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あじろ けい

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ずれる 最終話

 その週末、新しく出来た巨大ショッピングモール内のカフェで昼食を兼ねた遅い朝食を済ませ、祥子は健一と買い物を楽しんでいた。田舎の郊外の広大な敷地を贅沢に利用したモールでは、日用品から贈り物までありとあゆるものがそろっていて、すべての買い物が一か所で済んでしまう。カフェやレストラン、映画館も併設されているので、丸一日過ごしていても飽きない。それまで駅ビルで買い物するか、パチンコでもして時間を潰すしかなかった地元の人々にとって、モールは新しく出来たエンターテインメント施設でもあった。地元の人々だけではない。県境にあるモールは、隣県からの人々も呼び込んでにぎわっていた。
「ねえ、ちょっとここに寄ってもいいかな」
 夏のバーゲンでの戦利品を手に足取りも軽やかな祥子は、とある店の前で足を止めた。店頭にはさまざまなタイプの鍋が並べられていた。台所用品を扱う店だった。
「何買うんだ?」
「包丁を買おうとおもって」
 一人暮らしをしている健一の部屋に、祥子はたびたびあがりこむようになった。週末ともなると泊まって手料理をふるまう。食器などは健一のものはそろっていて、祥子は自分の使うものは実家からかつて一人暮らしで使っていたものを運びいれた。調理器具は男の一人暮らしだというのにフライパンから鍋まで一通りのものがそろっていた。健一は料理をしない。不思議に思って誰が買ったのかと聞くと、以前同棲していた恋人が買い込んだと白状した。
 別れてからは使っていないとみえ、ほとんどのものが新品同様だった。どうやら使い込む間もなく別れてしまったようだった。気にならないといえば嘘になるが、物に嫉妬しても仕方ない。祥子はそろっている調理器具を利用して料理をした。ただ、野菜や肉を切るのには手こずった。健一の部屋にあったのは果物ナイフだけで、半年もの長い間、小さなそのナイフで我慢してきたが、使い勝手がよくない。
 買いそびれていた包丁を買うなら今だと、祥子は店内へと勇んでいった。
 包丁を買うつもりが、さまざまな台所用品の数々に祥子は目を奪われてしまった。パスタを茹る鍋や中華鍋などといったものはなくても他のもので代用がきく。買うつもりはないが、見ているだけでも楽しいと祥子はふらふらとしていた。一向に包丁を買う様子のない祥子をほったらかし、健一はふらりとどこかに姿を消してしまった。
 ようやく包丁の陳列棚にたどりつき、ああでもないこうでもないと吟味した上、ようやく目当ての包丁を手にレジにむかった祥子の後を、健一が小走りに追いかけた。レジのカウンターの上に置かれた包丁の横に並べられたのは、瓢箪の形をした箸置きだった。
「箸置き?」
 会計を待つ間、祥子は健一に耳打ちした。箸置きなどあってもなくても困らないもので、わざわざ買う必要がない。
「一緒に住むなら、祥子と同じものがあるといいなと思ってさ」
 店員に会計を促され、健一は支払を済ませ、包丁と箸置きの入った袋を受け取った。
「一緒に住むって……」
 店を出るなり、祥子はたずねた。
「どう?」
「どうって……」
「構わないだろ?」
 同棲を拒む理由が見つからない。祥子は嬉しいような恥ずかしいような笑顔を口元に浮かべた。


