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罪喰い 3-1

 ジョンストンには罪喰いをする意思がないため依頼は引き受けられないと伝えると、夫人は長い睫を伏せ、あきらかに落胆していた。しかし、いくら夫人がジョンストンに罪を悔いて天国へと望んでも、当のジョンストンにその気がなければ天国への門は開かない。アルに出来ることはもう何もない。邸にとどまるだけ無駄だと、その夜は泊めてもらったものの翌日にアルは出て行くことにした。
 ニューオリンズへ戻るというと、夫人はそれならセスナで送ると申し出た。客人を迎えにいかなければならないからという夫人自らが運転する車で、アルは空港まで送ってもらった。
 アルを乗せて飛び立つはずの自家用セスナはまだ空港に到着していなかった。ジョンストン家の客人を降ろした翼で、アルを乗せてニューオリンズへ飛び立つ予定なのだが、スケジュールに遅れが出ているらしい。アルは急ぐ身でもないから、のんびりと構えていた。
「遠いところを、わざわざありがとうございました」
 夫人は改めて礼を述べた。特に何もしていないアルは、夫人の丁寧な礼にかえって恐縮してしまった。
「こちらこそ。泊めていただいて、助かりました」
「いいえ、私どもがお呼び立てしましたのですもの」
 ノーマンに引き立てられるようにしてだったと思い出して今さらながらに腹が立ったが、夫人に免じてアルはぐっとこらえた。
「小切手には手をつけていません。お返ししたいのですが――」
「あら、構いませんの。あれは神父さまに差し上げたものですから」
「その呼び方はやめてもらえませんか。芝居はもうしなくていいのでしょう?」
 そういうアルはいまだカソックを身につけていた。他に着るものがないので仕方なく着ているのだ。
「ええ、そうでしたわね。その格好をみてるとつい……。そうお呼びする方が楽なんですの。私、教会で育ちましたから。教会に捨てられていましたのをシスターたちに育てていただいたのです」
 夫人が信仰に厚く、寄付や慈善事業に熱心なのはどうやら生まれ育った環境のせいらしい。どうりで夫人の美しさに男に媚びるような野卑たところがないわけだった。
「小切手は捨ててしまったので、お返しできないのです」
 小切手を破り捨てた理由――女の依頼は引き受けたくはなかったからという理由はアルの胸にそっとしまった。
 捨てるくらいなら寄付してほしかったと言わんばかりに夫人は顔を曇らせたが、アルを責めることはしなかった。
「ハリケーンはどうなったのでしょう」
 ふと夫人が呟いたので、そういえばハリケーンが近づいている中をボストンに向けて飛んできたのだったとアルは思い出した。とにかく風が強くて機体が木の葉のように揺れ、心もとない状況だった。もう2日前になる。ハリケーンが来るとひどくなるアルの頭痛は今回はそうでもなかったから、ハリケーンも大したことはなかっただろう。ボストンは快晴の秋空だった。帰りの旅路は快適なものになりそうだった。
「ああ、来ましたわ」
 空の一点をみすえていた夫人が声をあげた。夫人の目線の先に白いセスナの機体がみえた。アルたちがいる空港は、主に自家用機の離発着に用いられている空港で、それまで何機かのセスナを目にしたが、アルにはどれも同じにみえる。夫人が、ジョンストン家のセスナだと見分けた胴体に赤いラインの入ったセスナも、アルには何の特徴もないセスナとしか見えないでいた。
 着陸時にはすさまじい轟音をたてたセスナは、滑走路をゆっくりと走って夫人とアルのもとへと近づいていた。 
 タラップから降りてきたのは、夫人とそう年の変わらない男だった。ネイビーを基調としてボルドーカラーの細いストライプの入ったスーツは着る人間を選ぶタイプの洋服で、その男はそのスーツに選ばれてはいなかった。
「息子です。ライアン、こちらは――」
「セラーティ」
 アルがすかさずファミリーネームを言う。神父さまと呼びかけ続けた夫人はアルの名前を知らなかった。
「セラーティ神父さま。我が家にお越しいただいていたのですが、もうお帰りになるのでセスナでお送りするところなの」
「神父というと、また寄付の話か何か?」
 息子だと紹介されたライアン・ジョンストンが夫人の子どもであるはずがない。夫人とは再婚で、前の妻の連れ子がいるとジョンストンが言っていたその子どもだろう。身なりは上等だが、どこかに卑しさと狡さを感じさせる男だった。寄付の話かと言った時、ライアンはあからさまに嫌な顔をみせた。
「この人はね、出せと言われたら言われただけものを出すような人だけど、あまり人の財布をあてにしないでもらいたいものですね、神父。まあ、出せと言われたからといってほいほい出す方もあれだが」
 迎えにきてくれた夫人への礼もないまま、ライアンはさっさと夫人の車の助手席に乗り込んだ。
「あまり揺れないといいですわね」
 夫人はタラップの下まで見送りにきてくれた。
 セスナに乗り込み、タラップ下の夫人に挨拶しようとふりかえったアルがみたのは、セスナ機めがけて一目散にかけてくるジョンストン家の老執事の姿だった。
 老執事は両腕を前で大きく交差させる動作を繰り返していた。まるでアルにむかってセスナに乗るなといっているようである。アルがセスナに乗り込もうとしないので、夫人も背後を振り返って執事の存在に気づいた。
 老いた体に鞭打って駆けてきた執事は、息をきらしながら主人の伝言を述べた。
「神父さま、すぐお邸へお戻りください。ご主人さまがお待ちです」
 執事にせかされ、アルたちは車に転がるようにして乗り込み、ジョンストン邸へとって引き返した。
「奥さまと神父さまが出発された後のことです。ご主人さまが急に、神父さまを呼び戻せと仰せになられまして……」
「それはまたどうしてなの?」
 老執事の言葉が続かなかったので、夫人が優しく先を促した。
「はい……。あの、その、地獄の入り口がみえる、自分はもうすぐ死ぬ、死ぬ前に懺悔したいと……」
「それで神父さまを呼び戻しにきたのね?」
「はい」
 車中での老執事の話は要領を得なかったが、何ごとかが起きたことだけははっきりしていた。事情を知らないライアンだけは、地獄がどうの懺悔がどうのとは何だと目を白黒させていた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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