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あじろ けい

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罪喰い 1-4

 トムじいの頭はざくろのようにぱっくりと割れ、血が勢いよく流れだしていた。トムじいを運んできた連中は、アルの指示に従ってトムじいをベッドに横たわらせた。そして次々に胸で十字を切って部屋を後にした。トムじいがあの世にいくのは時間の問題だとみなわかっていた。
 部屋にふたりきりになり、アルは一脚きりの椅子をトムじいの枕元へともっていき、腰かけた。かすかに動くトムじいの褐色の胸に、右手をそっと置いた。
「トムじい」
 意識の有無を確かめるようにアルは名前を呼んだ。トムじいの返事はなかったが、血のこびりついた白髪頭がかすかに動いた。
「約束だから、これから罪喰いの儀式を行う。体が辛いだろうが、告白したい罪を言ってくれ」
 アルの右手のひらの下の皮膚がぐんと盛り上がった。そこは心臓のある場所だった。皮膚をつきやぶって外に飛び出そうという勢いで心臓が飛び跳ねているのだ。心臓の異常な動きに呼応するかのように、止まっていたトムじいの頭からの出血が再びひどくなった。流れる血を口に受けながら、トムじいは語り始めた。
「あれは彼女(カトリーナ)が町を襲った直後だ。わしは家がどうなったかを見に行ったんだ。そりゃひどいものだったよ。何もなかったんだ。どこをみても、家なんかありゃしねえ。みんな、がらくたの山になっちまった。爆撃でもされたかとおもったね。実際、あれは戦争だった。生き抜くための。
 みんな必死だったんだ。生きるためには何だってしたさ。物も盗んだ。死んだやつには洋服はもう必要ないだろうから、服もはぎとった。そこらにあるもので金目になりそうなものはとにかく何でもかき集めた。
 助けなんか、期待してなかったさ。そりゃ、いつかは誰かが助けてくれただろうさ。でも、そのいつかがいつだか、わかんねえ。明日かもしれないし、一週間後かもしれない。明日ならしのげるが、一週間、どうやって生き抜いたらいいってんだ? 一週間ならいいが、一か月、一年待ち続ける可能性だってあった。実際、L9区の連中で住む場所のない奴はいるんだ。あれからもう5年も経っているのにだ。
 死にたくなかったら生きるしかねえ。何が何でも生き延びるんだ。
 ――死が足元に迫っていたから、興奮していたんだと思う。
 私は、ある女を犯した。
 彼女も、自分の住んでいた場所がどうなったか、見にきたのだろう。若い女だった。頭の隅っこじゃ、いけないことだってわかっていたさ。でもどうにも抑えられなかった。狂っていたんだな。俺だけじゃねえ。あの時分、誰もが正気を失っていた。生きたいという欲望が他の生を踏みにじったんだ。
 やがて傷ついた町が日常を取り戻していくにつれて、わしは自分の犯した罪が異常だってことに気づいた。わしが犯した女の傷は一生消えねえ。そう思うとわしの心が痛んだのさ。傷を癒していくニューオリンズとは反対に、わしの傷は膿んで腐ったようなにおいがしはじめた。
 わしは現実とむきあうのをさけるように、酒を飲み始めた。酒を飲んでいるとふわふわした気分で気持ちよかったからな。それでも、ぬけない棘のように罪悪感だけが残ったまま、理性をちくちく刺しやがるんだ。まいったねえ」
 トムじいはレイプと掠奪を告白した。
「かんべんしてくんねえかな……」
 最後に、トムじいは自分が犯した女にむかって言うかのようにつぶやいた。
 誰がトムじいの罪を赦せる? 裁判にかければトムじいは有罪だ。犯された女はトムじいを赦さないだろう。
 赦しを与えられるのは神だけだ。告解を授ける司祭は赦しを与えるのではない。彼らは仲介者として、罪人たちの告白を聞き、神に伝えるだけにすぎない。そうでありながら、アルは罪人の罪を赦すと言ったのだった。当時のアルは修行僧だった。司祭ですらない身分で赦しを与えたアルは、以来、他人の罪をその身に受け続ける呪われた身となった。
 アルの右手が次第に熱くなっていった。内側からいためつけられた皮膚がいまにも破れそうなほどに薄くなって熱源の心臓を近くに感じるせいだ。そろそろかと少し手をはなしたところで、みはからったようにトムじいの心臓が皮膚をくいやぶって飛び出してきた。拳大の心臓はいまだに脈打ち続けている。すさまじい臭気がたちまち部屋に充満した。心臓を覆う黒い粘着質の物質が放っているもので、トムじいの胸の上に垂れるとその部分が瞬時に焼けただれ、肉のこげるにおいが鼻をついた。
 アルは心臓をつかんだかとおもうと、その手を口元にもっていき、一気に喰らいついた。アルの歯がひきつる心臓の肉をかみちぎるたび、腐臭がひろがった。トムじいの罪の臭いである。アルはトムじいの罪を喰らってその身にトムじいの罪業を引き込んだ。
 たちまち、激痛がアルを襲う。罪人の罪を赦せない被害者の怨念が激しい痛みとなって罪を引き受けたアルの体を苛む。罪喰いの直後には痛みとの闘いが待っていた。
 儀式を終えたアルは、ドアの外に待たせていた葬儀屋を呼び入れ、トムじいの遺体を引き渡した。葬儀屋が出ていくなり、アルは血のあとも生々しく残るベッドに倒れこんだ。痛みに意識が遠のいていこうとするなか、枕元をさぐって注射器を手にすると、無我夢中の体(てい)で、腕に突き立てた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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