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あじろ けい

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罪喰い 4-2

「あなた、これは一体……」
 遺言状には、先の遺言状の内容を破棄し、すべての遺産は慈善活動のために設立した信託にゆだねるものとするとあった。
「わしを殺しても一セントだってお前たちのものにはならないようにしてやった。わしが死ねば、遺産はお前の大好きな慈善団体にいく。どうだ、嬉しいだろう、心優しきギャビーよ」
 この時のジョンストンほど醜いものはなかった。骸骨が皮をかぶっているような形相の醜さだけではない。ねじまがった心がおぞましかった。遺産はやらないと言うだけならまだしも、遺産が夫人の情熱ともいえる慈善事業に使われるのを指をくわえてみていろとは、凄まじい悪意のなせる業だった。
「どうした、ギャビー。さっさとわしを殺したらどうだ? おいぼれ一人死ねば、たくさんの恵まれない人間を助けてやれるんだぞ」
 ジョンストンは声高に笑った。
 夫人がジョンストンを殺そうとしていたという確たる証拠は何もない。ドイル医師ことサタンの“誰かが殺そうとしている”という一言が疑心暗鬼を生じ、ジョンストンが勝手に夫人を犯人と決め付けただけだった。そして遺言状を書き変えた。ジョンストンは夫人から動機を取り上げたつもりでいただろうが、その行為はかえって夫人に大きな動機を与えてしまったとジョンストンはいまだ気づいていない。
 色と欲には惑わされなかったかもしれない夫人だが、ジョンストンの莫大な遺産が慈善に使われるとなったらかえってジョンストンへの殺意が湧いてきやしないか。アルはその点を恐れてサインができなかった。何も知らないパメラ看護師は、遺産が慈善事業に用いられるならという善意からサインをしてしまった。誰もかれもがサタンの掌の上で華麗に踊ってみせてしまっていた。
 ジョンストンの気ちがいじみた笑い声に耐えきれないようで夫人は耳を塞いだ。この上ない悪意に苦しむ夫人を見て、ジョンストンは楽しくて仕方ないとばかりに干からびた両手を叩いて笑った。
 笑い声はとまらない。無邪気な笑い声ではない。呼吸が苦しいのを無理して笑うものだから、ジョンストンは時々咳き込んだ。それでも笑うことをやめない。時おり痰が絡んで、不快な音がたった。
 そのうちにジョンストンの咳が止まらなくなった。喉を傷めたのか、咳き込んだ際にブランケットに血の飛沫が散った。苦しそうに胸をかきむしり、ジョンストンは助けを求めるようにドイル医師をみやった。
「どうやら誰かが毒を盛ったようですな」
 ドイル医師は手当するでもなく、ベッドの上で苦しみもがくジョンストンを見下ろしているばかりだった。
「ど、毒。そんなはずは……。ドクターとナース、神父以外に病室には誰も入れなかったというのに……」
 ジョンストンは眼窩からこぼれ落ちそうな目を見開いてノーマンと夫人を凝視していた。恐ろしい形相のジョンストンに、夫人はすっかり怯えきって肩を震わせていた。
「私は『誰かが』と言っただけで、夫人があなたを殺そうとしているとは言っていない。手段をどうとでも整えた誰かがこの中にいるというわけだ」
「一体誰が……」
 とたんにジョンストンは、肺が飛び出すのではないかという勢いで咳き込んだ。上半身をベッドの上に折り曲げて何度も血を吐いた。最後の喀血はひどい出血量で、ブランケットの上にちょっとした血の溜まりができるほどだった。
 やがて、あたりに腐臭が漂い始めた。その場にいた誰もが鼻をつく異臭に顔をしかめた。アルはその臭いが何であるかを知っていた。
「おや、地獄の門が開いたようですな、神父」
 サタンことドイル医師に指摘されるまでもなく、アルも気づいていた。ジョンストンの血を鍵に今度は本物の地獄の門が開こうとしていた。
 ブランケットの上に溜まった鮮血はゆっくりと渦を巻き始めていた。渦は次第に速度をあげ、その中心にぽっかりと穴が開いた。闇すらも一歩足を踏み入れたら飲み込まれてしまうその渦こそが地獄の門だった。開いた地獄の門からは地獄の底が覗いてみえた。地獄に堕ちたものたちのうめき声が聞く者たちの肌を粟立たせる。凄まじい腐臭は、地獄から漂ってくるのだった。
 ライアンはとたんにフレンチウィンドウを破って外に逃げ出し、夫人は気を失ってノーマンの腕の中に倒れこんでしまった。
「罪喰いを、神父」
 やっとのことで声を絞り出すなり、ジョンストンはベッドに倒れこんだ。
 アルはその一言に弾かれるようにしてジョンストンの傍らに駆け寄った。地獄の入り口は次第に拡大しつつあり、今にもジョンストンの体を飲み込もうとしている。
「これまで犯した罪のすべて告白を、ジョンストンさん!」
 アルは肋骨の浮き出たしみだらけのジョンストンの胸に手をあてた。うすっぺらな皮膚の下で心臓が早鐘を打ち続けている。皮膚を突き破って飛び出そうとして、その部分だけが心臓の形に盛り上がっていた。急がなければならない。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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