思わなかったの?」
「思ったッスよ。でも、テレビで、『若いモンに行かせられない』、『自分は子どもが成人しているくらいの年だから死んでも誰が困るわけじゃない』、ってセンセーが言って医療チームに志願したって聞いてさ。それじゃ、俺も行くかって。俺、ヨメさんもガキもいねーし、センセーとおんなじで、別に俺が死んで困る人間はいねえから。どうせ死ぬなら、人さまの役にたって死にたいって思ったんスよね」
 川上は肩をすくめて笑った。笑うと右頬にえくぼが出来る。二十歳は超えているのだろうが、笑顔は子どものように幼かった。
 川上が不足していた薬などを運びこんだおかげで死なないですんだ人たちがいるとは、裕子も知っている。自分の命を顧みない立派な行動だとおもう一方で、あまりにも軽はずみすぎやしないかと、裕子は腹がたった。と同時に、川上に軽はずみな行動をさせたという父の言動にも腹がたった。
「死んで誰も困らないって、どうして言えるのよ。親とか、友だちとか、悲しむ人がいるって考えなかったの? お父さんもお父さんよ。確かに私も典子も、自分の力で生きていけるけど、お母さんはどうなの? お母さんが悲しむって思わなかったのかしら! お母さんと旅行三昧の老後をおくるんだって言ってたくせに、かっこつけて医療チームに志願したりして、あげくに死んじゃって。ひとり残されるお母さんのことは何も考えないで、ほんと、お父さん、バカっ! お父さんの言うことを間に受けるなんて、どうかしてるわよ!」
 母にたしなめられなかったら、裕子は拭いきれない不満を、いつまででも川上にぶつけ続けていただろう。だが、当の川上はトースト片手に「俺、友だち、いないっスから」と、裕子の“口撃”を相手にしていなかった。
「今日は、お仕事は?」
 その場のまずい空気をとりつくろうと、母がすかさず話題を変えた。
「休みッス。もうずーっと休み」
 川上はケタケタと笑った。
「会社に黙って行ったんで、クビになったッス」
 というのは建前で、本当は感染地帯にいた川上が職場に戻ってくるのが怖くてクビにしたんだろう ― そう推測するだけで、裕子の気分は悪くなった。
「これからどうなさるの?」
「仕事さがします」
「運転手のお仕事?」
「それしかできないッス」
「そんな簡単に仕事なんかみつかんないわよっ!」
 それまで黙って、母と川上のやりとりを聞いていた裕子が突然叫んだ。クビになったのと同じ理由で川上を迎えようという会社などありはしない。楽観的な川上にも、そして世間知らずで能天気な母にも腹がたった。
「そうッスかね」
 裕子の失礼な物の言い方にも、川上は笑顔でいた。
 なんでそんなに明るい未来を信じられるのか ― バカじゃないの。
 腹立たしいのと同時に、裕子は自分もバカになれたらいいのにと、今度は自分に腹がたった。
 球里熱のことも、球里熱をとりまくすべての事柄も何もかも外において、水島と一緒になろうと行動できたなら……
「そうよ!」
 こみ上げてくる涙を見られまいと、裕子は席をたち、自分の部屋へとかけこんだ。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 6-1

