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あじろ けい

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キャッチアップ 22

 誠の退院が決まった。
 子どもの頃の瘤は自然になくなることもあるという医者の見立て通り、誠の心臓壁に出来た瘤は消滅した。医者から検査結果を聞いた涼子はその場に泣き崩れた。
 とはいえ、一時期の危険な状態から脱しただけというだけで、川崎病との付き合いは一生続く。退院後も定期健診などで病院へ通わないとならない。
 初めのうち、誠の将来を悲観していた涼子だったが、退院が決まると気持ちも切り替わった。
 一病息災。定期的に医者に診てもらうのなら、別の病気にかかったとしても発見は早いだろうし、その分、治療も早く開始できる。かえって健康に過ごせるのではないか。
「涼子、明るくなったね」
 頻繁に見舞いに来てくれていた真紀も驚くほどの涼子の変わりようだった。
「明るくなったよね。何だか生き生きしている」
 退院のその日も、真紀はそれまで何度となく繰り返したフレーズを口にした。
「落ち込んでいる暇があったら、誠を守ることに時間を使わないともったいないなって。いろいろとやることが山積みよ。せっかく勉強したんだから、食事から健康な体作りを目指していこうかなって。車の免許も取ろうと思ってる。病院とか幼稚園とかの送り迎えがしやすいように」
 涼子は目を輝かせながら、将来を語った。差し入れや付き添いの交替、病院までの送り迎えと、両親や真紀には助けてもらったが、いつまでも頼りにするわけにはいかない。
「車があると何かと便利よね。学校はどうするの?」
「春からまた通う。仕事もこっちで探すことに決めたわ。東京ならいくらでも仕事はありそうだけど、一人で子育てをするのは難しいって身にしみてわかったから。こっちなら母もいるし、真紀もいて、いざって時には頼りになるし」
 茶目っ気たっぷりに涼子は舌を出してみせた。
「そうよ、何かあったら人を頼りなさい。困ってますって大声出すの。私だって、散々周りに世話になって、というか、迷惑かけて子どもを育ててきたんだから。世間に育ててもらうぐらいの気構えでいた方がいいわよ」
 世話好きな真紀は手際よく、涼子の荷物をボストンバックに詰めていった。誠の荷物は涼子の担当である。退院のこの日、父が迎えにくるはずだったが、数日前に傷めた足のせいで車が出せなくなってしまった。タクシーを使おうと考えていたところに助け船を出してくれたのが真紀だった。
「遠藤さんとは?」
 涼子は黙って首を横に振った。
「彼にも言ったけど、私たちはもう終わったの。そもそも、私たち、縁がなかったのよ。でも、彼は誠の父親ではあるから、誠に会いたかったら会えばいいし、誠のことについてなら今後も連絡はする。でもどうかしら。会いにくるかしらね……」
 誠の瘤が消失したニュースについてはメールで雅弘に知らせてあったが、返信はなかった。
「彼、子ども好きじゃなかった?」
「あの人の子ども好きっていうのは、自分の言うことを聞く子どもなら好きってことなの。彼のような人間は父親にはなれないし、なってはいけない人。彼の浮気に腹を立てて離婚したと思っていたけど、違ったのね。浮気はきっかけに過ぎなくて、父親としての彼に不安を感じたから別れようと決心したんだって、今になってわかったの」
「父親にはなれない人間、か。母親もそうだけど、男も女も、子どもを持てば自動的に父親、母親になれるとは限らないのよね」
 自戒の意味をこめて、涼子は真紀の言葉に深く頷いてみせた。
「彼はどうだった?」
 荷造りの手を休め、涼子は尋ねた。
「彼?」
「浩介くんの父親。どうして結婚しなかったの?」
 ああと小さく呟いて、真紀は肩をすかしてみせた。
「彼も父親にはなれない人だった。人生のパートナーにもなれない人だった。オスとしては美しい生き物だったけど」
 「オスとして美しい生き物」とは言い得て妙だった。真紀の子どもの父親は、涼子たちの高校に実習生としてやってきた。若くて健康的な肉体を持ち、端正で甘いマスクの持ち主の彼に夢中になったのは真紀だけではなかった。涼子も、彼が受け持っていた数学の授業ではドギマギして勉強どころではなかったと覚えている。
「こっそりメルアド渡して、実習が終わってから付き合うようになって、開放的な夏休みに体の関係ができて、実りの秋にめでたく妊娠よ」
 十五年の年月を経た今だからこそ、真紀は自嘲気味に笑って語るが、当時はひと波乱あったはずだった。
 秋の深まりとともに真紀は学校に姿を見せなくなり、冬休みが始まる直前、高校を退学した。退学の理由を、涼子は真紀から聞かされて知っていたが、真紀の妊娠が公になったのは出産後間もなくの頃だった。
 真紀が実習生に熱をあげていたことは周知の事実だったから、父親は実習生だと誰の目にも明らかだった。小さな町だから噂はすぐに広まった

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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