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あじろ けい

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第4話 遠い横顔

街灯の投げかける丸い光の輪の中に入るなり、奈々子は足をとめた。逃げ回ってばかりでは、しゃくにさわる。一言、何か言ってやらないと気がすまない。
 街灯の明るさを味方に、奈々子は後ろを振り返った。
「ちょっと!」
 暗い夜道で女をつけまわすなんて卑劣だと続けようとした言葉がのどもとで立ち止まった。
 少し離れたもうひとつの街灯の陰に立っていたのは、太一だった。頭のすぐ上に街灯の明かりがあって、後光が差しているようにみえる。
 他に人影は見当たらない。奈々子を追い越していった人間もいない。だとすると、太一が足音の主、奈々子をつけてきた男なのだが?
「いつから、私の後ろにいたの?」
「スーパー出てから、ずっとだけど」
「他に、人はいなかった?」
「いや、俺だけだけど」
「もしかして、私のこと、つけてきた?」
「は?」
「つけてきたでしょ?! なんで痴漢みたいな真似するのよ!」
「痴漢って、わけわかんねぇ。ってか、俺んち、こっち方面なんだけど……」
 その瞬間、奈々子は足に力が入らなくなって、アスファルトの上にへたりこんでしまった。
「おいっ!」
 エコバッグを投げ出し、太一が奈々子のもとに駆け寄ってきた。太一の逞しい腕につかまり、奈々子はようやく立ち上がることができた。奈々子の手は、血の気を失って冷たく、小刻みに震えていた。
「びっくりさせないでよ。こっちは痴漢かストーカーかとおもったんだから……」
 文句のひとつでも言ってやろうと思いきったものの、本当は怖かったのだ。つけてきた男がストーカーではなくて、知り合いの太一だとわかって、ほっとしたのと同時に、別の怒りがこみあげてきた。
「家が同じ方向なら、どうして声かけてくれなかったの? 女が夜道をひとりで歩いていて、後ろから足音が聞こえたら怖い思いをするって思わなかった?」
「思わなかった……」
 自分の荷物と奈々子の荷物を手に、太一は奈々子と並んで歩き出した。
 ふたりの足音は一つに重なって、背後には誰の気配も感じられなかった。
「ストーカーとか、痴漢とか言って、『お前なんか誰が襲うか』、自意識過剰な女とか思ったでしょ……」
 奈々子はそっと太一の横顔をうかがった。奈々子の身長が低いせいもあるだろうが、隣に並ぶと太一は余計に背が高く感じられる。横顔が遠いなあと奈々子は思った。
 目と眉の間隔がつまった彫りの深い顔立ちをしているのに、暑苦しさを感じないのは、線の細い輪郭のせいだ。背が高く、体格もがっしりしているのに精悍なイメージがあまりないのは、顔つきにどこか繊細さが漂っているからだった。
「別に、そうは思わないけど。女の人は用心するにこしたことはないと思うし……」
 太一の表情はこわばっていた。痴漢と誤解されて、気分を悪くしているのだろう。奈々子と太一は黙ったまま、夜道を歩き続けた。
 太一ほど背が高いと、昼間であっても前を歩く女性は後ろを警戒してしまうかもしれない。まして夜道ならなおさらだろう。普通に女性の後ろを歩いているだけなのに、痴漢か何かのように誤解されて、嫌な思いをしたこともあったかもしれない。
 痴漢かと思ったとつい口に出してしまったことを謝ったほうがいいだろうか……などと考えているうちに、ふたりは奈々子のマンションについてしまった。
「ここ、私のマンション……」
 エントランスにあがる階段の前で奈々子が足を止めると、太一は持っていたレジ袋を差し出した。半透明のレジ袋からレタスの淡い緑色が透けていた。道々、太一はレジ袋の中身をみてくれただろうか、やっぱりカップ麺を棚に戻しておいてよかった、と奈々子はそんなことを思った。
「ありがとう」
 レジ袋を受け取った奈々子がエントランスへの階段をのぼろうとすると
「悪かったよ、怖い思いさせて……」
 背後から太一の声が追いかけてきた。
 振り返った奈々子は、小さくうなずいてみせた。
「じゃ、俺んち、この先だから」
 そう言うなり、太一はすたすたと夜道に消えていった。背が高い分、歩幅も広く、奈々子がその後ろ姿を追ったときには、太一はすでに遠くを歩いており、奈々子のマンションを少し行った先の曲がり角の先に消えてしまっていた。

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

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