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あじろ けい

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渡せなかった手紙 4-2

「スギさん、本当に盆はダメだねえ」
 笑うとなくなる目を細めて美月は笑った。その笑顔は、神社に仕える者のくせに弥勒菩薩を彷彿させる。仏の顔も三度まで、というが、美月はいつだって仏の穏やかな笑顔だ。
 スメラギの知る限り、美月は怒った顔をみせたことがない。感情がないわけではなく、喜怒哀楽の「怒」だけが欠けている。バスケ部のキャプテンとして、試合などでは厳しい表情をみせることもあったが、感情にまかせての怒りとは違う。
 その穏やかな微笑みに、人は自然と引きこまれてしまい、知らず知らずのうちに、美月のおもうままになってしまうのだ。
 今もまた、スメラギは美月の言うなりに、世話を焼かれてしまっている。服を着替えさせられ、風呂からあがったばかりの子どもを扱う母親のような美月に、乾いたバスタオルで生まれつきの白髪頭を乾かされている。

 美月は大量のインスタント食品を買いこんでスメラギの狭い部屋に持ち込んでもいた。お盆が終わるまで外に出られないスメラギの非常食である。
「母さんがいてくれたら、何か簡単なものを作ってもらえたんだけど……」
 美月の母親は2年前に亡くなっている。美月の母親が生きていたころは、一人暮らしのスメラギを気にかけて、美月に肉じゃがだの煮物だのを持たせてくれた。スメラギが特に好きだったのはカレイの煮付けで、カレイの身のほぐれ具合と味のしみ込み具合が絶品なのである。
「なあ、スギさん。盆には地獄の釜の火も消えて、亡くなった人はみんな地上へ戻るというけれど、母さんも戻ってきているのかなあ?」
 そう言う美月の背後には、美月に似た細面の女性が正座していた。2年前に亡くなったそのときのままの姿の美月の母親だが、美月には見えていない。
美月の母親は、インスタント食品の山を見ると、たちまち顔をしかめた。その視線を追ったスメラギを不思議に思った美月が「何?」とたずねると、スメラギは声を押し殺して笑った。
「何だい」
「お前のお袋さんが、はやく結婚してインスタントは卒業しろだとさ」
「母さんがいるのか?!」
 慌てて周囲を見回す美月に、スメラギは後ろだと指さした。
「親父さんとふたりしてカップ麺やコンビニの弁当ばかりじゃ、健康によろしくないだとよ」
「わかってるけど、父さんも僕も料理は苦手なんだよ」
「だから、お前が嫁をもらえばいいんだとさ。彼女はいないのか?だってよ」
「いやだなあ、母さん。そんな話、スギさんの前で……」
 身長180cmを超える長身で細身、笑うと目のなくなる仏顔の美月は、もてた。スメラギの知る限り、中学・高校と、彼女がいなかった時期がない。そのくせ、長続きせず、たいていは数ヶ月で終ってしまう。
 身長が高いというだけで美月と同じバスケ部に入らされたスメラギとはえらい違いだ。かたやバスケ部のエースでキャプテン、かたや、生まれながらの白髪のせいでいじめられてばかりで性格がひねくれてしまった劣等生。加えて霊がみえるとあっては、人付き合いを避けてしまいがちだというのに、彼女をつくるなどもってのほかだった。半分でいいからよこせ、と冗談を言ったことがあるが、美月は照れたように笑うだけで、スメラギの前では女性の話をしたがらなかった。
 それはいい大人になった今も変わらない。時々、近所で見かける美月はそのたびに違う女性と連れ立って歩いているが、彼女なのか、ただの女友達なのか、スメラギは知らない。聞いたところで、答える美月ではない。
「お前のことが心配なんだな、お袋さん」
「子どもじゃないんだから」
「靴ひももちゃんと結べないのに?だってさ。なんだ、お前、靴ひも結べないのか」
美月は、母親がいると思われる方に向き直り、
「母さん! そういうことは言わない!」
 と言うが、美月の母親は平然と聞き流している。
 霊気にあてられて弱っていたのもなんのその、今はすっかり調子を取り戻して腹を抱えて大声で笑っているスメラギに、美月は、禰宜は着物姿で過ごすことが多くて靴を履く機会があまりないからうんぬんと言い訳をしていた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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