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あじろ けい

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渡せなかった手紙 6-2

 ビートルの助手席に、宮内小夜子が座っていた。揃えた膝の上に、整った指先をそろえて置いている。スメラギの次の言葉を待って、その目はスメラギの横顔をみつめている。
 ハンドルを握りながら視界の端にうつりこんでくる宮内小夜子の姿は、生きている人間が助手席にいるのとまるで違わない。目鼻口はすべてそろっているし、頭から足の先まできちんと1体につながっている。
スメラギの目にうつる幽鬼たちは、生きている人間と何ら変わりない。霊視防止のメガネをかけていない限り、街をそぞろ歩く人間とその間を行く幽鬼たちとの区別はスメラギにはつかない。
 もし、宮内小夜子の髪が黒くなく、膝頭が隠れる丈のスカートをはいているのでなければ、生身の人間として見過ごしてしまっていただろう。外見はまさに生きた人間と変わらない幽鬼たちの異質さは、まさにその外見にある。
 宮内小夜子の髪は黒く、あげた前髪の生え際はくっきりと富士の山を形どり、後ろ髪はうなじで、後れ毛の乱れもなくきっちりとまとめられている。眉は自然な太さで、手を加えて整えられた跡はみえない。流れるような眉の形は、美人の証だろう。化粧らしい化粧といえば赤い口紅が目立つ程度で、それも品がないというのではなく、女性らしさを強調していて、かえって可愛らしい清潔感がある。
 服装は、白いブラウスに、丈のたっぷりした濃紺のフレアスカートを身につけており、今どきのファッションの主流からはたいぶ外れている。このズレ、異質感こそが、幽鬼である証拠だった。
 現代に生きるものが昔のファッションを懐かしんで―というのとは違う。どんなに忠実に過去を再現したつもりでも、そこには時代のにおいがない。その時代に“常識”であった事柄は記録されず、調査の網から漏れてしまうからだ。だが、幽鬼たちは自分たちが生きた時代そのものを身にまとって現代に姿を現す。現代の風景から浮いた人物 ― それこそが幽鬼にほかならない。
「柏木さんからの手紙は?」 
「そこにあるぜ」
 スメラギは、あごでダッシュボードを指し示した。見覚えのある書体に、小夜子は手紙が柏木孝雄からのものだと確信し、黙って手紙を読み始めた。
 宮崎老人から託された依頼は、戦友、柏木孝雄の手紙を宮内小夜子に渡すこと、だった。宮内小夜子が手紙を手にした時点でスメラギはその場を立ちさるべきだった。そうすれば、その後の後味の悪い結末を避けられたかもしれない……。
宮内小夜子は、恋人からの手紙を何度も何度も読み返しては、声を押し殺して泣いていた。
「私、柏木さんが生きて帰ってくると信じて待っていたのよ……」
「……」
「戦争が終わったら、結婚しようって言ってくれて。でも、戦争が終わってもあの人だけが帰ってこなかった……。私たちのことは周りの誰も知らなかったから、私、あの人が生きているのか死んでしまったのか、知ることができなくて。結婚だって、親のすすめるがままだった……。どうしようもなかったの。でも、私はあの人を信じて待っているべきだったんだわ……」
ビートルの車窓を、ネオンの光がその尾を残して彗星のごとくにかけぬけていく。傍目には、白髪の短髪を尖らせた男がひとり、深夜のドライブを楽しんでいるようにしかみえていないだろう。夜光虫の漂う夜の海を泳ぐように、ビートルは光の舞う都会の夜を走りぬけていく。
「これからどうなるのかしら……」
「…死んだ人間には死んだ人間の住む世界がある。アンタはそこに行かないといけない」
「そうね…。あなたが連れていってくれるのかしら?」
「その前に、ちょっと寄るところがある」

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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