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あじろ けい

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なのなのな 4-4

「え、なに?」
 先制撃をくらい、亮平は目を白黒させた。寝ているところを起こされたらしいTシャツに短パンというラフな格好だった。
「音楽がうるさいっていうんでしょ。わかってる。でも今夜だけは聴かせて」
 桃子は真剣なまなざしで亮平に頼み込んだ。
「違うって。文句を言いにきたんじゃなくて――」
 亮平は人差し指をたててみせた。
「これ、誰の何て曲?」
 ドアの隙間からアデルの歌声が廊下にこぼれていた。アデルというアーティスト名と「サムワン・ライク・ユー」という曲名を教えてやると、亮平は忘れまいとするかのように何度も繰り返した。
「もしかして、こういう系の音楽、好きなの」
 亮平はアデルと曲名とを交互に繰り返しながら、首を横に振った。
「彼女が気に入ったみたいでさ。何ていう曲か知りたいって言うから、聞きにきただけ。オレの趣味じゃない。オレはどっちかってーと、いつだかかけてた曲の方が好きだな」
「いつの話?」
「まりあちゃんとエッチしてた朝の曲」
「……メタル系ね」
「誰の何て曲だったのさ」
「キッスのベスト盤。気に入ったのなら貸そうか」
「ラッキー! オレんとこの部屋のポストにでも入れておいてくれたらいいからさ」
 今にも桃子に抱き付かんばかりの勢いで亮平は喜んだ。
「リョーヘイ、何してんのぉ」
 六〇七号室のドアが開いて、隙間から若い女が顔を出した。黒くてまっすぐな髪が肩からさらりと流れ落ちた。桃子と目が合うなり、女は愛想のいい笑顔を浮かべた。
「麻子ちゃん、この曲、アデルっていうアーティストの『サムワン』なんちゃらっていうんだってさ」
「『サムワン・ライク・ユー』ね……」
 桃子のつぶやきを無視して、亮平は一メートルもない六〇七号室のドアにむかってダッシュした。かと思うと、同じスピードで桃子の部屋の前まで戻ってきた。
「音楽、かけっぱなしにしといてよ。オレらこれからエッチするからさ。音量大き目でお願いしマース。音消しになってお互い都合いいっしょ」
 サビのメロディを口ずさみながら、亮平は六〇七号室へと戻っていった。
 ドアを閉めると、部屋のなかにたちまち音が満ちていった。行き場を失った音たちは窓にぶつかり、壁にはねかえされ、桃子の体に降り注いできた。降り積もる音に息苦しささえ感じる。
 わんわんと、桃子は声を上げて泣き始めた。泣いていると知られたくなくて音量をあげたのだが、今となっては泣き声を聞かれようと構いはしないはしなかった。腫れぼったい顔を見られた亮平にはどうせ泣いていたと勘付かれただろう。
 今夜だけは、子どものように大声で泣きわめいてしまいたかった。泣いたからといって貴一を忘れられるわけでも、諦められるわけでもないとわかっていながら、それでも、桃子は泣かずにはいられなかった。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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