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あじろ けい

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なのなのな 6-5

「あれ、引っ越すの?」
 業者が最後の荷物を運び出し終わった後、開けっ放しのドアから亮平がひょっこりと顔をのぞかせた。がらんとした部屋を見回し、亮平は
「同じ間取りだけど、なんか広く見えるのな」
 と言った。不思議な光景だった。亮平はまるで自分の部屋にいるかのように寛いでいて、桃子にも亮平が自室にいる姿を容易に想像できるのだが、ここは桃子の部屋なのだ。荷物はなくなっても思い出がしみついている。六年間、貴一だけを思い続けてきた部屋。男など誰ひとりあげたことのなかった部屋。その部屋に乱暴な形であがりこんできたのが亮平だった。
「ベランダ伝いにこっちの部屋に渡ってくるようなことにはもうならないで」
 彩花がいるのに浮気するなという意味だが、亮平に通じただろうか。明日からは、亮平たちの息遣いに耳を塞ぐ必要もなくなる。桃子が部屋にいると気づかれまいと息を殺すような生活からも解放される。
「引っ越しそば、食わね?」
 腹を鳴らした亮平が誘った。桃子は笑った。
「引っ越しそばって、引っ越し先で配るものでしょ」
「あれだ、細く長く生きようっていう」
「それは年越しそば」
「何だっていいや。オレ、腹減ってんだ」
 そのまま、駅前にある小さな蕎麦屋に連れていかれた。たてつけの悪い引き戸を開けると、威勢のいい主人の声が飛んできた。
「カツ丼も捨てがたい……」
 壁に居並ぶメニューの札をみて、亮平は腕組みをして考えこんでいた。
「お蕎麦が食べたかったんじゃないの?」
「そうなんだけどさ、カツ丼ていう字を見ちゃうとさ……」
 たかだか食事について真剣に悩んでいた亮平だったが、意を決したかのように腕組みをほどいた。それから右手の人差し指をたて、左右に振り始めた。人差し指の先は、カツ丼とざるそばの札とをそれぞれ行ったり来たりしている。その間、亮平は節をつけて歌を歌っていた。
「どちらにしようかな 天の神様の言う通り あっぷぷのあぷぷ」
「あっぷぷのあぷぷ?」
 桃子は思わず聞き返した。
「なのなのなじゃなくて?」
「なのなのな? 何だそれ」
「どちらにしようかな 天の神様の言う通り なのなのな 鉄砲撃ってバンバンバン」
「聞いたことねえな」
 そう言うなり、亮平はスマホをいじりだした。
「地方によってバリエーションがあるんだと。天の神様の言う通りまでは全国共通だけど、その後が地方によって違うだとさ。『なのなのな 鉄砲撃って』なんだっけ」
「バンバンバン」
「鉄砲撃ってバンバンバンは……東京、神奈川、埼玉、千葉……関東で使われているんだってさ」
「へえ」
 桃子は亮平のスマホをのぞきこんだ。亮平が口にしたあっぷぷのあぷぷは主に関西方面で用いられているフレーズだった。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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