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あじろ けい

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キャッチアップ 10

 けばけばしい佇まいの夜店が軒先をぶつけるようにして居並び、どこからともなく漂ってくる醤油の焦げるにおいに食欲は誘惑される。行き交う人々の笑い声と、客引きの声とが星のまたたく夜空に響き渡る。
 生まれて初めての祭りに、誠は興奮していた。人混みの中を走り抜けていこうとして危なっかしいので涼子と修一とで誠の手を握っているのだが、誠はお構いなしに二人を引きずるようにして前へ前へと進んでいく。
 何も知らない人間がみたら、祭りを楽しんでいる親子に見えるだろう。誠も一緒にと誘われた時、正直言うと涼子はがっかりしたのだった。考えてみれば、修一と二人きりでどこかへ出かけるといったことは今まで一度もなかった。
 中学時代、修一とはいろいろな場所へ出かけた。映画館や遊園地、公園などに行ったが、いつも大輔と三人でだった。涼子が大輔を誘ったにしろ、大輔から誘われたにしろ、どこに行くのにも、修一がついてきた。
「昔さ、三人で祭りに来たことがあったよな」
「山下くんとでね」
 祭りのデートでも修一が一緒だった。どうしてついてくるのと苛立ったのを思い出して涼子は苦笑いを浮かべた。興奮しすぎて疲れたのか、修一の背中におぶられた誠はスヤスヤと寝息をたてている。
「大輔のやつ、小原と二人きりだと緊張するからついてきてくれって言ってさ」
「そうだったの」 
「あの日、祭りの日、浴衣着てきただろ。白地に薄紫の朝顔の模様が入った大人っぽい浴衣でさ。髪を上げてて、うなじが見えて、すごくドキドキした」
「そうだったかな」
 涼子が覚えていない柄を、修一は鮮明に記憶していた。
「山から下りる途中で、二人でどこかへ消えただろ」
 その出来事ならよく覚えていた。
 山頂のS神社で焚かれた火で無病息災を祈った後、参詣者は火を移した松明を掲げて山を下る。まだ幼い誠が歩くにはきつい傾斜があるため、今回は麓で夜店めぐりをして楽しむだけだが、山に顔を向ければ、参詣者が織りなす松明の列が闇を切り裂いて山腹を駆けおりていくさまが目に入る。
 あの夜、修一は涼子たちの少し後ろを歩いていた。足元を気遣っているうち、涼子たちは修一とはぐれてしまった。
「つまらなさそうにしてから先に帰ったんだと思ってた。山下くんも、多分そうだろうって言ってたし」
「そうか、大輔のやつ」
 鼻頭に皺を寄せ、修一は足元のアスファルトを蹴りつけた。
 山を下りた涼子と大輔は二人きりで夜店をめぐり、その帰り道、涼子はファーストキスを体験した。
「今だから言うけどさ、俺、小原が好きだった」
 思わず足を止め、修一の横顔を見上げた。後ろを歩いていた若い男が急に止まるなよと文句を言い、通り過ぎていった。
「大輔と付き合いだす前から好きだった。だから、大輔から小原と付き合うことになったって聞いてすごく嫉妬した。デートなんかしたことないからついてきてくれって頼まれてさ、行ってやるもんかって思ってたけど、小原に会えると思うと嬉しくて、くっついて回ってた」
「私、てっきり都筑くんには嫌われてると思ってた。だって、私のこと睨んでばっかりだったじゃない。いつも不機嫌で、きっと三人でいるのが楽しくないんだなって」
「そりゃ、楽しくはなかったよ。目の前で好きな女が他の男と一緒にいるのを見せつけられるんだから。それでも一緒にいればいつか奪うチャンスはあるかもって思ってた」
「怖いわね」
「バカだったな。色目でも使えばよかったのにさ。きっとすごい顔で小原を見てたんだろうな。だから嫌われたんだな」
 修一は乾いた笑いを漏らした。どうやら、涼子への思いは過去のものとして区切りをつけてしまったらしい。「好きだった」と、修一は過去形を用いた。だが、それならあの視線の意味は何なのか。
 涼子と修一とは再び並んで歩き出した。夜店を抜けると人の数が次第に少なくなっていく。駐車場へと向かう道のりを、涼子はゆっくりと歩き、修一は涼子の歩みに合わせていた。
 「好きだった」――修一の言葉を、胸の内で反芻してみる。真紀から伝え聞いて修一の気持ちは知っていた。だが、過去の気持ちの告白とはいえ、本人の口から聞いたとあって、胸に漣が立った。
「どうした?」
 ふいに足を止めた涼子にあわせて修一が立ち止った。涼子は顔を上げた。
「今は――」
 どう思ってくれているのかと続けようとした言葉は、思いがけない人物の登場によってさえぎられた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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