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あじろ けい

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キャッチアップ 25

「事故に遭ったって」
「広田の話だと『事故』らしいんだけど。俺は何も覚えていないんだ。また頭でも打てば思い出すかもしれないけど」
 修一が笑ったのにつられて涼子も微笑みを浮かべた。何が起きたのか詮索するのはやめにしようと涼子は胸の内で誓った。修一が元気になればそれでいい。
「都筑くんがお見舞いに来てくれないものだから、誠がさびしがっていたわ」
「こんな状態だからなあ」
 修一は、左半身の手と脚を動かしてみせようとしたらしかった。しかし、ギプスやサポーターで固定されているので、肘の先からの腕しかあがらなかった。
「誠くん、どうしてる?」
「今日退院なの」
「それはよかった!」
 興奮して体をあげようとした拍子に痛みを感じたらしく、修一は笑顔の額に皺を寄せていた。
「小原もほっとしただろ」
 心配されていた瘤は消失したものの、しばらくは薬を飲み続けること、定期的に検査を受けるために通院することなどを涼子は語った。
「大変だろうけど、定期的に医者に診てもらえるのなら、かえって安心できるかもな」
「一生抱える病気だから、うまく付き合っていく方法を考えるわ」
「無理するなよ。小原が倒れたりしたら大変だからな」
「大丈夫よ。これでも栄養士の勉強をしていたんだから、食べるものには気をつけているから。春からまた通うつもりでもいるし。それまでに車の免許も取ってしまおうかと思ってるの」
 頬を紅潮させながら未来を語る涼子を、修一は目を細めてみつめていた。
「仕事もこっちで探そうと思ってる」
 涼子がそう言った瞬間の修一の細い目は一際光輝いていた。
「栄養士ってどんな仕事するの?」
「簡単に言うと、栄養バランスのとれた食事を考えるのが仕事ね。保育園とか給食のメニューを考えたり、病院の食事を考えたりもするわ」
「小原、今すぐこの病院に就職してくれ」
 「病院の食事」と言ったとたん、修一が口をはさんだ。
「食事ぐらいしか楽しみがないのに、まずいんだ」
 修一のしかめっ面は驚くほど誠に似通っていた。熱が下がって元気になってきた誠も食事のまずさに閉口し、涼子を手こずらせた。そんな時は、真紀から差し入れてもらったポン酢やふりかけで味を調節して何とか食べさせたものだった。
 修一のベッドサイドテーブルにもポン酢の瓶があった。真紀からの差し入れらしい。テーブルには雑誌や本の間に埋もれるようにして花瓶に生けられたピンク色のガーベラがあった。
「退院までの我慢だから」
「辛いものがあるなあ」
 修一は深いため息を天井にむかって吹き上げた。
「どれくらい入院することになりそうなの?」
 涼子はポン酢の瓶に目をやった。動けないから入院しているだけで、食事制限もない健康な修一だから、ポン酢の味付けだけではそのうち我慢しきれなくなりそうだ。ガーベラの花言葉は何だろうとふと気になった。
「三か月はみておいてくれだとさ」
「クリスマスか、遅くてもお正月前には退院できるといいわね」
「だといいけど。早くくっついてくれよ」
 修一の目線がギプスの脚にむけられていた。
「さわってもいい?」
 涼子がきくと、ほんの一瞬の躊躇の後、修一は笑顔でうなずいてみせた。
 手のひらに、ギプスの冷たさがしみこんでいく。幾重にもぬりこめられたギプスの層の下には修一の脚が横たわっている。修一の肌に触れたような熱さを感じ、涼子はとっさに手を引いた。
 その拍子に妙なものが目に飛び込んできた。ギプスの表面に黒い糸くずのようなものがはりついている。顔を近づけてみると、それはサインペンのようなもので書かれた文字たちだった。そのほとんどは、「元気になってください」といった見舞いの言葉だった。
 字の上手い下手といった違いはあるものの、似通ったメッセージが連なっている中に、涼子の目を引く文字があった。筆圧の低い丸みを帯びたその文字は、明らかに女性の手によるものだった。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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