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なのなのな 5-2

「やっぱり、やめます、この企画」
 きっぱりと言い放ち、桃子はファイルを閉じた。
「何で?」
「だって、私らしくないんですよね、この企画」
 沈黙が二人の間を漂った。
「やりたいんじゃないの、この企画」
「……」
「人にどうこう言われたくらいでやめるだなんて、それこそ立木らしくないな」
 貴一は桃子からマウスを取り上げ、ファイルをダブルクリックで開いた。中腰の姿勢で、椅子にすわる桃子に覆いかぶさるような格好でマウスを操作し、画面をスクロールさせ、何度かページを行ったり来たりした挙句、とあるページを画面に表示させた。
「ここのページに『母子手帳としても』ってコピーがあるけど、どうだろうな。確かに、出産は一大イベントだけど、生まれてくる日はクリスマスのように特定の日と決まっているわけじゃないだろ。予定日はあるだろうけど、それはあくまで予定日であって、ずれる方が多いんだから」
「確かにそうですね」
 桃子は該当箇所のコピーを消した。
「出産は個人的なイベントですものね。まずは、日付が決まっているイベントがらみの手帳から考えてみます」
「イベントが終わったら思い出として保存しておくということは、手帳そのものも取っておきたくなるようなものを用意しないと。デザイナーは決めた?」
「彩花を指名しようかなと」
 彩花の名前を口にしてから、しまったと桃子は唇を噛んだ。彩花をホテルに誘ったはずの貴一がオフィスにいる。彩花と何かがあったことは明らかだった。桃子はそっと貴一の顔をうかがったが、彩花の名前を聞いても貴一に変わった様子はなかった。
 仕事で問題を抱えても顔色ひとつ変えることなく、貴一は淡々と対処する。新商品が当たっても、バカみたいに騒いだりしない。どちらの場合でも、穏やかな微笑みを浮かべているばかりである。ポーカーフェイス。そんな貴一だから、自分を好きな可能性があるのかどうかはさっぱりわからなかったし、彩花を好きでいたこともわからなかった。
「長谷川さんなら適任だろうね」
「彩花、女の子アイテムのデザインは得意ですから」
「よく知ってるね。長谷川との付き合いはどれくらい?」
「同期なので、六年です」
「六年か――」
 貴一は隣のビルの明かりをぼんやり眺めていた。
「俺、長谷川と付き合ってるんだ――もう三か月になるかな」
 桃子が驚かないので貴一は察したようだった。
「長谷川から聞いてた?」
 桃子はこくりと頷いた。
「女同士って何でも話すものなのかな」
「何でもっていうわけじゃないですけど――」
 彩花に話していないことはいくらでもある。たとえば、貴一を好きなことだとか……。
「長谷川が入社してきた時から気になってたんだ。可愛い子が入ってきたなって。男どもがだいぶ騒いでいただろ。たぶん、彼氏がいるだろうからと思ってずっと諦めていたんだけど、思い切って告白したら、付き合ってもいいって言われてさ」
 胸が苦しかった。桃子が貴一だけを見つめてきた同じ時間、貴一は彩花だけを見てきたのだ。桃子は白旗をあげた。隙あらばという気持ちがないでもなかったが、これでは完全撤退するしかない。
「付き合っているんだけど、何ていうか、彼女、俺のこと本当に好きなのかなって」
「何でそう思うんです?」
「彼女、俺といても上の空で、ずっとケータイをいじっているんだ。俺と一緒にいて楽しくないんじゃないかと思うんだ」
 ケータイの相手は桃子だった。彩花は、会話の受け答えすらも桃子の指示をあおぐ。おかげで、知りたくもないのに、桃子は、貴一と彩花のやり取りを知るはめになった。
「今夜もデートしてたんだけど、ケータイいじってたかと思うと、急に気分が悪くなったから帰るって言いだしてさ」
「……」
「男としての魅力に欠けてるってことなのかな」
 自嘲気味に貴一は笑った。液晶画面に照らし出されて頬が青白く光っていた。
「先輩は素敵な人です。先輩に憧れてる女子社員だっているんですから」
「へえ、そんな子がいるの」
「私だって、先輩に憧れてます」
 どさくさまぎれに告白したつもりだった。だが、貴一は真に受けなかった。
「たとえ立木だけだとしても嬉しいよ」
 桃子の頭をぽんと軽く叩き、「プレゼン楽しみにしてる」と言って、オフィスを去っていった。
 後には、あたってくだけた桃子のかけらが残っているばかりだった。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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