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あじろ けい

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なのなのな 5-1

PC画面が真っ白になったので、慌てて操作を取り消すコマンドを打ち込んだ。画面には、間違えて全削除してしまったプレゼン資料が出現した。人生でも、前の行動を取り消せたらどんなにいいだろう。
 彩花に貴一と付き合うよう勧めたこと。
 彩花の男選びをかわってするはめになったこと。
 そもそも貴一を好きになったこと。
 どこまで取り消していったらいいのだろう。きりがない。そもそも、自分の取った行動を取り消せはしても、貴一が彩花を好きになったことは取り消せないのだから、何をどうあがいても現状を変えられはしない。
 貴一は彩花をホテルに誘った――
 貴一の気持ちを変えられないというのなら、世界のすべてをクラッシュさせてやりたい。
 マウスの横に置いたケータイに目をやる。着信音の鳴り出す気配はまるでない。桃子はケータイを手に取り、着信記録を確かめた。最後の着信は22時、彩花からのメールだった。
《ホテルに誘われた。どうしたらいい?》
 メールにはそうあった。
《まだ早いよ》
 とっさにそう返信した。それに対する彩花の返信はないまま、三十分が過ぎようとしている。彩花は桃子の指示に従って貴一を拒否しただろうか。
 メールを受け取ってから、残業どころではなくなってしまった。コピーするつもりが削除していたり、ペーストする場所を間違えたり、妙な記号を打ち込んでいたり、そのたびに取り消しのコマンドを打ち込むので、作業はちっともはかどらなくなった。このままでは、保存するつもりのものをゴミ箱に捨ててしまいかねない。
 メールが届いていないのかもしれない。桃子は再びケータイを手にとって送信履歴を確かめた。メールは確かに彩花宛てに送信されていた。三十分前だった。
 誘いを断るのに三十分もかからない。でも、三十分もあれば……
 貴一と彩花が付き合いはじめてから三か月が経とうとしていた。早いのか遅いのか、相手にもよるだろうから、桃子には判断できない。早いと言ってしまったのは、貴一と彩花が関係を持つという現実にまだ耐えられないという意味だった。
 貴一が彩花と付き合うことになってから、いつかはこういう日がくるとわかっていたはずだった。貴一の優しい眼差しが彩花だけにそそがれていると考えるだけでも狂いそうな気持ちになるのに、その唇が彩花のものと重なる、その手が彩花の肌に触れると想像しただけでも、息がつまりそうになる。貴一の肌に彩花が触れるのかと思うと、まるで自分の体を触られでもしたかのような悪寒がする。
 ケータイをまた手に取った。彩花からのメールは来ていない。深呼吸をして、桃子はPCにむかった。誰もいないオフィスに、キーボードを叩く音だけが空しく響き渡る。
「プレゼンの準備?」
 微かにアルコールを含む息が肩にかかった。振り返ると、貴一がPC画面をのぞき込むようにして背後に立っていた。
「何のプレゼン?」
「新商品のプレゼンです」
 桃子はマウスに手を置き、画面をスクロールアップしていった。画面の明るさに目を細めながら、貴一はプレゼンを真剣に眺めていた。
「手帳? いろんなものが出回っているから、目新しくはないね」
「そうなんですけど、私が考えているのは、スケジュール管理のための手帳ではなくて、イベントまでのカウントダウンをする遊び心のある手帳なんです。外国には、アドベントカレンダーといって、クリスマスまでの毎日をカウントダウンするカレンダーがあるんですが、それをヒントにしたもので、カレンダーではなくて、手帳でやってみたらおもしろいかなって」
「毎日めくっていくだけの手帳? それは手帳とはいえないだろ」
「手帳にはあらかじめ、その日にすべきことを印刷しておきます。たとえば、イベントがクリスマスだとしたら、それまでの毎日のページには、『プレゼントは買った?』とか『パーティーの用意は万端?』だとか。使う時には、プレゼントに買った物だとか、買いに行った場所だとかを書きこむようにして。ただし、書きこむ内容はイベントに関係のあるものだけにして、イベントが終わったら思い出としてとっておけます」
「ターゲット層は?」
「若い女性です。イベントもいろいろ考えていて、今のところ、クリスマスがメインですけど、バレンタインまでのカウントダウンもいいかなって」
「ふうん」
 と言ったきり、貴一は腕組みして桃子の顔をじっと見つめた。先に視線を逸らしたのは桃子の方だった。
「らしくないね」
 桃子ははっと顔をあげ、貴一の顔を見上げた。
「らしくないって、どういう意味ですか」
「どうって……」
 今度は貴一が視線を逸らす番だった。
「立木が提案する商品は実用性第一といったものが多いだろう? 特定のイベントのスケジュールだけを書きこむ手帳なんて、実用性のあまりないものを提案するなんて、何ていうか、凛としてクールなイメージの立木らしくないなって」
「凛としてクールなのが私だって、どうして先輩にわかるんです? 私でもないのに」
「わかるさ。付き合いは長いんだ、立木のことなら何でもわかってるさ」
 貴一は無邪気に笑った。そういう貴一だが、桃子が六年もの長い間寄せてきた気持ちは知らないのだ。



日1回のペースだと月末までに完結しないので、ここから1日2回更新ペースでいきます。
朝8時と夕方5時に更新します。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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