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あじろ けい

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キャッチアップ 14

 涼子が知らなかった川崎病を、真紀は知っていた。
「看護師だもん、知ってて当たり前か」
「看護師でも知らないことはいっぱいあります。たまたま幼稚園の知り合いに川崎病の子がいたから知ってるだけ」
 誠の入院からすぐに涼子は真紀に連絡を取った。看護師をしているからということは二の次で、頼りになる人間は真紀しかいなかった。
「来てくれてありがとね」
 夜勤明けだというのに、留守電のメッセージを聞いた真紀はその足で誠の病室に駆けつけてくれた。大部屋の窓際のベッドで、誠は薬が効いて、おとなしく寝ている。午前中だというのにすでに刺すような威力の陽ざしがカーテン越しにさしこんでいる。今日も暑くなりそうだ。
「心臓の血管に瘤が出来たりしたら、命にかかわるかもしれないって……」
 それまで淡々と入院までの経緯や医者から聞かされたことを語っていた涼子の唇がわなないた。全身の震えをとめようと、潰しかねない勢いで両手でペットボトルを握りしめた。真紀が差し入れてくれたペットボトルのジュースだ。他にも、菓子や本、水を使わないでも髪の洗えるシャンプーなど、24時間付き添いの涼子を気遣って細々したものを真紀は持ってきてくれた。
「まだ瘤が出来たわけじゃないでしょ」
 真紀は震える涼子の手にしっかりと自分の手を重ねた。そのぬくもりに涼子は泣き出しそうになった。
「でも、もしそうなったら」
「そうならないよう、治療しているの。最悪の事態を考えるのは医者の仕事。そうなったらそうなったで解決を試みるのも医者の仕事。しっかりしなさい、涼子。あなたは母親なのよ。母親が弱気になっていたら誠くんだって不安になるでしょ」
 口ではそう叱咤激励しながらも、真紀は、泣き出した涼子に肩を貸してくれた。人目をはばからず、涼子は声をあげて泣いた。誠が起きてしまうかもしれない、他の患者に迷惑かもしれないと思いながらも、嗚咽はとめられなかった。泣き続ける涼子の頭を、真紀は母親のように撫で続けていた。
「私、母親失格だわ」
 涼子は真紀の肩に頬を埋めたまま、つぶやいた。真紀の体からはほんのりアルコールの匂いがした。病院のにおい、医者たちの体臭。清潔な死の香り。
「熱が出た時、私はいつものちょっとした発熱だと思ったの。でも、母は異常を感じていた。いつも誠をみているから、何か違うってわかったのね」
「涼子は学生で忙しいんだから、誠くんにべったりというわけにはいかないでしょ」
 真紀の肩から顔をあげ、涼子は姿勢を正した。
「私、誠をほったらかして男と会ってたの。彼も同じ学校の生徒。最低よね。勉強しに行ってたんだか、男に会いに行っていたんだか。私、母親であることよりも女をとったのよ」
「それのどこが最低なの」
 はっとして見た真紀の顔は笑ってさえいた。
「母親だって恋愛したっていいじゃない。涼子は独身なんだから」
 庇ってもらったはずの涼子は咎めるように真紀を見据えた。
 悪い母親だから罰として誠が入院するはめになった。反省しているという態度でいれば赦されて誠は元気になるのではないか。そんな風に考えている涼子は、真紀の言葉に救われてはならなかった。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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