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あじろ けい

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渡せなかった手紙 6-3

 やってきたのは、巨大ショッピングエリアへと変貌を遂げつつある地域にひっそりと、しかししっかりと建つ小さな映画館だった。
 今時、手書きの看板を掲げ、モダンなディスプレイの続く周囲からは明らかに浮いている。だが、同じように深夜に光を放ちながら、その映画館だけがどこかあたたかい、ぬくもりのある光を湛えて、人の出入りが絶えなかった。
 映画館の名は世界座。戦前から続く映画館で、惜しまれつつ、この夏で閉館することが決まっていた。閉館までの期間、金曜の夜はオールナイトで古い映画を中心に上映している。今夜の映画は「天井桟敷の人々」だった。
 宮内小夜子は、なぜこの古びた映画館へ連れてこられたか、その理由に察しがついたらしい。スメラギがビートルをとめるのを待たずに、ドアを通り抜け、すぅーと映画館へと姿を消していった。
「私たち、よくここで映画を観たの」
 夜中だというのに、館内は満員に近い入りだった。スメラギの目には、通路にまで溢れだした人々の姿が見えていた。かつて世界座に通った人々の霊が、最後の上映会に集っていた。
「柏木さんも来ているのかしら」 
小夜子の目が、幽鬼の観客たちの間に柏木の姿を探していた。
スメラギは黙って首を横に振った。たちまち小夜子の顔が曇った。
「上にいる」
 スメラギの視線は、ぼんやりと明かりの灯る映写室へとむいていた。
 ロビーに出ると、長身の男がスメラギを待ち構えていた。黒いスーツに黒いタイ、スメラギと目があっても挨拶するわけでもない無愛想なその男は、死神だ。
「幽鬼はどこだ」
「今ちょっと……」
 小夜子をあの世へ連れ帰ってもらうため、映画館へつくなり、スメラギはケータイで死神を呼び出した。
幽鬼のこの世での心残りを解消した後には、死神を呼び出し、幽鬼をあの世へ連れ帰ってもらうのが決まりだった。小夜子は依頼を受けた相手ではなかったが、この世にとどまり続ける幽鬼を発見、保護したからには死神に通報、あの世へ送り届けてもらうよう手配するのがスメラギの義務であった。
「手紙を渡すのが、今回の依頼じゃなかったのか」
「……」
「手紙は渡したのか」
「ああ」
「で、お前はこんなところで何をしているんだ」
「……」
 死んだ小夜子の魂の行方を追いながら、スメラギは、小野篁に頼んで秘かに柏木孝雄の行方を捜してもらっていた。
 小野篁が管理する地獄のデータベース、鬼籍には、この世の生きとし生けるもののすべての情報が記載されている。死に場所はもちろん、いつ死ぬのか、どう死ぬのか、生きている間の行い、死後の行く先、天上界か地獄か、はたまたこの世に再び生を受けるのか。
 柏木孝雄は、吉田健二という男として生まれ変わり、20歳の現在は、映画に携わる仕事がしたいと、世界座でアルバイトをしていた。
 その事実をつかんだスメラギは、小夜子を柏木孝雄の生まれ変わりと会わせてやろうと、柏木孝雄=吉田健二が働く世界座へとやってきた。
「男と会わせてやってるんじゃないだろうな」
 図星だった。
 死神にあの世に連れていかれる前に、ひとめでも、かつての恋人、柏木孝雄の魂をもつ男にあわせてやりたい――スメラギのささやかな思いだった。
 スメラギの沈黙を肯定と受け取った死神は、
「帰る。俺は忙しいんだ」
 と、ロビーを後にしようとした。
「おい、待てよ。あ、あと5分。5分でいいからさあ。なあ、彼女は…」
「待つ必要はない。あの幽鬼は今日は回収できない。待つだけ無駄だ」
「どういう意味だよ?」
「あの幽鬼はお前に心残りの解消の依頼をする。あの幽鬼の願いをお前が叶えてやらない限り、俺の出番はない」
「宮内小夜子には何も頼まれてないぜ」
「これから頼まれる」
「なんでわかるんだ、そんなこと」
「わからないほうが鈍い。お前は女心ってものがわかってない。そんなだから女に縁がないんだ」
 女心ぐらい、わかっている、だからこそ、前世での恋人に会わせてやっているんじゃないか――
 死神にくってかかろうとしたその時、小夜子がスメラギのもとに駆け込んできた。
「お願い。あの人と話をさせて」
 無愛想で無表情の死神が、皮肉な笑みを浮かべた。
「依頼人だ」

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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