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あじろ けい

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なのなのな 7-1


「一か月でも二か月でも待つ」
 あの夜、貴一はそう言った。
 彩花とのことがあって戸惑っているだろうから、気持ちの整理がつくまで待っていると言い、付き合う気になったら金曜日の夜、「ペルソナ」まで会いに来てくれとも。
 店内に入るなり、マスターと目があった。会釈を交わすと、カウンター席に座っていた貴一が入り口の桃子を振り返った。
 桃子が隣の席にやってくるなり、貴一はソルティドッグを注文した。桃子がいつも飲むカクテル。貴一はジントニックと決まっている。
「すいません、ファジーネーブルを」
 貴一は目を大きく丸めてみせた。
「らしくないですか? 本当は甘目の方が好きなんです」
「立木について知らないことはまだあったか」
 貴一は額を軽く叩いて笑った。
 貴一が知らないことはまだ他にもある。ぬいぐるみが好きなこと、フリルのついたガーリーな洋服が好きなこと、貴一に片思いし続けてきたこと……。
「手帳の企画の進行具合は?」
「今、試作品をつくってもらっている所です。たぶん、来週にはあがってくるんじゃないかと「
 手帳のデザインは彩花にまかせた。彩花は桃子がイメージしていた以上のものを造り出してみせ、社内の女性社員の反応はまずまずだった。彩花とは仕事の話に徹し、亮平のことも貴一に告白されたことも一切していない。すべてが昔に戻ったかのようだった。
「先輩……」
 仕事の話にひとしきり区切りがついたところで、桃子は切り出した。だが、後が続かなかった。来る途中、あれだけ頭の中で繰り返し練習しちえた言葉が霧のように消えてなくなっていた。
「いいって、わかってる」
 貴一は微笑んでみせたが、どこか寂し気だった。
「立木が店に入ってきた時にわかったんだ――」
「すいません……」
 両膝の上に手を置き、桃子はうなだれた。あの夜、貴一に気持ちを打ち明けられた時にすぐにこたえられなかったことで、こたえは出ていたはずだった。あの夜以来、金曜日の夜がくるたび、桃子は落ち着かない気分になった。「ペルソナ」で貴一が自分を待っている。そうわかっていながら、二か月の間、どうしても足がむかなかった。
「好きな人がいるんだ――」
 貴一の言葉に、桃子はうなだれたまま頷いてみせた。
「自分でもよくわかりません。そういう対象としてみてきた人ではなかったから。でも、いつの間にか気になるようになっていて――」
「その人の前では、自然な自分でいられる?」
 はっとして桃子は顔をあげた。いつだって貴一は、漠然とした桃子の気持ちや考えをはっきりとした言葉にしてみせる。だからこそ、仕事の悩みを打ち明け、頼ってきたのだった。
「俺たちはよく似ているね」
 貴一は笑った。ふっきれたような軽くさやわかな笑い声だった。
「俺が立木を好きだとわかったのは、立木といると素の自分でいられると気づいたからなんだ」
「私は……誰の前でも自分を出したことがありません。彩花といても、です。他の人が勝手に抱くイメージの私でいました。苦しかったけど、慣れてしまって……。彼といると素の自分でいられるというか、彼は素でいた私の目の前に勝手に現れたというか……」
 氷がカランと音をたててグラスの中で揺らいだ。手持ちぶさた気味に、桃子はグラスを両手で揺らし続けた。
「彼とは付き合うの?」
「それは……。彼には他に付き合っている人がいるから」
 彩花に男がいるとわかった時の状況を思い出したのか、「俺たちは本当によく似ている」と貴一は繰り返した。
「先輩のこと、好きでした」
 別れ際、桃子はそう告げた。
「過去形なんだね」
 そう言ってジントニックを飲み干した貴一は顔をゆがめてみせた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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