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あじろ けい

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キャッチアップ 9

 それまで夜中近くまで帰ってこなかった母親が、夕方、自分が起きている間に帰ってくるようになったとあって、誠は大はしゃぎだった。帰ってくるなり、膝にまとわりついて離れない。土日も部屋にこもって勉強しようものなら、ドアの付近を行ったり来たりして、集中力がそがれた。それでも愛おしさが勝った。
 誠は一分、一秒の速さで成長を遂げていく。昨日できなかったことが、今日には出来ている。不安定だった足取りも、この頃ではしっかりとしてきて、全力で駆け寄ってきて膝にぶつかられるものなら、青あざができる。好奇心の塊で、目に入るもの何にでも興味を示す。毎日、何かが誠のなかで弾けては形を成し、再び弾けては別の形のものになる。誠の成長ぶりは毎日みていても飽きなかった。
 そのうち、誠の方が母親の存在に慣れてきてしまい、帰宅しても家にいてもあまりまとわりつかなくなった。
「希少価値がなくなったみたい」
 母に愚痴をこぼすと、お母さんベッタリでマザコンになるよりマシじゃないのと返された。
 誠のバスへの興味だけは薄れなかった。
 週に三日、火曜から木曜まで、涼子は五時のバスに乗る。運転手は修一だ。母は誠を連れてバス停まで来る。他に乗客がいなければ、誠を乗せ、バスは終点まで行って折り返してくる。
 バスに揺られている間、涼子は修一とたわいもない会話をして過ごす。話題は誠のことが一番多く、次は涼子自身についてだ。修一は黙って涼子の話に耳を傾ける。中学時代の無口な修一に戻ってしまったわけだが、嫌な感じはしない。
 涼子のことを根掘り葉掘りたずねない修一といるのは心地いい。どうして離婚したのか、今はひとりでいるのか、これからどうしていこうというのか――何も聞かない修一が唯一尋ねたのは、涼子の重そうなリュックについてだった。栄養士になる勉強をしているといって、涼子は教科書を取り出してみせた。教科書の厚みと字の多さに、修一は目をぱちくりさせ、勉強は得意ではなかったし、今から何かを勉強しても頭に入らないと苦笑いを浮かべた。そう言いつつ、涼子が学校で習ってきたことを話すと面白がって聞いている。涼子も、修一に語って聞かせるのが楽しくて、修一の運転するバスに敢えて乗る。

「今度の週末、お焚きあげだけど、よかったら一緒にいかない?」
 バスを降りようとした時だった。修一の声が背中から追いかけてきた。エンジン音にかきけされまいと張り上げた声は震えていた。
「誠くんも一緒に。どうかな」
 付け足すように修一は言った。振り向きざまに頷いてみせ、涼子はバスを降りた。母に連れられて迎えに来ていた誠が足にしがみついてきた。
 老婦人の客を乗せたバスはその先のバス停へとむかって走りだした。心なしか、バスの後部が左右に揺れて見えた。浮かれてスキップでもしているようだった。
 お焚きあげとは、地元の人間がそう呼んでいるだけで、本来は神社のある山の名を冠したS…の火祭りと言う。毎年七月の下旬になると催される祭りで、S山の山頂で焚いた火で無病息災を祈願する。麓の公民館のあたりには屋台や夜店が出るので、子どもの頃、よく行ったものだった。地元に戻ってきて二年、祭りが行われているのは知っていたが、足を向けなかった。
 涼子は脛にしがみついている誠の頭をなでた。幼稚園や散歩で行く近所以外の外の世界を誠は知らない。お祭りに行くとなったら、きっと誠は大喜びするだろう。涼子自身の胸もまた、期待で高まった。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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