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あじろ けい

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キャッチアップ 23

「妊娠が分かった時、結婚の話にならなかったの?」
「なったわよ。私の両親は責任を取れって彼に迫ったもの」
「彼は何て?」
「結婚するって言ったわ」
「じゃあ、どうしてしなかったの?」
「そうだなあ……」
 真紀は視線を宙に泳がせた。揺れ動いた自分の感情、妊娠、出産に対する不安、相手の定まらない決意。どれが理由と言い切れるものかわかりかねるといった風に、沈黙が続いた。
「彼のお母さんが結婚には反対だったの。出産にもね。息子はまだ若い、結婚なんて早い、息子の将来に傷をつける気かとか、いろいろ言われたわ。子どもも堕ろせって言われたっけ」
「その話は初耳だわ」
「あらそう? 言ってなかった?」
 彼との間がうまくいっていないとは聞いていたが、中絶を迫られた話は初耳だ。
「同じ女から、自分の子を殺せって言われたのがショックだった。女ならわかるじゃない。お腹の子をどうにかすることだけはしたくなかったし、できなかった。命は尊いものだからという殊勝な気持ちからじゃなくて、自分の体がどうにかなってしまうんじゃないかっていう恐怖からで、私も子どもだったのね。自分のことしか考えていなかった。みんなそう。彼も、母親がお腹の子を始末しろって言い続けるものだから、赤ん坊さえいなくなれば結婚しなくて済むんだと思うようになって、そのうち母親と一緒になって堕ろせと言うようになったの。最初から結婚する気なんかなかったのね。私の父親の迫力にまけてつい口から出まかせで結婚すると言ったけど、本心では嫌だな、面倒だなって思ってたってわけ。彼も父親にはなれない人間だった――私も母親になる心構えがなかった」
「真紀はちゃんと母親しているじゃないの」
「今は、ね。でも十六の時は何も考えていなかった。子どもをつくるためにセックスがあるんだから、セックスしたら妊娠するのが当たり前なのに、ろくな避妊もしなかった。彼ね、フィニッシュさえ外で済ませれば妊娠しないと思ってたのよ。バカよね。まあ、私もバカだったけど」
「彼は二十歳過ぎの大人で、真紀は十六だったじゃない」
「そう、私は呆れるほど何も知らない子どもだった。セックスがどういうことかも、子どものことも、母親になるということがどういうことか何ひとつわかっていなかった。体はメスになりかけていて、セックスに興味を持ち始めていたところに、成熟した―といっても体だけだけど―オスが登場。当然、するわよね、セックス。相手が好きだからするんだなんて当時は思っていたけれど、今振り返ってみるとそんなに好きでもなかった気がする。ただ、セックスというものをしたいというそれだけの気持ちだった気がするの。同級生の男じゃ、子どもっぽくて相手にならないけど、彼は見てくれは大人だった。精神は未熟だったけど。結婚しなくて正解だった」
 真紀はくしゃっと顔全体に皺を作ったかと思うと、ぱっと笑顔を作ってみせた。後悔など微塵もないといった、明るい笑顔だった。
「今付き合っている人とは、結婚を考えている?」
 真紀は小首を傾げてみせた。
「今すぐはないかな。将来はわからないけど」
「浩介くんが成人するまでは結婚しない?」
「そういうことでもなくて。結婚は気持ちとタイミングの問題。今は気持ちがないし、そういうタイミングでもないってこと」
「遊びで付き合っているわけじゃないんでしょう」
「私は違うわ。彼はどうだかわからないけど」
「付き合ってどれくらい?」
 真紀は指を折って数えた。
「五年かな」
「浩介くんが十歳の時からなのね。浩介くんの反応はどうだった?」
「付き合って割とすぐに彼を紹介したけど、冷めたものだったわね。相性悪いのよ、彼と浩介」
「仲悪いの?」
「仲が悪いっていうか、とにかく相性が悪いの。考え方とかまるで正反対。浩介が白と思うことが彼には黒っていうこと」
「それじゃ、結婚は考えられないのじゃない?」
「どうして?」
 驚いたように真紀は目をぱちくりさせていた。その真紀の反応に驚いたのは涼子の方だった。
「どうしてって、結婚したら彼は浩介くんの父親になるわけでしょう? 相性が悪いと面倒じゃない」
「彼は浩介の父親になるために私と結婚するわけじゃないわ。結婚する時が来るとしたら、それは私のパートナーになるためによ」
「浩介くんと気があわないってわかって、彼との付き合いを止めようとは思わなかったの?」
「浩介の気持ちを少しは考えるけど、よほどの悪い人間でない限り、浩介と気があわないからって理由で付き合わないってことにはならない」
「逆に――」
 涼子はオレンジのダンプカーを手に取った。
「浩介くんと物凄く気のあう人だったら、タイプではない人でも好きになる?」
「ならないわ」
 真紀は即座に否定してみせた。
「私が必要とするのはパートナー、恋人であって、子どもの父親ではないもの。子どもの父親にふさわしい人だからってその人を好きになることはないわ」
「でも、子どもと仲のいい人を好きになったとしたら、それはそれでいいのじゃない」
 涼子はダンプカーをボストンバックの中に大切にしまった。
「子どものことがなくても好きになったと思える人なら、ね」
 誠が懐こうとどうしようと、修一に惹かれただろうか――涼子は胸の内で自分自身に問いかけた。雅弘と病室で会った日から、修一の見舞いはぱたりと途絶えていた。誠の父親を目の当たりにした修一の気持ちに何か変化があったとしても、涼子にはもうどうすることもできない。
 ボストンバックに荷物を詰め込んでしまうと、涼子はナースセンターに挨拶をしてくるからと真紀に誠についていてくれないかと頼んだ。
「都筑くん、誠が退院するって知ってるかな……」
「うん……」
 真紀は何故か歯切れが悪かった。
「何?」
「うん、本人からは涼子には言うなって口止めされていたんだけど……」
 深呼吸の後、真紀は言った。
「都筑くん、今、入院してるんだ」

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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