 ―「娘と直接話しがしたい」
 槙原はスメラギに頭を下げた。灰色の頭頂部をみつめながら、スメラギは黙ったままだった。
 梅雨の時期だというのに、じんわりと湿っているはずのスメラギ探偵事務所にはひんやりと乾いた空気が漂っている。槙原のせいだ。霊が存在していると空気が凍りつく。スメラギは慣れたものだが、袴姿の美月は両手に息を吹きかけて暖をとるほど震えている。
「花嫁姿はもういい。それより、娘の笑顔をみて成仏したい」
 槙原は自分が見てきたことの一部始終をスメラギに語った。
 裕子が水島のプロポーズを断ったこと、その理由、水島の母親とのこと…。
「このままでは、娘は死んだも同然だ。あの子は昔からそうなんだ。自分の気持ちは抑えて、人にあわせてばかりだ。
水島くんの母親に言い返したいこともあったろうに、水島くんに言ってしまいたいこともあっただろうに、言えずにいて……。そんな娘をおいて、とてもじゃないが、あの世には逝けないよ……」
 自分がまだこの世にとどまり、家族のそばにいるのだと気づいてもらおうと、トースターを動かしたりしたことを、槙原はスメラギに打ち明けた。妻の好江は何かを感じているようだが、槙原の霊の存在を確信するまでには至っていない。
「俺が、あんたはまだ家族のそばにいるって言っても、美月にのって娘と話をしたとしても、娘さんたちは信じてくれないぜ」
 ようやく開いたスメラギの口から、白い息がたなびいた。
「人は目にみえないものを信じない。見たいものだけを見、聞きたいことだけに耳を傾ける。霊の存在を信じない人間には、何を言おうと、その心には何も届かない。それでも、おっさん、話をするかい、話をしたいかい?」
 スメラギの鋭い目が槙原に選択を迫った。槙原もまた、この世で唯一言葉を交わすことのできる人間、スメラギを射るように見据えた。
 槙原よりずっと若いスメラギだが、まるで人生の荒波を潜り抜けてきた老人のようにみえるときがある。人外のものを見てしまうというのは並大抵の精神力では耐えられようもなく、生まれついてから霊をみてきたという彼は、本人の意思に関わらず、強い精神の持ち主にならざるを得なかったのかもしれない。霊と人との間(はざま)で生きるスメラギという男は、人間の目には見えないものを見てしまうせいか、人の本質そのものを見抜いてしまっているようなところがある。
 死んで自分自身が霊となったからこそ、槙原も霊の存在を信じ、スメラギの霊視能力を信じることができるが、生きていたときにスメラギに出会っていたとして、はたして彼の言う能力を信じただろうか。
 裕子は、父の霊がそばにいるのだと信じてくれるだろうか……。
「…今のままでは…」
 槙原は不安ながらも、裕子と直接話してみようと決心した。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 6-2

 「また……」
 好江は小さく呟いて、玄関先で脱ぎ捨てられている夫の靴を靴箱に閉まった。
 夫が亡くなって以来、1か月が経とうとしているが、好江には夫が亡くなったという実感がわかない。夫が生きていた頃のように、便座があがったままのときがあり、今朝も夫がそうしていたように靴が玄関先で脱ぎ捨てられていた。帰宅した夫はいつも靴は脱ぎっぱなしで、好江が揃えていたのだ。そんなはずはないのだが、夫の気配をすぐそばに感じるため、つい夫の箸や茶碗をそろえてしまって、裕子にたしなめられてしまう。
 夫が生きているかのような不思議な出来事があまりに頻繁に起きるため、はじめは訝しくおもっていた好江だが、今では夫が生きていた頃のように、便座をさげ、靴をそろえるのを楽しみにしていた。
 今日はトイレの便座をさげたかしらとおもってトイレへむかうと、玄関先で人の声がした。
「ただいまー」
 高い声の主は、待ちわびていた次女の典子だった。
 会わせたい人がいるから、ママもお姉ちゃんも今週の土曜日には家にいてといわれ、裕子とふたりで、朝はやく出かけた典子の戻りを待っていたのだった。
「いらっしゃ…い」
 玄関先で好江が目にしたのは、典子を中央に、銀髪の目つきの鋭い若者と、和服姿の青年だった。
「こんにちは」
 和服姿の青年は人懐っこい笑顔で会釈したが、銀髪の若者は黙って頭を軽く下げただけだった。
 てっきり恋人でも連れてくるのかとおもったら、どうやら典子の友人らしい。一人は感じのいい青年だが、もうひとりは愛想のない若者だ。
「ああ、うん、いるね」
 和服姿の青年はそう言って、典子に何か耳打ちした。
「やっぱりねー」
 靴を脱ぐのもそこそこに、典子は和服姿の青年を好江に紹介した。
「ママ、この人、美月さんていうの。霊が見えるっていうから、パパがいるかどうかみてもらおうとおもって連れてきたー。そしたら、今ね、パパがママの横で挨拶してるって」
「美月と付き合っているんじゃねえだろうなって心配してるぜ」
 銀髪の男、スメラギという若者は無愛想に言った。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 6-3

