誠が入院したと知って、修一は見舞いに駆けつけてきてくれた。はじめこそ一人で来たが、その時に真紀と居合わせて以来、真紀と連れだって見舞いに訪れる。看護師に誠の父親と間違えられたのを気にしての行動なのだと、真紀からこっそり打ち明けられた。誠の父親に間違えられた件についてはその場で笑い話として流したはずだが、修一は涼子の体面を気遣っているという話だった。
熱が下がってくると、誠はベッドの上でじっとしていられなくなった。家から持ってきたおもちゃで遊んでもらうが、そうそう涼子も相手をしていられない。そんな時に修一が見舞いに来てくれて誠の相手をしてくれると助かった。その間、病院内の喫茶店で真紀とお茶を飲んで息抜きをしたり、買い物しに外出したりした。
家から持ってきた物や、真紀と修一からの差し入れもあって、誠の枕元にはたくさんのおもちゃや絵本が積み上げられている。だが、誠が飽きもせずに気に入って遊んでいるのは、修一からもらったラジコンのダンプカーだ。家にいた時は庭の土を入れて遊んでいたが、病室ではそうはいかない。仕方なく、これも修一からもらった積木を荷台に乗せては降ろすを繰り返して遊んでいた。他にはけん玉だとかヨーヨー、トランプ遊びなどを一緒になってしている姿は、仲のいい親子にしか見えない。
ふらりと見舞いに訪れた雅弘が出くわしたのは、まさに修一が誠と楽しそうに遊んでいる場面だった。
「中学時代の同級生の、都筑くんと広田さん」
ふたりを雅弘に紹介し、雅弘については誠の父親だと紹介した。
「遠藤です」
ふたりにむかって軽く会釈をし、雅弘は見舞いだと言って膨らんだ紙袋を涼子に渡した。中身は絵本と子ども向けのDVDだった。
「わざわざ、ありがとう」
涼子が紙袋を誠の枕元近くの床に置いている間、修一の目は誠の手にしたオレンジのダンプカーに注がれていた。ついさっきまで修一と遊んでいたおもちゃだ。
「それじゃ、私たちはこれで失礼します。行こう、都筑くん」
真紀に促され、修一は帰り支度を始めた。
「もう帰るの? もっとあしょんで」
誠が修一のジャケットの裾をつかんで引き止めた。今にも泣き出しそうなほど顔が赤かった。誠の頭を軽く撫で、修一は
「また来るからな」
と言い残し、病室を後にした。
「誠、元気にしてたか?」
半べそをかいたまま、誠は頷いてみせた。
「退屈してるだろうと思って、パパ、いっぱいDVDを持ってきたぞ」
雅弘はそう言って、紙袋からDVDを取り出し、携帯してきたポータブル再生機にディスクを差しこんだ。たちまちアニメのテーマソングが流れだす。画面が見えやすいよう、雅弘は再生機を持ってベッドの脇に腰かけた。
ダンプカーを胸に抱いたまま、しばらく画面を見つめていた誠だったが、そのうちに船を漕ぎ出したかと思うと、ダンプカーを枕に寝入ってしまった。誠を起こさないよう、ダンプカーを枕と取りかえ、涼子は肩まで毛布をかけてやった。
「DVD、消してくれる?」
涼子に言われ、雅弘はポータブル再生機を閉じた。
「この間の話、考えてくれたか」
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