 
 買い物を終えた祥子と健一は、車に戻ろうとして言葉を失った。
モールは、モールと同じぐらいかあるいは広いくらいの巨大な駐車場を併設していた。その駐車場のどこに車を停めたのか、運転してきた健一も祥子もまるでわからなくなってしまったのだ。
 駐車場には区域別に動物の絵が描かれた案内板が掲げられているのだが、祥子も健一もその案内版を見逃してしまっていた。
「しょうがない。探してもってくるから、ここで待っててよ」
 そう言うなり、祥子に荷物を預け、健一は車の海に飛び込んでいった。
 夏の終わりが近づいているというのに、暑い日だった。モールの中はエアコンが効いているが、いったん外にでるとアスファルトの地面から熱がたちのぼってくる。立っているだけでも汗がじわりとにじんできた。
 健一が車を探し出すのには時間がかかるだろう。昼過ぎの熱い日差しを避け、祥子はモールの中で涼を取ることにした。
 くるりと身をひるがえした祥子の目に、ショーウィンドウにうつりこんだ自分の姿が飛び込んできた。
 まともに自分と目を合わせる格好になり、祥子は体をこわばらせた。
少しずつ鏡に慣れてきたとはいえ、それは今から鏡を見るぞと意識している時の場合に限られていた。電車の窓や今のようにショーウィンドウなどに反射した自分の姿をふと見かけてしまうと、心臓がとまりそうになる。今だに動きがずれて見えるのではないかと不安になる。
 一刻も早くその場を立ち去ろうとする祥子だったが、自分自身の分身を目の前に祥子は動けなくなった。ショーウィンドウを覗き込む祥子の目は、自分の分身ではなく、別のものをとらえていた。
ウィンドウにうつった祥子の肩越しに、見覚えのある男が見えていた。細身のスーツ姿のその男は、二階堂隆だった。二階堂は車から降りようとするところだった。
 東京にいるはずの二階堂がなぜ祥子の実家のある町にいるのか。その答えはすぐにわかった。二階堂が乗ってきた車は社用の軽自動車だった。営業所で使っている車だろう。二階堂がかつて勤務していた営業所は隣県にあった。仕事でかつて働いていた営業所に来たと思われる。
 二階堂が降りてきたのは助手席側で、運転席からは若い女が降りてきた。陽炎ゆらめく駐車場を、ふたりは手をつないでモールへとむかって歩いてきた。
 ショーウィンドウ越しにふたりを眺めている祥子に、二階堂が気づくはずもない。祥子はそのままやり過ごすつもりで、身じろぎせずショーウィンドウの自分と向き合っていた。たとえ健一が車をもってきても、動かないつもりだった。
 二階堂は甘たるい顔をときおり女にむけていた。かつて祥子にも見せていた同じ笑顔だった。女とは営業所務めの頃からの関係なのだろうか。もしそうならば、祥子と関係のあった時期と重なる。
 祥子の息が荒く、不規則になった。焼けそうなほどに暑いというのに、指の先が凍えるように冷たい。箸置きと包丁の入った袋を持っているはずだったが、次第に手に荷物の重みを感じなくなっていた。
 額から噴き出した汗が目の上へと流れ落ちていった。汗をぬぐおうと、祥子は荷物を地面に置いた。その瞬間、目の前を黒い影が走り去った。顔をあげた祥子の目の前に、映っているはずの祥子の像がなかった。
 祥子の像は、袋から取り出した包丁を手に、ウィンドウの奥に映っている二階堂たちにむかって走っていた。
 背後で凄まじい悲鳴があがった。女の声だ。祥子は振り返れずにいた。
 振り返ってみるまでもなく、何が起こったのか祥子にはわかっていた。
 二階堂が連れていた女が刺されたのだ。包丁を手にした祥子の像は女にむかって袈裟懸けに切りつけた。叫び声をあげて倒れたところを馬乗りになり、祥子の像は女にむかって何度も包丁を突き立てていた。
ショーウィンドウに映った惨劇の様子は、祥子の背後で起きた出来事を寸分違わず再現しているはずだ。だが、女をめった刺しにしているはずの祥子はショーウィンドウの前に立ち、その様子をまるで映画でもみているかのように眺めている。
 叫び声はやがて消え、女は息絶えた。女が襲われている間、二階堂は傍らで立ち尽すばかりだった。
何ごとかとモールを出て二階堂たちのもとにかけつける人々の動きとは反対に、血の滴る包丁を手にした祥子の像はモールにむかって走ってきた。
 祥子の像はショーウィンドウの前に佇んでいる祥子の目の前に立つと、祥子と同じ姿勢をとって動かなくなった。
 背後に刺さるような視線を強く感じる。
 ショーウィンドウの向こう側では、包丁を手に立ち尽くす祥子の背中を人々が見据えていた。
汗がじわりとしみだして目の上に流れ落ちてきた。汗をぬぐった手に異様な感触があった。汗より重く粘り気がある。それは汗ではなく、血だった。
 どこからか鉄さびの臭いが強く漂ってきていた。臭いのもとを探して辺りを見回した祥子の鼻は、胸元を嗅ぎ当てた。鉄さびの臭いは祥子の胸元から強く臭ってきていた。
 顎を引いて胸元を見る祥子の目に映ったのは、女の返り血を浴びて真っ赤に染まったTシャツだった。見下ろす視線の先に、光るものが見えた。血のりのべったりとついた包丁がいつの間にか右手に握られていた。
 

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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