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罪喰い 2-2

「主人はもう先が長くありませんの……」
 酒の力を借り、夫人は吐き出すようにそう言った。どうやら夫人は依頼をしたに過ぎず、アルが罪を引き受ける相手は彼女の夫のようだ。
「ですから神父さまに――」
「その神父さまというのはやめてもらえませんか。こんな格好をしていますが、僕は神父ではないんです」
 何度も“神父さま”と呼びかけられ、そのたびにくすぐったい思いをしていたアルはようやく夫人をさえぎることに成功した。カソリックの僧衣、カソック姿はノーマンに強制されてのものである。
「存じておりますわ。神父のふりをしていただくことについての事情は?」
 夫人はノーマンをうかがった。
「いいえ、詳しいことは奥さまからと思いまして」
 夫人の青い瞳に萎縮したようにノーマンの声が小さくなった。
「そう、そうですわね」
 舌のすべりをよくするかのよう、夫人は再びウィスキーを口にした。
「主人は肺がんでもう長くはありません。主人も私もカソリック信者ですの。本来でしたら、神父さまのような司祭の方に告解を授けてもらうべきなのですが、そうもいかなくなってしまって……」
 カソリック信者であれば、死の間際、司祭に告解の秘跡を授けてもらうことができる。告解とは、罪の赦しを神に乞う行為で、司祭は信者から罪の告白を受け、神の赦しを得るための仲介役を引き受ける。告解は宗教行事なので、この儀式を執り行うことができるのは司祭などに限られ、告解をする人物も信者に限られる。信者以外、あるいは信者にふさわしくないとして破戒されたものにはこの告解の儀式は行われない。夫人が口ごもったところをみると、夫人の夫はどうやら、この破戒の禁を破った人物らしい。
「半年ほど前、同じ教会に通っているある女性の方が神父さまに告白なさったんです。その……女性のお嬢さまが無理やり主人と関係をもたされてしまったと。お嬢様はまだ15歳なのだとか。主人は関係を否定しましたし、私も主人を信じていますけれども、その方がおっしゃるにはお嬢さまは妊娠されて、主人は堕胎を迫ったそうなのです。彼女は主人との関係や堕胎の罪の意識に耐えられなくなって母親に相談、母親の方が神父さまにすべて告白されたのです。それからです。主人と教会との関係が悪くなっていきました」
 堕胎だけでも重大な罪を犯している。夫人が教会側に告解の儀式を行ってもらいたいと頼めない理由がはっきりした。頼んだところで断られるとは火をみるより明らかだった。
「もともと体調がすぐれなかったのですが、女性の告白があってから、主人の衰弱がひどくなりまして。教会からは足が遠のいてしまいました。そうこうしているうちに肺がんがみつかりまして。医者からは長くないと言われています。ですから……」
「告解は無理でも、罪喰いならと?」
 夫人はほっそりとした首を折ってうなずいた。
 罪喰いは、赦されて天国へ行きたいと願う破戒者のための最後の手段だった。
「主人がどんな人間であれ、赦されて天国へ行ってもらいたいと思っておりますの」
 教会に見捨てられた形の夫人は、すがる思いでアルを頼ってきたのだろう。愛する夫を地獄には落とすまいと、夫人は、拉致するかのように罪喰いのアルをボストンの地へ呼び寄せた。少々強引ではあるが、それだけ夫人の夫への愛情の深さが感じとれる。夫人のように愛情深い女を、アルはかつて知っていた。海のように深く、空のように果てのない愛、だがそれはアルにむけられたものではなかった。
「主人には罪喰いの儀式をするとは話しておりません。告解を授けていただくという話をしておりますので、そのような格好をお願いしているのです」
「罪喰いと告解はまったく別のものですが……」
 天国の扉を開いてみせるという点では同じだが、至る道が異なる。告解は神の赦しを得られるのに対し、罪喰いは罪を他人に肩代わりしてもらうだけだ。神に赦されて天国の門をくぐるわけではない。罪がないとみなされて通り抜けるので、純粋にイノセントとは言えない。
「それも存じております。異端なのですよね」
 罪喰いの儀式がいつから存在しているのか、アルは知らない。アルが修行僧だった頃にはすでに今の形での儀式が存在していた。告解にしろ罪喰いにしろ、天国が約束された儀式であるには違いない。教会は、自分たちの神を信じるものだけが天国へ行けるといいふらし、信者を増やそうとした。天国への裏道があると知られたら信者が減るとでもおもったか、教会側は一方的に罪喰いを異端と断じた。
 今もその姿勢に変わりはないが、かつてのように迫害されることはなく、教会側とアルとはほどよい距離間を保っている。彼らの態度も軟化し、いかなる罪人であろうとも赦されるべきだと考えられているが、表立って赦すことのできない種類の人間がいる。それらを救うのが罪喰いだった。アルの存在は、今は、教会を補完するような形でゆるされている。
「罪喰いを引き受けるとは僕は言っていないのですが」
 アルがそういうと、夫人の目が光った。
「お引き受けいただけない理由は何ですの? お金でしたら――」
 夫人はノーマンをみやった。その目が、アルを説得したのではなかったのかと責めるように冷たく冴えていた。
「本人の意思によらなければ罪喰いは行えません。まず、ご主人の意思を確認させてください」

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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