Profile

あじろ けい

Author:あじろ けい

最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
参加ランキング


にほんブログ村 小説ブログへ

素材サイト様
和風素材×フリー和柄素材 ネオ ジャポニズム
ホームページ作成用のサイケデリック調の和風素材や和柄素材、浮世絵調のフリー素材やデスクトップ壁紙のサイト
web*citron
シンブルで可愛い素材
十五夜
和素材の宝庫

無料写真素材フリー「花ざかりの森」
日本の森の美に感嘆
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

なのなのな 6-2

「ねえ、何で浮気なんかしたの」
「浮気って……そういうつもりじゃなくて」
「これが浮気でなくて何なの? 彩花は先輩と付き合っているんだよ。彼は彩花が先輩という彼氏がいるって知ってるの?」
「知ってるかもしれないし、知らないかもしれない」
「ねえ、ちょっと!」
「そんなこと、どうでもいいじゃない」
「どうでもよくないでしょ! 彩花には先輩っていうちゃんとした彼氏がいるんだよ!」
「選べなかったの!」
 彩花の大きな目がいつもにも増して潤んでいた。
「佐野さんは素敵な男性。浮気しないし、お金貸してくれなんて言わないし、体だけの関係でもないし、私のことをすごく大事にしてくれる。リョーヘイとは、街で声かけられて、知り合った。彼ね、私のタイプなの。好きで好きでのめりこんでしまうタイプの男。泣かされるだろうなとわかってて、それでも好きになった。私、リョーヘイみたいな男がやっぱり好きなの。佐野さんのこともあって、桃子に相談したかったけど、自分で決めろって言われてたし……。いろいろ考えたけど、どうしたらいいかわかんなくなっちゃって……」
 彩花はぬいぐるみを抱きしめたまま、ベッドの上に寝転んだ。
「ねえ、桃子、私、どうしたらいい?」
「どうって……」
 枕を涙で濡らし続ける彩花を見ているうちに、桃子まで泣きたい気分になった。裏切られた貴一の立場を思うと、彩花に対する怒りはあるのだが、それ以上にフラッシュバックしてきた失恋の思いに胸がしめつけられる。
 貴一のケータイから聞こえてきたサイレンの音と、窓の外から聞こえてきた音とは重なっていた。おそらく、貴一は彩花をマンションまでつけてきたのだろう。亮平と一緒にマンションに入って行く彩花を見て貴一は何を思っただろう。
「先輩とちゃんと話しなよ」
「しないとダメ?」
 枕から顔をあげ、桃子を見上げる彩花の瞳が赤くなっていた。桃子は深くうなずいてみせた。
「どうするかは、彩花が決めるの。今度こそ、ちゃんと考えて」

 *

「悪い、出かけに電話が入ってしまって」
 約束の時間に少し遅れてやってきた貴一は、急いだらしく息が乱れて、顔が赤かった。カウンターの桃子の隣に腰かけるなり、貴一は、顔なじみのマスターにむかって桃子のためのソルティドッグを注文した。
「久しぶりだな、立木とこうして二人で飲むの」
「四か月ぶりぐらいですね」
 「ペルソナ」には貴一と通った。間口が狭く店内にはカウンター席しかなく、十人も客が入ればいいほうだろう。静かに話ができるからと、仕事の相談にのってくれた貴一が連れてきてくれた。それ以来、仕事の相談は「ペルソナ」でするようになった。プレゼンが成功したり、商品が店頭に並んだり、企画した商品がヒットしたりすると、お祝いだといってやはり「ペルソナ」で飲んだ。貴一が彩花と付き合いはじめる前までは当たり前だった日々が遠くに思えた。
「プレゼンお疲れ。企画通ってよかったな」
「はい、先輩のおかげです」
 貴一はジントニック、桃子はソルティドッグの入ったグラスを傾けて乾杯した。この一か月、桃子は貴一と一緒に手帳の企画を練り直した。自分が出したアイデアだというのに、遊び感覚の文房具を打ち出していくことに抵抗を覚え始めた桃子を叱咤激励し続けたのが貴一だった。
「いや、立木の実力だよ。俺は資料とデータ集めを手伝っただけで、プレゼンそのものを仕切ったのは立木だから。立木がプレゼンしている間に、部長の腕組みが段々とほどけていくのを見てるのが面白かった」
「プレゼン中、部長を見てたんですか」
「部長の腕組みがとけていくのにしたがって眉もこう上がっていってさ」
 貴一は両手の人差し指を逆ハチの字にして自分の眉にあて、徐々に指を回転させていき、キレイな八の字をつくってみせた。プレゼンの内容に乗り気でない時、企画部長は両腕を組み、太い眉毛の眉根を寄せる癖がある。プレゼンの話に身が入っていくと、腕組みがとけ、眉があがっていく。その様子を再現してみせた貴一のコミカルな動きに、桃子は声をたてて笑った。
 貴一も笑った。以前は――貴一が彩花と付き合い出す前までは、真剣な仕事の相談の合間にふざけたことをしたり、世間話をしたりしたものだった。仕事に対して真摯な貴一も好きだが、茶目っ気のある貴一の素顔をふと垣間見たりしているうちに、貴一に惹かれていった。
 手帳の企画を手伝いたいといってきた貴一を、桃子は拒めなかった。彩花とのことがあってから出来るだけ貴一を避けてきたが、仕事に関しては貴一ほど頼りになる人間はいない。
 あの夜のことについて貴一は固く口を閉ざしていた。彩花とどうなったのか知りたい気持ちを抑え、桃子も一切触れようとしなかった。
 彩花が貴一と別れようと別れまいと、貴一の気持ちが自分にないことに変わりはない。いつまでも避けていられるわけではないのだから、仕事の先輩として尊敬する気持ちに切り替えていこう。
 今晩も、仕事の話で終わる。その時まで、桃子はそう思っていた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。