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あじろ けい

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罪喰い 3-2

 車をポーチに進入させるなり、夫人は運転席から飛び出した。アルもその後に続いた。ライアンはのんびりと助手席から降りてくるところで、老執事はかわいそうに車のドアを開けることもできずに車内で震えていた。
 老執事が怯えていた理由はすぐにわかった。
 ジョンストンの病室の前には、ノーマンとパメラ看護師、数人の使用人とが集まって何やら騒いでいた。ノーマンがしきりにドアを開けようとしているのだが、ドアは固く閉まったまま、中からジョンストンのわめき声が聞こえてきた。それは人間のものとはおよそおもえないほど、おぞましい声だった。
「どうしたの、何があったの?」
 夫人が尋ねると、パメラ看護師が涙ぐみながらこたえた。
「洗い物を出そうとちょっと席を外して戻ってきましたら、ジョンストンさんが狂ったように叫んでいまして。地獄の入り口がみえる、もうダメだとかおっしゃってました。奥さまはお出かけになった後でしたから、私、慌てて執事のローソンさんを呼びました」
 懺悔、つまりは罪喰いをしたいからアルを呼び戻せと命令された執事は空港へかけつけたというわけだった。
「ローソンさんが空港へ向かった後、ノーマンさんがお見えになったので、一緒に病室まで来てほしいとお願いしました。だって、地獄の入り口がみえるだなんて、おそろしくてとても一人では部屋に入りたくないですから。そうしたらドアはもう閉まっていて、鍵なんかついていないドアなのにノーマンさんがいくらがんばっても開かないんです」
 パメラ看護師の話を聞いている間も、おそろしい叫び声は続いていた。地獄の入り口が見えるとジョンソンが言うからには、彼の死期が迫っているのだろう。罪喰いをするのなら急がなければならない。
 そう思った瞬間、アルの心の内を読み取ったかのように夫人がドアに体当たりをくらわした。それまで固く閉まっていたはずのドアはいともたやすく開いた。
 そして全員がみたものは世にもおぞましいものだった。
 ジョンストンは仰向けになったまま、ミイラのような体を上下に激しく動かしている。酸素マスクは外れ、口元からはだらしなく涎が幾筋も垂れていた。眼窩に落ちくぼんだ目はかっと天井を見据えている。何をみているのかと視線を追った先に、地獄の入り口があった。暗褐色の粘液のたまりのようなものを見たとおもった瞬間、それはすうっと消えてなくなった。
「地獄が、その口を開いてわしを飲み込もうとしておる。わしはもうすぐ死ぬ。今すぐ罪喰いをしてくれ。地獄へは堕ちたくない、堕ちたくないぞ」
 今すぐ罪喰いをしてくれと、ジョンストンはうわごとのように繰り返した。
「神父さま、罪喰いを!」
 夫人が叫んだ。だが、アルはためらった。アルがみた地獄の門は消えてなくなっている。罪喰いは地獄の門が開いたままの状態でないと行えない。一度開いたはずの地獄の門が再び閉じることなどありえないのだがと不審に思っていると、入り口にたまっている人の山をわけいって、男が病室へと入ってきた。
「地獄だの、死ぬだのと。大丈夫、あなたは死にはしない。少なくとも今日は、だが」
 ドクター・ドイルと夫人に呼びかけられたその男は、ベッドのかたわらにいたアルをおしのけ、ジョンストンのそば近くに寄っていくと酸素マスクをかけ、手際よく注射を打った。
「鎮静剤を打っておいたから、しばらくはおとなしくしているだろう。地獄をみただなどと、幻覚にすぎない」
 ドイル医師はぐるりと辺りを見回した。パメラ看護師をはじめ、夫人やノーマンもみな、部屋の中へは足を踏み入れられず、入り口付近に固まっている。ドイル医師が地獄の入り口は幻覚だと言い切ったので、集まってきていた使用人らはほっと安堵の表情を浮かべていた。
 幻覚であったはずがない。アルは確かに地獄の入り口を見た。見たのはおそらくはアルだけだろうが、ジョンストンも同じものを見ていたはずだ。幻覚ではないが、一度現れたはずの地獄の門が消えることはないと知っているアルには、あれは本物の地獄の門だったのかという疑問が残った。
「先生(ドクター)、ありがとうございました」
 夫人がねぎらった。ドアに体当たりしたときに乱れたのだろう、いまだに興奮さめやらずといった風で頬が赤く、髪がほつれていた。
「ジョンストンさんに話があるからと立ち寄ったら、死にそうだと騒いでいると聞いたのでね」
 どうやらドイル医師はジョンストンのかかりつけの医者らしい。医者らしく、きちんとした身なりの壮年の紳士である。そのドイル医師はとんでもない爆弾をもってジョンストン家を訪れたのだった。
「グッドニュース。ジョンストンさん、あなたは死なない。バッドニュース、誰かがあなたを殺そうとしている」

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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