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あじろ けい

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渡せなかった手紙 1-3

 もともとひんやりとした空気に包まれていた事務所だったが、霊体の宮崎老人が来たせいで、さらに冷え込みはきつくなった。
 死人といると冷える。熱いコーヒーでも飲みたいぐらいだが、事務員の山口京子は相変わらず机にかじりついたまま、動こうともしない。依頼人にお茶のひとつも出さないなど気が利かないのだが、出したところで霊体は飲み食いはできないので、無駄になるだけではあったが。
「終戦の少し前でしたか。柏木が病に倒れたのです。マラリアでした。薬もろくにない戦地でしたから、彼は覚悟を決めたんでしょう。恋人の小夜子さんあてに手紙を書き、私に渡して欲しいと頼みました。二人は結婚の約束をしていました。柏木は手紙を私に託して安心したのか、気が抜けたようにあっという間に亡くなりました」
終戦後、復員した宮崎老人はその足で手紙の住所を訪ねたが、東京はどこも焦土と化し、あったはずの家も人もなく、それきり何の手がかりもなく、宮内小夜子の行方も知れず、60年もの歳月が流れてしまった。
「小夜子さんも、柏木の最期の思いを知りたいだろうと、どうにも気になりますので。どうぞ小夜子さんに手紙を渡してさしあげてください」
 老人は何度も頭を下げ腰を折りして、死神とともに事務所を後にした。スメラギに手紙を託したからには心置きなくあの世に行くことができるだろう。地獄へ落ちるか、天上界にのぼるか、はたまた再び人の世に生を受けるかは、生前の行い次第、閻魔大王の裁き次第だ。
 スメラギは、老人が残していった手紙を手に取った。60年の歳月を経たとは思えない状態の良いものだ。柏木孝雄の思いがこもり、誠実な友人、宮崎老人によって大切に今の今まで保管されていた手紙。
「生きてはいないか……」
 手紙を大切に持ち続けていた宮崎老人もこの世の人ではない。生きていれば80過ぎ、宛名の主もまた、この世にはいない可能性のほうが高い。それならそれで、この依頼は案外簡単に片付きそうだ。
 スメラギにとっては、生きた人間より死人たち相手の探偵業のほうがずっと簡単だ。生きた人間を捜索するにはいろいろとうるさい法の縛りがあるが、死人の捜索は閻魔大王のいる閻魔庁を訪れるだけで済む。
 黒電話の受話器を取りダイヤルに手をかけたところで、スメラギは思いなおして受話器をおろし、事務所を出て行った。かと思うと、ものの1分もたたないうちに戻ってき、机の上に投げ出されてあった紫色のレンズの丸メガネをつかみとると再び事務所のドアを閉め、出て行った。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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