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あじろ けい

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なのなのな 3-2

 ドアの隙間から若い男が顔をのぞかせた。まるで爆風にでも煽られたかのように、男の長めの髪は根元から立ち上がり、好き勝手な方向を向いている。
「隣のもんだけど。壁叩くのやめてくんない? うるさいんだけど」
「うるさいってっ! 痛っ!」
 逆に文句を言われたのに腹が立ち、くってかかろうとした勢いで、桃子は自分がかけたチェーンに思いっきり鼻頭をぶつけてしまった。それを見た男は、無遠慮に大声で笑った。
「うるさいのはどっちよ! 日曜の朝から声聞かされて参ってるのはこっちよ!」
「声? 声って何?」
 男はにやついていた。わかっていて桃子に言わせようとしているのだ。まるでセクハラおやじではないか。オヤジというほど年はいっていない、桃子よりも二、三歳は若いだろうか。よく見ると、ひな人形のように整ったきれいな顔立ちをしている。
「ヤってる時の声よ」
 桃子は胸を張って言い返してやった。セクハラをするような連中は、女性が恥ずかしがる反応をみて楽しむ。連中の思うツボにはまらず、ぎゃふんと言わせるには堂々と振る舞った方がいい。
「ムラっとしちゃうから、たまんないんだ」
「しないっての」
 チェーンがなかったら、殴りかかっていっていたかもしれなかった。見知らぬ人間から身を守るためのチェーンだが、今は失礼きわまりない男を桃子から守ってしまっていた。
「近所迷惑なの。ヤるのは別に構わないけど、もう少し、音とか声とか、気をつかってくれない?」
「うるさいなら、そっちが耳栓でも何でもすればいいじゃん」
 男は悪びれた様子もなく言ってのけた。どうやら自分たちが静かにするという考えはまったくないらしい。
「ねえ、ちょっとさ、彼女と直接話させてくれる?」
 壁を叩くような隣人相手だからと用心し、六〇七号室の女は彼氏の男を差し向けたのだろう。だが、間に他人が入ると問題が大きくなるばかりでちっとも解決しない。
 桃子はいったん部屋のドアを閉めた。今日こそは面とむかって隣の女に文句を言うつもりだ。

 チェーンを外して再びドアを開けると、外の廊下に男が立ちはだかっていた。デニムにシャツをはおっただけ、シャツのボタンは申し訳程度に腹のあたりでひとつ留まっているだけだった。
「何で彼女と話したいの」
「何でって。女同士で話した方がいいの。こういう微妙なことは」
「微妙な話って何?」
「だから、その、いろいろとよ」
 桃子は視線を宙に泳がせた。男の裸の胸を見ないようにと意識すればするほど、目が開いたシャツの胸元にいってしまう。
「彼女と付き合っているなら、あんたとも話した方がいいかもね。さっきも言ったけど、あんたたちの喘ぎ声がうるさいのよ。聞きたくなくても聞こえちゃうの。男のあんたは気にしないかもしれないけど、彼女は女の子なんだよ。そういう声をみんなに聞かれているって知ったら恥ずかしいでしょ」
「みんなって誰?」
「上下左右、このフロアーの部屋の人はみんな聞こえていると思う。ここのマンション、壁が薄いから丸聞こえなの。あんたは遊びにくるだけだから知らないでしょうけど、彼女は住んでいるだから、知ってると思うけど」
「知らないと思うな」
 男は自信たっぷりに言い切った。そんなはずはないだろうと言いかけて、桃子は口をつぐんだ。
「……そうね、知らないかもね。知ってたら、マンション中の人に聞こえるってわかってて、声を出したりはしないものね。やっぱり、彼女と二人きりで話させて」
「彼氏いる?」
 唐突な質問に、桃子はめんくらった。いつになったら一メートルもない六〇七号室のドアにたどりつけるのか。
「てか、まさか処女?」
「ちがいますっ!」
 反射的に大声が出てしまった。これで近所中に桃子が処女ではないと知れ渡ってしまった。もっとも、桃子の年で処女とは誰も信じてはいないだろうが。
「彼氏がいようがいまいが、それと近所迷惑な騒音と何の関係があるのよ」
 桃子はくってかかった。
「愛し合っている時の声って、我慢したって出るもんじゃん。おならと声は出した方がいいって、小学校で習わなかった?」
「はあ? 意味わかんないんですけど」
「だからさ、声を出すのもセックスの一部だってこと。静かにヤってたら味気ないっしょ。ドンドン声出して盛り上がっていかないとさ。ねえ、ほんとに処女じゃない?」
「ちがうっての!」
 男の疑るような視線を振り切るようにして桃子は六〇七号室のドアに向かった。ドアを開けようとしたまさにその瞬間、素早い身のこなしで男が立ちはだかった。正面突破するつもりだった桃子は勢い余って、男の胸に顔をうずめるはめになってしまった。汗でほんのり湿った肌に唇が触れ、慌てて身を引いた桃子は、その反動で廊下の壁に後頭部を思い切り強くぶつけて床に倒れこんだ。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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