 案内されないうちに、スメラギと美月のふたりは槙原家のリビングへむかい、美月はリビングを占領しているダークブラウンのマッサージチェアを指し示した。
「お父さんのお気に入りの場所だったでしょう、ここ。家族の誰も座らせないで、誰も座ろうとしなかったし。
 このマッサージチェアは二代目でしょう。最初のものは藤色で布張り、槙原さんが座っているときに急に二つに折れて、お父さん、サンドイッチみたいに挟まれたんだ」
 当時を思い出したのか、好江が妙な笑い声をたて、次には目に涙を浮かべてこみあげてくるものを抑えるように口元を抑えていた。
 マッサージチェア云々の話は、スメラギが槙原から聞いたことを美月に伝えたのである。霊が見えないはずの美月が見えるふりをするのには理由があった。
 槙原から、妹の典子のほうが占いなどに興味があると聞いたスメラギは、まず典子に近づくことにした。といっても実際に典子に声をかけたのは美月であった。
 街中を歩く典子に、父親の霊がみえるといって美月は典子に近づく。父親のあれこれについて美月が語って聞かせる内容は、スメラギが槙原から聞いた又聞きだ。典子はもちろん気味悪がるだろうが、あやしげなナンパでないと証明するのが美月のいかにも人のいい笑顔だった。ただの笑顔ではない。穏やかながらも、知らず知らずのうちに美月の思い通りに動かされてしまう不思議な力のこもった笑顔だ。
 そして実際、典子は美月の話を素直に信じた。そしてこれもスメラギの計画通り、家に来て父親の霊がいるかどうか見てもらえないかと言わせることに成功した。
「ママがね、パパの霊がいるって信じてるみたいだから」
 便座があがっていたり、物が移動していたりする家のなかで起きる不思議な出来事を典子は美月に語った。それはもちろん、槙原が本当に便座をあげたり、物を動かしていたからで、すべて美月を槙原家に呼び入れるために槙原とスメラギとが練った計画だった。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 6-4

