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あじろ けい

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キャッチアップ 27

 春になった。誠の経過は順調だった。今では涼子の心配をよそに、元気に走り回るまで回復した。まるで誠の身には何も起きなかったかのように錯覚するそんな時に限って、あの夏の出来事がすべて夢であったらならどんなにいいかという気になる。しかし、過去は変えられないのだから前に進むしかない。母親として今できること、将来へのリスクを出来るだけ少なくすることを心がけるしかない。
 秋から冬にかけての間に、涼子は車の免許も取得した。自分の車を買う余裕はないので、父親の車を借りて使っている。復学した専門学校にも今では車で通っている。
 教習所では恵美に出くわした。停学した理由を正直に話したところ、次の日に恵美からCDを手渡された。
「後期の授業の資料と、私の書いたレポートです。参考になれば」
 涼子は恵美の親切を素直に受け取った。二年目の前期までの授業は頭に入っているが、後期は未知の世界である。安定しているとはいえ、油断ならない誠を面倒を見ながら勉強するのに、恵美の資料は、砂漠のオアシスなみの価値があった。
 克弥とは別れたと恵美は聞かれないうちに言った。克弥は復職し、希望通り、栄養相談にものってもらえるインストラクターをしているという。恵美自身は保育園に就職が決まったということだった。
 涼子よりも一足先に免許を取った恵美は、授業のことでわからないことがあったら連絡くださいと言い残し、教習所を去っていった。人生のトラックを走り始めた恵美の背中を見送りながら、涼子は気を引き締めた。次は自分が走り出す番だ。

 その日、涼子は久しぶりにバスに乗った。父が終日車を使う用があるというので、いつもより早起きをしてバスに乗り、帰りのバスの時間を気にしながら授業を受けた。一年前の同じ授業内容、同じ講師。くらりとするような既視感のなかで、涼子の気持ちだけが確実に変化を遂げていた。
 涼子は五時のバスを待った。ベンチにはグリーンのショッピングカートに両手をもたれかけさせた老婦人が座っている。五時少し前、バスがやってきた。
 運転手は修一ではなかった。二十歳を少し過ぎたくらいだろうか、つるりとした肌がほんのりと赤く染まっていた。修一はシフトが変わったか、ひょっとしたら運転業務にはまだ復帰していないのかもしれない。
 もしかしたら会えるだろうかと期待していた涼子は苦笑いを浮かべて席についた。修一にはしばらく会っていない。退院するまでは誠を連れて時々見舞いに行っていたが、その後は涼子から連絡を取るのをやめた。
 ギプスの取れた修一は、踵に書かれた涼子のメッセージを目にしたはずだった。涼子の意思表示に対する修一の答えを待とうと自分からは連絡を絶ったが、修一からの連絡はふつりと途絶えた。沈黙は修一の答えなのだろうと、涼子は身を引いた。
 気持ちだけではどうにもならない恋愛もある。踏み出せないでいる修一を、涼子は責める気にはなれない。立場が逆であれば、涼子も躊躇しただろうから。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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