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罪喰い 2-4

 ジョンストンはアルを自分の枕元近くに招き寄せた。話がしやすいようにだろう。マスクを外しているせいで呼吸が荒かったが、夫人を罵倒した興奮はおさまって幾分落ち着きを取り戻しつつあった。
「名前は?」
「アル。アルフォンツォ・セラーティ」
 アルは滅多に口にしなくなった本名をフルネームで名乗った。
「イタリア系か?」
 ジョンストンは驚いていた。その目は、珍しいもののようにアルの金髪を見つめていた。
 アルの育った北イタリアでは金髪に碧眼は珍しいものではなかった。かつてその地を闊歩したゲルマンたちの血が色濃く残っているのだろう。アルの父も兄弟もみなそろって見事な金髪で背が高かった。時代が下るにつれ、アルフォンツォという名前と金髪とがそぐわなくなった。イメージというやつだ。イタリア人の髪の色は黒といつしか決まっていて、アルが正式名を名乗ると奇異な目で見られるようになった。以来、アルはアルとだけ名乗るようにしている。
「言っておきますが、僕は神父ではありません」
 アルはさっさと化けの皮を自ら剥がしてしまった。夫人に付き合って芝居を続け、いざ罪喰いの儀式を行うとすれば、告解のそれとは違うと気づかれてしまう。それならば自ら暴露してしまった方が後々面倒がない。
「僕は罪喰(シンイー)い(ター)です」
 アルは正体を明かした。罪喰いと告解の儀式とは、罪を告白し、悔いるところまでは同じだが、その先の手順が異なることもゆっくりと話して聞かせた。
「告解では死なないが、罪喰いを行えばあなたは確実に死ぬ」
 死と聞いてもジョンストンは無反応だった。恐怖したかもしれないが、顔から筋肉がこそげ落ちてしまっているので、作ったとしてもその表情を読み取ることができない。
「いくらもらった?」
 アルは小切手に書かれていた金額を言った。
「そんな金があったとは……」
 ジョンストンはしばらくの間、押し黙っていた。その視線の先に、芝生の庭をそぞろ歩く夫人とノーマンの姿があった。
「あれはいい女だろう。美しい女だ。ノーマンが夢中になるのも無理はない。あんたも気になるかな」
 見た目だけなら20そこそこの若者のアルが、ジョンストンは気がかりらしい。アルは美しい人だという感想だけを述べるにとどめた。ジョンストンを嫉妬させるのは嫌だったし、夫人の美を否定すればかえってジョンストンの機嫌を損なう。夫人を美しい人だとは思っているので嘘はついていない。思った通り、ジョンストンはアルのそつない返事に満足していた。
「わしも一目で気に入った。ギャビーは教会のボランティアをしていて、わしのところに寄付を募りにきた。金と地位のある人間は社会に貢献しなければならないとか言ってな。面白いから、寄付してやった。教会だけじゃない、あの頃はいろいろバラまいたな。4年くらい前だ。わしは運送会社を経営しているが、その会社がおもしろいように儲かってな。金で手に入らないものはない。名誉もわしはそうやって手に入れた。
 ギャビーは、私を金の亡者だと誤解していたと言って、それからしばらくしてわしたちは結婚した。わしは再婚だった。親子ほども年の差がある、遺産狙いだと、前の妻の子には反対されたよ。といっても妻の連れ子でわしの子ではないがね。自分の取り分が減るとでも思ったんじゃろう。ギャビーとは互いの財産を守るという主旨の婚前契約を交わしてある。結婚して、わしもカソリック信者になった。寄付をしたり、慈善活動をしたりするとギャビーは喜んだ。わしはギャビーの喜ぶ顔がみたくて、寄付をしてきたようなもんだ」
 ジョンストンに見られているとは気づかず、ノーマンは夫人の近くに体を寄せて歩いていた。時折、夫人は顔をあげてノーマンを見上げる。笑顔が戻っていた。
「わしは、ギャビーに何か残してやりたくなって、資産の一部をギャビーに残すという遺言状を書いた。顧問弁護士のノーマンに手伝ってもらってな。ノーマンは知っていてギャビーに近づいたのじゃろう。わしが死ねば遺産の一部はギャビーのものだ。ギャビーを思いのままに操れば、その金はノーマンの自由になるも同然だ。罪喰いをあんたに依頼したのは、罪喰いに乗じてわしを殺すためだろうて……」
 ジョンストンの声には憎しみがこもっていた。しかし、力ない声にもはや迫力は感じられなかった。
「確かに、罪喰いをすればあなたは死にます。ですが、罪喰いで人を殺すことはできない。罪喰いの儀式自体は、瀕死の状態でないと行えないのです。もともと死にかけているときに儀式を行うから死ぬといったまでで、儀式そのもののせいで死ぬわけではありません」
 ジョンストンのこわばった顔の皮がひきつった。笑顔を浮かべようとしたつもりだったらしい。安堵の笑顔のつもりだったのか、嘲笑だったのかはアルにはわからなかった。
 儀式のせいで死ぬわけではない。だが、故意に瀕死の状況を作り出したうえで儀式を行えば、確実に死ぬ。そう考えて、アルはぞっとするような寒気を背筋に感じた。
「罪喰いをするつもりはない」
 ジョンストンはそういうなり、かたく目を閉じた。アルはそっと酸素マスクをかけてやった。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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