 「あんた、信じてねぇだろ」
 スメラギは裕子に近寄っていった。リビングでひとしきり父の話をしている母と典子、“霊がみえる”美月という青年を遠目に、裕子はひとりダイニングテーブルの椅子に腰掛けていた。
「霊なんて、信じるわけないでしょ。マッサージチェアの話なんて、どうせ典子から聞いたんだろうし。父の霊がみえるって言ってって、典子に頼まれたの?」
 父が亡くなった直後より、1か月経ったここ数週間ほどで、母の様子がおかしくなってきた。父に話しかけているようなひとり言が増え、生きていたときのように父の靴をそろえ、膳を整えてしまう。注意すると我にかえるのだが、母は父が死んだと知らないようにふるまっているようにみえて仕方がない。
「お父さんがいなくなったショックでおかしくなったのかしら」
 喪失感から人は心のバランスを崩すと聞いたことがある。裕子は、大学で心理学を専攻していた妹に相談した。
「パパが死んだってこと、ママは受け入れられないみたいね。幽霊でも何でもいいからパパに会いたいって気持ちがママに幻覚をみせているのかも。幽霊の正体って、自分の心なのよ」
 妹の典子とそんな話をしたのがつい2週間前だった。考えがあるといった典子に任せておいたら、霊がみえるという男を家に連れ込み、母だけがみている幻の父に付き合っている。
「典子も、あなたたちもどういうつもりなの。母は父の死を受け入れられずにいて幻覚か何かを見ているんでしょうけど、それを父の霊が本当にいるみたいな話をして。時間が経てば、母も父の死を受け入れるはずなんだから、変な話をして母を混乱させないで」
 スメラギは裕子のむかいの椅子を引いたが、座ろうとはせず、立ったままでいた。
「確かに、あっちは芝居だけどな。でも、おやじさんは本当にここにいるぜ」
 誰も座っていないはずの椅子を、スメラギは顎で指し示した。
 裕子の目の前には、銀髪の若者が立っているだけだ。引かれたままになった椅子には誰も座っていない。椅子の背もたれ越しには、父の話をしている母と典子、美月という青年がみえるだけだった。
「そういう話なら、やめてよね」
 気味悪そうに眉をしかめ、寒気を感じたのか、裕子は肩を震わせた。
「あんた、変な人だなあ。おふくろさんがN県出身だから、もしかしたら球里熱のウイルスを持ってるかもしれないとか、自分にも受け継がれているのかもしれないなんてバカげた話は信じるのに、霊の存在は信じられないってか」
 裕子の心臓が一気に血を放出し始めた。喉元まで感じる鼓動を抑え、裕子はやっとのことで言葉を絞りだした。
「なん…の話?」
「とぼけんなよ。彼氏のおふくろにいろいろ言われたんだろ? あんたのおふくろさんが、かつて球里熱の感染地域だった場所の出身だったからって、あんたも、あんたの彼氏も球里熱にかかるなんてわけねえし。あんた、知ってるはずだ。ウイルスは遺伝なんかしやしねーし、第一半世紀以上も長生きするウイルスなんてありえねえだろ。めちゃくちゃな理論なのに、あんた、彼氏のおふくろの言うとおりにして彼氏と別れやがって。それって、あんたも、そのおふくろの話を信じたってこったろ?」
 水島の母とのいきさつは、水島はもちろん、家族の誰にも話をしていない。それなのに、なぜ見ず知らずの男が知っているのだろうか。裕子がグチめいた話をしたのは、仏前の父にむかってだ。
「人間、目にみえないものは信じない。見たいものだけを見る。あんたが何を見たがろうと、何から目を背けようと、俺の知ったこっちゃねえ。なあ、聞けよ」
 反論したげな裕子をさえぎり、スメラギは続けた。
「信じようと信じまいと、俺にはあんたのおやじさんが見える。あんたのことはおやじさんから全部聞いた。……おやじさん、あんたのこと心配してるぜ。このままだと、あんたのほうが死んだも同然だってな」
「……」
「彼氏と、あれきり話してないんだろ? ケータイの番号も変えて、家の電話にも出ない。一方的すぎないか?」
 水島のプロポーズを断った翌日には、裕子はケータイの番号を変えてしまった。家の電話や会社にまで電話がかかってくるが、裕子は出ようとはしないでいた。
「あんたの気持ちだけを彼氏に押し付けてるだろ。ちゃんと、彼氏と話をしたほうがいいぜ」
「…話って、お母さんのこと、話せるわけないじゃない……」
「おふくろさんのことは言い訳だろ? 本当は、自分が球里熱の原因のように言われるのが怖いんだ」
 図星だった。心の底で気付いていながら、気付かないふりをしていた。バカバカしい理屈だとわかっていながら、その理屈を振りかざす人間に立ち向かえない弱さ、それは裕子が見たくないものだった。見たくないものから目をそらしてしまえば見えない。見えないものは存在しない。存在しないものを恐れる必要はない……。
「おやじと話したいか?」
 裕子は銀髪の男をみつめた。近くでみると根元まで見事な白髪で、染めているわけではないらしい。裕子よりも若いはずだが、もう白髪が生えてきているのだろうか。挨拶もろくにできない無愛想な男で、三白眼の目を鋭いと感じたが、今はその瞳が底のない澄み切ったものに見える。
「やつは霊媒体質だ。直接話をしたければ、おやじさんの魂をやつにのっけて―」
 スメラギの視線を感じたように、美月が裕子たちを振り返り、にっこりと笑った。
「あんなイケメンじゃあ、お父さんと話してるって実感わかないかもしれない……」

