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あじろ けい

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罪喰い 1-5

 「麻薬中毒者(ジャンキー)か」
 ベッドの傍らにノーマンが立っていた。折り目のついたパンツの裾の下には磨き抜かれた靴を履いている。靴の表面に映り込んだアルの顔は歪んでみえたが、実物とそうは変わりないだろう。
 廃人のようなアルをノーマンは軽蔑するようなまなざしで見下ろしていた。
「少し急ごう。昨日の午後便でといったのに、もうすでに24時間の遅れが出ている」
 ボストンに行くとは言っていないと言おうとするが、コカインのせいで口をきくのも億劫だった。
 ノーマンはアルの体をベッドから引きずり下ろした。力なく床に崩れ落ちそうになるアルの体をノーマンは脇にかかえてバスルームへと連れていき、シャワーの蛇口をひねってドアを閉めた。
 冷たい水が勢いよく流れだし、服を着たままのアルの体を打ちすえた。湯加減の調節などされなかったものだから、すぐに熱湯になり、バスルーム中にたちまち湯気が満ちた。冷たさも熱さも、感覚の麻痺したアルには何ほどのものでもない。
 アルは、排水溝にすいよせられていく血のいくすじもの流れをぼんやりとみつめていた。
 その血はアルのものではない。車に撥ねられて頭を割ったトムじいを寝かせた枕につっぷしてアルの髪についた血だ。乾いていたはずの血は水分を得て、再び艶を取り戻していた。
 トムじいの血はやがて下水へと流れこみ、汚水処理を経てメキシコ湾へと流されていく。
 だが、彼の犯した罪はアルの内にとどまったままだ。罪喰いの儀式によって自らの内にとりこんだ罪は容赦なくアルの体を痛めつけ、アルを内側から蝕んでいく。コカインでハイにでもなっていなければとても耐えられる痛みではない。
 アルの肘の内側は注射のしすぎで青黒く変色していた。アルはそれを罪の顔だと思っている。目には見えぬ自らの内にある罪が存在感を主張しているのだ。自らが呪われた身だと声高にいっているような注射痕を人目に触れさせないよう、アルは長袖のシャツを着続けている。
 トムじいの血がついたシャツは重くアルの肌にはりついてきた。ついでに洗濯もしてしまえと、アルは服を着たままボディソープを全身にまわしかけた。
 “洗濯”し終えたシャツも下着もはぎとって裸になると、アルは蛇口を閉めた。水音が途絶えた瞬間、聞こえてきたのはノーマンの押し殺したような低い声だった。どうやら携帯電話で誰かと話をしているらしい。“ファイン”“エル”という単語がもれきこえてきた。
 バスルームのドアを開けると、ノーマンはちょうど携帯電話を胸ポケットにしまいこむところだった。その脇に、ホルターと銃のあるのをアルはめざとく発見した。ノーマンの脇に抱えられたときに自らの脇に違和感があったのは、ノーマンの拳銃があたっていたせいだったのだ。どうやらノーマンはただの弁護士ではないらしい。
 アルは身構えたが、裸ではどうしようもない。体をふくバスタオルもなく、アルは髪の先から水をしたたらせて立ち尽くすばかりだった。
「それを着てもらいたい」
 ノーマンが視線をやったテーブルの上には、彼が用意したと思われる洋服があった。黒いコートのようにみえてそれは、カソックだった。カソリックの司祭が普段着として身につける装いだ。足元までの全身すっぽりと覆い隠すマントのようなスタイルで裾が広がり、胸元から裾にかけての直線状に全部で33個のボタンが縫い付けられている。救世主が人の子としてこの世に生のあった年数の分だけというわけだ。
「僕は司祭ではありません」
「司祭のふりをする必要があるのでね」
 なぜそうする必要があるのかを尋ねる以前に、カソックを身につけること事体にアルは抵抗があった。司祭になりそこねた身、呪われた身であるのだから、司祭の平服に袖を通す気にはならない。ただの洋服ではあるだろうが、アルがその身にまとったとたん、教会を裏切った男のアルを断罪するかのように、火がつくのではないかという恐怖心が湧いてくる。
「着てもらおうか」
 感情を押し殺してはいるが、ノーマンの声には有無を言わせぬ威圧感があった。ノーと言えば胸のホルターから銃を取り出して脅かしてでも着せようとするのだろうか。業火と銃、どちらにしても傷つくのはまぬかれないとみえる。
 それなら神の放った火で焼け死ぬかと覚悟を決めて袖を通したが、何ごとかの起こるわけでもない。数十分後にはアルは機上の人となり、数時間後には冷たく乾いた秋風の吹きつけるボストンの地に降り立っていた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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