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あじろ けい

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渡せなかった手紙 2-3

 もしかしたらと連れて行かれた先は、地獄のデータ管理室だった。
 ドアの中央には、居並ぶ鋭い歯がむき出しになった歯型が埋め込まれていた。人間のものにしては大きすぎ、奥歯から前歯まで、すべて犬歯のように尖っている。動物のものにしても、犬歯だらけの動物などいただろうか。
「鬼の歯型や」
 夜摩はそういうと、長く伸ばした爪の右手を歯型に突き入れた。
 とたんに、鋭い歯が夜摩の手首に噛みつき、その真紅のボディスーツと同じ色の血が流れ、歯の隙間から滴り落ちた。
「せきゅりてぃー、ゆうやっちゃ」
 誰も地獄には落ちたくないし、天上界にいきたいと思う。死後にむかう世界は、生前の行いによって決められ、生前の行いと死後の行く先は、鬼籍に記載されている。この鬼籍のデータを書き変えて、地獄行きをなしにしようという悪い輩がいるため、管理室は夜摩の血でしか開かないようになっていた。
管理室には、3メートル以上はあるだろうという天井まで届く書架が立ち並び、その間を地獄の罪人や鬼たちが行き来していた。彼らは書架から分厚い冊子を取り出しては個々の机へと運び、黙々とコンピュータにデータを入力していた。
「たかむらぁ~」
 鬼や罪人たちの間でせわしく指示を出している男に目をとめると、夜摩は甘ったるい声を出した。
「変な声出さないでくださいよ、気持ち悪っ!」
 “たかむら”と呼ばれた男は、小野篁(おのの たかむら)、地獄のデータ管理室室長である。
 “気持ち悪い”と言われたにもかかわらず、それどころか調子にのって、夜摩は猫なで声で、体をくねくねさせながら、
「検索にひっからんデータがあんねん」
スメラギをデータ管理室まで連れてきた夜摩の考えでは、宮内小夜子のデータはまだコンピュータ化されておらず、古い冊子に記録が残っているのではないかということだった。
「検索にひっかからない? そんなはずありませんよ。新しいものから作業してますから、最近のものならもうデータベースに入っているはずですけど」
 小野篁は“宮内小夜子”と入力した。すると瞬時に検索結果が画面に出、その数はスクロールして何ページにもわたった。
「さっきは何も出なかったんやで。ほんまやて」
「何か変なことしたんでしょう」
「しとらんて」
「はいはい」
「ほんまに、ちゃんとやったって」
 夜摩の必死の言い分を小野篁は取り合わない。メガネをかけて見た目はどこにでもひとりはいる優等生風、それでいてくるりとした目と丸い顔の輪郭の童顔のせいで、どこか抜けているような印象を与えている。見た目だけなら、22、3、スメラギよりも若くみえるが、実年齢は何百歳とずっと年上である。閻魔王をはじめとして、鬼や死者の霊など異形のものががうごめく地獄にあって、篁だけが生身の人間である。

「多すぎるなあ……」
 数千件にものぼるだろう検索結果に、スメラギは言葉もなかった。夜摩は柏木の手紙をコピーしまくって全員に送りつければいいと乱暴なことを言った。数打ちゃ当たる、誰かが柏木の恋人の宮内小夜子だろうということだったが、もちろんスメラギも小野篁も、夜摩の案など本気にしなかった。
「生きていればいくつの人なんです?」
「戦後60年以上はたっているから…少なくとも80は超えている、かなあ…」
「それなら、1945年ごろに19~25ぐらいで絞り込んでみましょう」
 その他にも死に場所を検索条件に追加、東京の住所だが、戦時中は地方に疎開する家もあったので、いくつか候補をたてて再び検索すると、結果は一気に3人にまでしぼりこまれた。一人はすでに死亡、地獄に落ちている。二人目は一週間後に死亡する予定、三人目は85歳で、まだ生きていた。
「地獄やて。何したんやろ。窃盗に、放火に殺人、こらまた、たいした女やな」
 夜摩は業(カルマ)の欄を見ながらケラケラと笑った。スメラギも、彼女、宮内小夜子の生前の行いに目を通したが、とても彼女が柏木の手紙を渡す相手には思えなかった。柏木ののびやかな字がまっすぐな彼の性格を表しているようで、そんな彼が愛した人が殺人を犯すような人であるとは思えなかった。だが、60年以上の月日は人を変える。彼女が宮内小夜子かもしれない。
「ついでやから寄ってくか? この女がその宮内小夜子やったら、手紙を渡してそれでこの仕事はおしまいやろ」
 死人が行く場所、しかも地獄を、生きた身でめぐるのは正直いって気分のいいものではない。地獄を脱け出した幽鬼たちの捜索を条件に、夜摩との取り決めでスメラギは何をしても地獄に落ちないことになっていたが、それなら一生遠ざかっておきたい場所なのである。
 だが、スメラギは結局、夜摩に案内を頼んだ。夜摩の言うとおり、彼女が宮内小夜子であれば、スメラギは手紙を渡さないといけないのだ。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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