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 エピローグ

 6月のとある週末、梅雨の晴れ間の青空のもと、水島隆也と槙原裕子は都内式場で結婚式を挙げた。
 披露宴では、槙原夫人の横に紋付袴姿の美月が、“父親”代役として座っている。見かけは美月だが、中身はまさしく本物の父親、槙原慎太郎だった。
 宴は滞りなく進み、花嫁の裕子が父にあてたメッセージを読み上げ、花束をおくると、美月の姿を借りた父、槙原はたまらず涙を流していた。
 表向きには、“父親のように世話になった人”という美月が感動している光景に、招待客もおもわず目頭をおさえていた。
「全員泣いているじゃないか。葬式かと思ったぞ」
 式場の片隅で、スメラギとともに披露宴を見守る死神がぼやいた。披露宴が終わったら槙原を連れていくという取り決めだった。
「なにが悲しいのだ」
「悲しくなくても泣くんだ、人間は。血も涙もねえ死神にはわかんねーだろーが」
 死神が人の目にみえない存在でよかった、スメラギは今日ほど心からそう思ったことはなかった。男性招待客たちと似たような黒いスーツ姿だが、死神は常に死臭をまとい、華やかさに欠ける。
「お前は自分の結婚式でも泣きそうだな」
「バーカ、泣かねえよ。つーか、結婚しねえし」
「なんだ、まだあの女のことを引き摺っているのか」
 死神の視線が美月の姿をとらえていた。
「それ以上なんか言ったらブッ殺すぞ」
 いつになく鋭く光ったスメラギの視線が死神を突き刺していた。
「死神を殺れるもんなら、殺ってみな」
「てめー」
 スメラギの渾身の右ブローを軽く受け止め
「夜摩から言づけだ。1千万今日中に振り込んでおけだと」
「1千万?」
 スメラギの裏返った声に、近くにいた招待客が数人振り返った。
「何の話だよ、1千万て」
「49日過ぎたら1千万という話だっただろうが」
 もともとの槙原の依頼は娘の花嫁姿をみることだった。49日以内に依頼を解決できればいいが、49日すぎたら1千万支払えというのが、閻魔王こと夜摩との約束になっていた。人ひとりを49日以内で結婚させることなんてできるかとふてくされたものの、どうにか49日以内に槙原の娘の裕子と恋人、水島は結婚の約束をするに至った。娘が結婚すると知った槙原はその事実だけに満足して、おとなしくその身を死神に引き渡された。ちょうど1年前の6月のことである。
「ちゃんと49日以内におめーにおっさんを引き渡しただろーが」
「今日の結婚式出席をもって、依頼完了とみなすそうだ」
「は?」
 槙原を結婚式に出席させてやったらとスメラギに言ってきたのは夜摩だった。めずらしく人情味があるじゃないかとおもったら、下心があったのだ。
「んっとに血も涙もねぇー」

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

花嫁の父 あとがき

幽霊よりも妖怪よりも何よりも恐ろしいのは人間だと私は思っています。

人の悪意ほど恐ろしいものはない。それは時として美しい外見をともなうことがあるけれど、そういうものほど私は恐ろしくて仕方ありません。

霊や妖怪はそういった目には見えぬ人の悪意を具現化したものかもしれない。

そういう人の醜ささえも、それが人間であると受け入れられるようになれば悟りを開いた境地なのでしょう。私には到底たどりつけそうもない高みであります。

今作は、そんな悪意を書いてみたくて筆をとった作品です。

異形のものよりも恐ろしいものとは何なのか。スメラギシリーズでは少し変わった形をとったエピソードとなりました。

読んでいただきまして、ありがとうございました。

テーマ:オリジナル小説
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