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あじろ けい

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なのなのな 4-3

  メイクを落とそうとして鏡を見、その必要はないと気づいた。ファンデーションは涙ですっかり流れ落ちてしまっていた。瞼が赤いのはアイシャドーのせいではなく、散々泣き続けたせいだ。
 彩花と別れてから、桃子は泣きっぱなしだった。電車でも、駅からマンションまでの道を歩きながらでも、人目も構わずに涙の出るままにしていた。涙を流し続ける桃子を誰もが振り返ったが、声をかけてくれる人間は誰ひとりいなかった。
 腫れてぷっくらと色っぽくさえ見える瞼の上に、桃子はおもむろにアイシャドーを乗せた。パールの入ったピンクのアイシャドーだ。目頭から目尻にむけてブラシをすべらせ、アイホール全体をピンク色に塗りこめていく。
 次にアイライナーで瞼の縁を濃く彩った。目が大きくなったような気がした。彩花の長い睫を思い出しながらマスカラを塗った。ピンクのルージュもひいてみた。鏡の中に現れたのは彩花のようにかわいい女の顔ではなく、センスのない色づかいで失敗した塗り絵のような桃子だった。
 彩花のメイクだけを真似ても、しょせん土台が違うのだから、彩花になれるわけがなかった。鏡から目を逸らし、桃子は、したばかりのメイクを落としてしまった。見た目だけ彩花になれたとしても、貴一に好きになってもらえるわけではない。
 熱いシャワーを浴び、タオルで濡れ髪を乾かしながら、桃子は冷蔵庫から缶ビールを取り出した。プルトップをあけるなり、一気に半分近くまで飲み干してしまった。
 プレーヤーのスイッチを入れるとすっかり聞き慣れたスモーキーな歌声が流れてきた。隣近所の迷惑を考えず、桃子は音量をあげた。今夜は音に飲み込まれてしまいたい。
 桃子はバッグの中から封筒を取り出した。迷いながら結局買ってしまったアデルのライブチケットが二枚入っている。今日というか、日付が変わったので昨日の昼休みに受け取ったチケットだ。
 封筒から取り出したチケットを、桃子は指でつまんで宙にはためかせてみた。使い道のなくなったチケットは、部屋の空気をほんの少し揺り動かしただけだった。酒くさいため息をつき、桃子はやおらチケットを半分に引裂いた。
 貴一が彩花を好きだったなんて――よりによって、彩花に貴一と付き合うことを勧めるようになるなんて――
 枯れたはずの涙がまた湧き出てきた。頬を伝った涙は、膝を抱えてすわる桃子の膝頭へと流れ落ちていった。
 曲は「サムワン・ライク・ユー」に変わった。「あなたに似た人」、かつて恋人だった男の別の女との未来を祝福する歌だ。お幸せに、なんてうたっているけれど、嫌味のつもりなのかもしれない。少なくとも、今の桃子には、彩花と貴一の付き合いを祝う気にはまったくなれない。
 アデルの歌声の合間に、インターホンの鳴る音が流れ聞こえてきた。音がうるさいと誰かが文句を言いにきたのだろう。居留守を決め込むつもりだったが、インターホンは鳴りやまない。そのうち、ドアが激しく鳴り始めた。どうあっても桃子に面と向かって文句を言いたいらしい。仕方なく、桃子は重い腰をあげ、玄関にむかった。ドアスコープからはドアの外に立っている亮平の姿が確認できた。
「ごめん、今晩だけは勘弁して」
 ドアを開けるなり、桃子は言い放った。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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